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後拾遺和歌集第十八 雜四
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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18. 後拾遺和歌集第十八
雜四

橘季通

則光の朝臣の許にみちのくにゝ下りてたけぐまの松をよみ侍りける

武隈の松はふた木を都人いかゞと問はゞみきとこたへむ

能因法師

みちの國にふたゝび下りて後のたびたけぐまの松も侍りざりければよみ侍りける

武隈の松はこの度跡もなしちとせをへてや我はきつらむ

大江嘉言

河原院にてよみ侍りける

里人のくむだに今はなかるべし岩井の清水水草ゐにけり

江侍從

同じ所にて松をよみ侍りける

年へたる松だになくば淺ぢ原なにか昔の志るしならまし

左衛門督北方

もと住み侍りける家をものへまかりけるにすぐとて松の梢の見え侍りければよめる

年をへて見るひともなき古里に變らぬ松ぞ主人ならまし

源爲善朝臣

六條中務親王の家に子日の松をうゑて侍りけるを彼のみこ身まかりて後その松を見てよみ侍りける

君がうゑし松計りこそ殘りけれ何れの春の子日なりけむ

馬内侍

けふは中の子日とは志らずやとて友達の許なりける人の松を結びておこせ侍りければ詠める

誰をけふまつとはいはむ斯計忘るゝ中のねたげなる世に

大藏卿師經

緑竹不辨秋といふこゝろを

緑にていろもかはらぬ呉竹はよの長きをや秋といふらむ

前太宰帥資仲

永承四年内裏の歌合に松をよめる

岩志ろの尾上の風に年ふれど松のみどりは變らざりけり

御製

うへのをのこども松洞底におひたりといふこゝろをつかうまつりけるに

萬代の秋をも志らですぎ來たる葉かへぬ谷の岩ね松かな

藤原義孝

題志らず

み山木をねりそもてゆふ賤男は猶こりずまの心とぞ見る

民部卿經信

宇治にて人々歌よみ侍りけるに山家旅宿といふ心を

旅ねする宿はみ山にとぢられて正木の蔓くるひともなし

藤原範永朝臣

關白前のおほいまうち君の家にてかつまたの池をよみ侍りける

鳥もゐで幾よへぬ覽勝間田の池にはいひの跡だにもなし

藤原經衡

須磨の浦をよみ侍りける

立ち昇る藻汐の煙たえせねば空にも志るきすまの浦かな

中納言定頼

龍門の瀧にて

來る人もなき奥山の瀧の糸は水のわくにぞ任せたりける

辨のめのと

やよひの月龍門に參りて瀧のもとにて彼の國のかみ義忠の朝臣が桃の花の侍りけるをいかゞ見るといひ侍りければ

物いはゞとふべき物を桃の花いく世かへたる瀧の志ら糸

藤原兼房朝臣

みまさかの守にて侍る時瀧のまへに石たて水せき入れてよみ侍りける

堰入たる名社流れて止るとも絶えずみるべき瀧の糸かは

赤染衛門

大覺寺の瀧殿を見てよみ侍りける

あせにける今だに懸る瀧つせの早くぞ人は見べかりける

源道濟

法輪に參りてよみ侍りける

年ごとにせくとはすれど大井川昔の名こそ猶ながれけれ

祭主輔親

桂なる所に人々まかりて歌よみて又來むといひて後に彼のかつらにはまからで月の輪といふ所に人々まかりあひてかつらをあらためてきたる由よみ侍りけるにかはらけとりて

さきの日に桂の宿を見し故はけふ月のわにくべき也けり

源重之

修理大夫惟正信濃守に侍りける時ともにまかり下りてつかまの湯をみ侍りて

出づる湯のわくに懸れる白糸はくる人絶ぬ物にぞ有ける

後三條院御製

延久五年三月住吉にまゐらせ給ひてかへさによませたまひける

住吉の神は哀れと思ふらむむなしき舟をさしてきたれば

民部卿經信

沖つ風ふきにけらしな住吉の松の志づえをあらふ志ら波

惠慶法師

花山院の御ともに熊野へまゐり侍りけるみちに住吉にてよみ侍りける

住吉の浦風いたくふきぬらし岸うつ波のこゑ志きるなり

藤原爲長

右大將濟時住吉にまうで侍りけるともにてよみ侍りける

松みればたちうき物を住の江のいかなる浪か志づ心なき

平棟仲

住吉にまゐりてよみ侍りける

忘れ草つみてかへらむ住吉のきし方の世は思ひでもなし

源頼實

藏人にて侍りける時御まつりのつかひにて難波にまかりてよみ侍りける

思ふ事神は志るらむ住吉のきしの志ら波たか世なりとも

増基法師

熊野へまうで侍りけるに住吉にて經供養すとてよみ侍りける

ときかけつ衣の玉は住吉の神さびにけるまつのこずゑに

赤染衛門

擧周和泉の任はてゝまかり昇るまゝにいと重く煩ひ侍りけるを住吉のたゝりなどいふ人侍りければみてぐら奉り侍りけるにかきつけゝる

頼みては久しくなりぬ住吉のまつ此旅の志るしみせなむ

上東門院新宰相

上東門院住吉にまゐらせ給ひて秋の末より冬になりて歸らせ給ひけるによみ侍りける

都出でゝ秋より冬になりぬれば久しき旅の心地こそすれ

辨乳母

天王寺に參りてかめ井にてよみ侍りける

萬世をすめる龜井の水やさはとみの小川の流れなるらむ

前大納言公任

長柄の橋にてよみ侍りける

橋柱なからましかば流れての名を社きかめ跡をみましや

赤染衛門

天王寺にまゐるとてながらの橋を見てよみはべりける

わればかり長柄の橋は朽にけり難波の事もふるゝ悲しさ

伊勢大輔

上東門院住吉にまゐらせ給ひて歸るさに人々歌よみ侍りけるに

古にふりゆく身こそあはれなれ昔ながらの橋を見るにも

道命法師

錦の浦といふ所にて

名に高き錦の浦をきて見れば潜かぬあまは少なかりけり

増基法師

熊野に參りてあす出でなむとし侍りけるに人々、暫しはさぶらひなむや、神もゆるし給はじなど

[_]
[1]い侍ひりける
程におとなしの川のほとりにかしら白き鳥の侍りければよめる

山烏かしらも志ろくなりにけり我歸るべき時やきぬらむ
[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads いひはべりける.

藤原孝善

住吉に參りて歸りにけるに隆經の朝臣難波といふ所に侍ると聞きてまかりよりて日頃遊びてまかり上りけるに名殘戀しきよしいひおこせて侍りければ道よりつかはしける

わかれ行く舟は綱手に任すれど心は君がかたにこそひけ

讀人志らず

賀茂に參りける男の狩衣の袂の落ちぬばかりほころびて侍りけるを見て又まゐりける女のいひつかはしける

道すがら落ちぬばかりにふる袖の袂に何を包むなるらむ

かへし

ゆふ襷袂にかけて祈りこし神の志るしをけふ見つるかな

安法法師

祭のかへさに醉ひさまたれたるかた書きたる所を

整へしかもの社のゆふだすきかへる朝ぞみだれたりける

讀人志らず

實方の朝臣女の許にまうで來て格子をならし侍りけるに女の心志らぬ人してあらくましげに問はせて侍りければ歸り侍りにけり。つとめて女の遣しける

明けぬ夜の心地乍にやみにしを朝倉と云し聲はきゝきや

實方朝臣

かへし

獨のみ木の丸殿にあらませばなのらで闇に迷はましやは

赤染衞門

初瀬に參り侍りけるにきのとのといふ所に宿らむとし侍りけるに誰と志りてかなどいひければこたへすとて

名乘せば人知ぬべし名のらずば木丸殿をいかで過ぎまし

惠慶法師

貫之が集をかりて返すとてよみ侍りける

一卷にちゞ黄金をこめたれば人こそなけれ聲は殘れり

紀時文

かへし

古のちゞの黄金はかぎりあるをあふばかりなき君が玉章

清原元輔

紀時文が許につかはしける

かへしけむ昔の人の玉づさをきゝてぞそゝぐおいの涙は

祭主輔親

家集のはじめにかきつけゝる

花の蘂紅葉の下葉かきつめて木の本よりやちらむとす覽

康資王母

伊勢大輔が集を人の乞ひにおこせて侍りけるにつかはすとて

尋ねずは掻遣る方やなからまし昔のながれ水草つもりて

後三條院越前

後三條院の御時月あかゝりける夜侍る人など庭におろして御覽じけるに人々多かる中にわきて歌よめとおほせごと侍りければよめる

古の家の風こそうれしけれかゝる言の葉ちりくと思へば

後三條院御製

七月ばかりに若き女房月見に遊びありきける夜藏人公俊、新少納言が局に入りにけりと人々いひあひつゝわらひけるを九月つごもりがたにうへきこしめして御たゝうがみにかきつけさせ給ひける

秋風にあふ言の葉や散りぬらむ其夜の月のもりにける哉

赤染衛門

義忠の朝臣物いひける女の姪なる女に又すみうつり侍りけるをきゝてつかはしける

誠にや姨捨山の月は見るよもさらじなどおもふわたりを

讀人志らず

かたらはむといひて道命法師の許にまうできたる人のよみ侍りける

たえやせむ命ぞ志らぬ水無瀬川よし流れても心みよきみ

規子内親王

近き所に侍りけるに音し侍らざりければ村上の女三宮の許より思ひへだてけるにや花心にこそなどいひおこせたる返事に

いはぬまをつゝみし程に梔子の色にやみえし山吹のはな

藤原孝善

良暹法師のものいひわたる人にあひ難きよしをなげきわたり侍りけるに今日なむかの人にあひたるといひおこせ侍りければつかはしける

嬉しさをけふは何にか包むらむ朽果てにきとみえし袂を

和泉式部

語らひたる男の女の許に遣さむとて歌こひ侍りければまづ我思ふ事をよみ侍りける

語らへば慰む事もあるものを忘れや志なむ戀のまぎれに

六條齋院宣旨

五せちの命婦のもとに高定忍びにかよふと聞きて誰れとも志らでかの命婦の許にさしおかせ侍りける

忍び音をきゝこそわたれ時鳥通ふ垣根のかくれなければ

馬内侍

そらごとなげき侍りける頃かたらふ人のたえておとし侍らぬにつかはしける

うかりける簑宇の浦の空背貝空き名のみ立つは聞きゝや

藤原顯綱朝臣

御あが物のなべをもちて侍りけるを臺盤所より人のこひ侍りければつかはすとてなべにかきつけ侍りける

覺束な筑麻の神のためならばいくつか鍋の數はいるべき