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2. 後拾遺和歌集第二
春下

花山院御製

三月三日桃の花を御覽じて

三千代へて成りける物をなどてかは桃としも將名け初め劍

清原元輔

天暦の御時の屏風に

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桃の花ありける所をよめる

あかざらば千代迄かざせ桃の花花も變らじ春も絶えねば
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[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads もものはなあるところを.

出羽辨

世尊寺の桃の花をよめる

故郷の花の物いふ世なりせばいかに昔のことをとはまし

堀河右大臣

永承五年六月祐子内親王の家の歌合し侍けるに此なかの題を人々詠侍りけるに詠める

櫻花あかぬあまりに思ふかな散らずば人や惜まざらまし

内大臣

題志らず

惜めど共ちりも止らぬ花故に春は山べをすみかにぞする

平兼盛

天徳四年歌合に

百年に散らずもあらなむ櫻花あかぬ心はいつかたゆべき

大中臣能宣朝臣

櫻花まだきなちりそなにゝより春をば人の惜むとか志る

源道濟

屏風の繪に櫻の花のちるを惜みがほなる所をよみ侍りける

山里に散り果てぬべき花故に誰とはなくて人ぞまたるゝ

右大辨通俊

太神宮のやけて侍りける事志るしに伊勢國に下りて侍りけるにいつきのぼり侍りて彼の宮人もなくて櫻いとおも志ろくちりければ立ちどまりてよみ侍りける

志めゆひしそのかみならば櫻花惜まれつゝや今日はちらまし

橘成元

山路落花をよめる

櫻花道みえぬ迄ちりにけりいかゞはすべき志賀の山ごえ

坂上定成

隣の花をよめる

櫻ちるとなりにいとふ春風は花なき宿ぞうれしかりける

清原元輔

花の庭にちりて侍りける所にてよめる

花の影たゝまくをしきこよひ哉錦をさらす庭とみえつゝ

藤原通宗朝臣

承暦二年内裏の後番の歌合に櫻をよみ侍りける

惜むにはちりも止まらで櫻花あかぬ心ぞときはなりける

永源法師

題志らず

心からものをこそ思へ山櫻尋ねざりせばちるを見ましや

土御門御匣殿

三月ばかりに花のちるを見てよみ侍りける

羨しいかなる花か散りにけむ物思ふ身しも世には殘りて

大貳三位

永承五年六月五日祐子内親王の家に歌合し侍るによめる

ふく風ぞおもへばつらき櫻花心とちれるはるしなければ

中納言定頼

題志らず

年をへて花に心を碎くかな惜むにとまるはるはなけれど

大江嘉言

家の櫻の散て水に流るゝを詠める

こゝにこぬ人も見よとて櫻花みづの心にまかせてぞやる

土御門右大臣

白河にて花のちりて流れけるをよみ侍りける

行末もせきとゞめばや白川の水とともにぞ春もゆきける

藤原爲時

粟田の右大臣の家に人々のこり花を惜み侍りけるによめる

後れても咲くべき花は咲きにけり身を限とも思ひける哉

和泉式部

庭に櫻の多く散て侍ければ詠める

風だにも吹拂はずば庭櫻ちるともはるのうちはみてまし

藤原義孝

三月ばかりに野の草をよみ侍りける

野邊見れば彌生の月の果る迄まだうら若きさいたづま哉

和泉式部

躑躅をよめる

岩躑躅をりもてぞ見るせこが着し紅ぞめの色に似たれば

藤原義孝

わぎもこが紅ぞめの色と見てなづさはれぬる岩躑躅かな

大中臣能宣朝臣

月輪といふ所にまかりて元輔、惠慶などゝ共に庭の藤の花をもてあそびてよみ侍りける

藤の花盛となれば庭の面におもひもかけぬ浪ぞ立ちける

齋宮女御

題志らず

紫に八しほそめたる藤の花いけに灰さす物にぞありける

源爲善朝臣

藤の花をりてかざせば小紫わがもとゆひの色やそふらむ

大納言實季

承暦二年内裏の歌合に藤花を詠める

水底にむらさき深くみゆるかな岸の岩根にかゝる藤なみ

よみ人志らず

民部卿泰憲近江守に侍りける時三井寺にて歌合し侍りけるに藤の花をよみ侍りける

すみの江の松のみどりも紫の色にてかくる岸のふぢなみ

藤原伊家

題志らず

道遠し井手へもゆかじこの里も八重やはさかぬ山吹の花

大貳高遠

沼水に蛙なくなりむべしこそきしの山吹さかりなりけれ

良暹法師

長久二年弘徽殿の女御の家の歌合にかはづをよめる

みがくれてすだく蛙の諸聲に騒ぎぞわたる井手のうき草

藤原長能

題志らず

聲絶えず囀れ野べの百千鳥殘りすくなき春にやはあらぬ

法圓法師

法輪に道命法師の侍りけるとぶらひにまかり渡る夜によぶこ鳥のなき侍りければよめる

我ひとりきく物ならば呼子鳥二聲まではなかせざらまし

中納言定頼

三月つごもりに郭公のなくを聞きてよみ侍りける

郭公思ひもかけぬ春なけば今年ぞまたではつ音きゝつる

大中臣能宣朝臣

三月つごもりの日惜春心を人々よみ侍りけるによめる

郭公なかずばなかずいかにして暮れ行く春を又も加へむ

永胤法師

三月つごもりの日親の墓にまかりてよめる

思ひ出づる事のみ繁き野べにきて又春にさへ別れぬる哉