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後拾遺和歌集第五 秋下
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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5. 後拾遺和歌集第五
秋下

中納言資綱

永承四年内裏の歌合に擣衣をよみ侍りける

唐衣長き夜すがらうつ聲にわれさへねでも明しつるかな

伊勢大輔

さ夜更けて衣志でうつ聲きけば急がぬ人もねられざり鳬

藤原兼房朝臣

うたゝねに夜やふけぬらむ唐衣うつ聲高くなりまさるなり

藤原長能

花山院歌よませ給ひけるによみ侍ひける

菅の根の長々してふ秋のよは月見ぬ人のいふにぞ有りける

齋院中務

選子内親王いつきときこえける時九月の十日あまりに曉ちかうなるまで人々眺むるにきし方行末も斯る夜はあらじなどいひてよみ侍りける

月はよし烈しき風の音さへぞ身に志むばかり秋は悲しき

大宮越前

山家秋風といふ心をよめる

山里の賤の松がきひまをあらみいたくなふきそ木枯の風

源道濟

題志らず

見渡せば紅葉志にけり山里は妬くぞ今日は一人きにける

堀河右大臣

永承四年内裏の歌合に

いかなれば同じ時雨に紅葉する柞のもりの薄くこからむ

藤原經衡

宇治にて人々紅葉をもてあそぶ心をよみ侍りけるによめる

日をへつゝ深くなりゆく紅葉の色にぞ秋の程は志らるゝ

上東門院中將

長樂寺にすみ侍りける頃人のもとより此頃は何事かととぶらひ侍りければよめる

この頃は木々の梢にもみぢ志て鹿こそはなけ秋の山ざと

藤原兼房朝臣

屏風の繪に車おさへて紅葉見る所をよめる

ふる里はまだ遠けれど紅葉ばの色に心のとまりぬるかな

右大辨通俊

紅葉なほ色あさしといふ心を今上よませ給ふついでにたてまつり侍りける

いかなれば船木の山の紅葉の秋は過ぐれど焦れざるらむ

惠慶法師

西の京にすみ侍りける人の身まかりて後まがきの菊を見てよめる

植ゑ置きし主人はなくて菊の花おのれ獨ぞ露けかりける

大貳三位

中納言定頼かれ%\になり侍りけるに菊の花にさしてつかはしける

つらからむ方こそあらめ君ならで誰にか見せむ白菊の花

伊勢大輔

上東門院菊合せさせ給ひけるに左のとうつかまつるとてよめる

めもかれず見つゝ暮さむ白菊の花より後の花しなければ

藤原義忠朝臣

紫にやしほそめたる菊の花うつろふ色とたれかいひけむ

大藏卿長房

後冷泉院の御時后の宮にて人々翫庭菊題にてよみ侍りける

朝まだき八重さく菊の九重にみゆるは霜のおける也けり

赤染衞門

菊の花おも志ろき所ありと聞きて見にまかりにける人のおそく歸りければ遣しける

きくにだに心は移る花の色を見に行く人は歸リ志もせじ

清原元輔

天暦の御時御屏風に菊をもてあそぶ家ある所をよめる

薄くこくいろぞ見えける菊の花露や心をわきて置くらむ

大中臣能宣朝臣

屏風の繪に菊の花さきたる家に鷹すゑたる人宿かる所をよめる

狩にこむ人にをらるな菊の花移ろひ果てむ末までもみむ

良暹法師

いもうとに侍りける人のもとに男こずなりにければ九月ばかりに菊のうつろひて侍りけるを見てよめる

白菊の移ろひゆくぞ哀なるかくしつゝこそ人もかれしか

藤原經衡

相摸、公資に忘られて後かれが家にまかれりけるにうつろひたる菊の侍りければよめる

うゑおきし人の心は白菊の花よりさきにうつろひにけり

中納言定頼

五條なる所にわたりてすみ侍りけるにをさなき子どもの菊を翫び侍りければよめる

我のみやかるゝと思へば古里の籬の菊もうつろひにけり

中納言資綱

永承四年内裏の歌合に殘菊を詠める

紫にうつろひにしを置く霜のなほ白菊とみするなりけり

前大納言公任

寛和二年正月入道前太政大臣大饗し侍りける屏風山里の紅葉みる人きたる所を詠める

山里の紅葉見にとや思ふ覽散果てゝこそとふべかりけれ

平兼盛

屏風の繪に山家に男女この志たに紅葉もてあそぶ所をよめる

唐錦色みえまがふ紅葉ばのちる木の本はたちうかりけり

清原元輔

山里にまかりてよみ侍りける

紅葉ちる頃なりけりな山里のことぞともなく袖のぬるゝは

御製

月前落葉といふ心を

紅葉の雨とふるなる木の間より綾なく月の影ぞ洩り來る

法印清成

落葉路を隱すといふ心をよめる

紅葉ちる秋の山べは白樫の下ばかりこそみちは見えけれ

堀河右大臣

故式部卿のみこ大井河にまかれりけるに紅葉をよめる

水上にもみぢながれて大井河むらごにみゆる瀧の白いと

中納言定頼

大井河にてよみ侍りける

水もなくみえこそわたれ大井河岸の紅葉は雨とふれども

能因法師

永承四年内裏の歌合によめる

嵐ふくみむろの山のもみぢ葉はたつ田の川の錦なりけり

藤原範永朝臣

題志らず

見しよりも荒れぞ志にける石上秋は時雨の降り増りつゝ

伊勢大輔

後冷泉院の御時后の宮の歌合によめる

秋の夜は山田の庵に電のひかりのみこそもりあかしけれ

源頼家朝臣

師賢の朝臣梅津の山庄にて田家秋風といふ心をよめる

宿近き山田のひたに手もかけで吹く秋風に任せてぞみる

相摸

土御門右大臣の家の歌合に秋の田をよめる

秋の田になみよる稻は山川の水ひきかけし早苗なりけり

源頼綱朝臣

題志らず

夕日さす裾野のすゝき片よりに招くや秋を送るなるらむ

藤原範永朝臣

九月盡日惜秋心をよみ侍りける

あすよりはいとゞ時雨や降り添はむ暮行く秋を惜む袂に

九月盡日終夜惜秋心をよめる

明け果てば野べをまづ見む花薄招くけしきは秋に變らじ

法眼源賢

九月盡日よみ侍りける

秋はたゞけふ計ぞと詠むれば夕暮にさへなりにけるかな

大貳資通

九月盡の日伊勢大輔がもとにつかはしける

年つもる人こそいとゞをしまるれけふ計りなる秋の夕暮

源兼長

九月晦夜よみ侍りける

終夜詠めてだにもなぐさまむ明けてみるべき秋の空かは