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後拾遺和歌集第十三 戀三
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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13. 後拾遺和歌集第十三
戀三

後朱雀院御製

陽明門院皇后宮と申しける時久しく内に參らせ給はざりければ五月五日うちよりたてまつらせ給ひける

あやめ草かけし袂のねを絶えて更に戀路にまよふころ哉

清原元輔

ぶくに侍りけるころ忍びたる人につかはしける

藤衣はつるゝ袖の糸よわみたえてあひみぬ程ぞわりなき

伊勢大輔

高階成順石山にこもりて久しうおとし侍らざりければよめる

みるめこそ近江の海に難からめ吹きだに通へ志がの浦風

叡覺法師

あひそめて又も逢ひ侍らざりける女につかはしける

秋風になびき乍も葛の葉の恨めしくのみなどかみゆらむ

大江匡衡朝臣

津の國にあからさまにまかりて京なる女につかはしける

戀しきに難波のことも思ほえずたれ住吉の松といひけむ

祭主輔親

源遠古が娘に物いひわたり侍りけるに彼が許にありける女を又つかへ人あひすみ侍りけり。伊勢の國に下りて都こひしうおぼえけるにつかへ人もおなじ心にや思ふらむとおしはかりてよめる

わが思ふ都の花のとぶさゆゑ君も志づえの志づ心
[_]
[1]あちじ

[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads あらじ.

光朝法師母

橘則光の朝臣陸奥守にて侍りけるにおくのこほりにまかりいるとて春なむ歸るべきといひおこせて侍りければ女のよめる

片しきの衣の裾は氷りつゝいかですぐさむ解くる春まで

藤原國房

遠き所なる女につかはしける

戀しさは思ひやるだに慰むを心におとる身こそつらけれ

大中臣能宣朝臣

人の語らふ女を忍びて物いひ侍りけるに物にまかりて歸りける道に此女を男田舎へゐて下り侍りけり。逢坂の關にゆきあひてせむ方なく思ひ侘びて人をかへしていひつかはしける

いづ方をわれながめまし邂逅にゆき逢坂の關なかりせば

讀人志らず

かへし

行歸り後に逢ふとも此度はこれよりこゆる物思ひぞなき

民部卿經信

あづまに侍りける人に遣しける

東路の旅の空をぞ思ひやるそなたにいづる月をながめて

康資王母

かへし

思ひやれ志らぬ雲ぢも入方の月より外のながめやはある

左近中將隆綱

おなじ人につかはしける

歸るべき程を數へてまつ人は過ぐる月日ぞ嬉しかりける

康資王母

かへし

東屋のかやが下にし亂るれば今や月日の行くも志られず

藤原惟規

題志らず

霜枯のかやが下をれとにかくに思亂れてすぐすころかな

増基法師

ものへまかりけるになるみの渡りといふ所にて人を思ひ出でゝよみ侍りける

かひなきは猶人志れず逢事のはるかなるみの恨なりけり

右大辨通俊

遠き所に侍りける女に遣しける

おもひやる心の空にゆき歸り覺束なさをかたらましかば

讀人志らず

清家が父の許にあはの國に下りて侍りける時彼國の女に物いひわたり侍りけり。父津の國になり移りて罷り上りければ女便りにつけて遣しける

心をば生田の杜にかくれ共戀しきにこそ志ぬべかりけれ

律師慶意

たのめたるわらはの久しう見え侍らざりければよみ侍りける

頼めしを待つに日數の過ぬれば玉の緒弱み絶えぬべき哉

讀人志らず

源頼綱の朝臣父のともに美濃國に下り侍りける時彼の國の女にあひて又おともし侍らざりければ女のよめる

淺ましや見しは夢かととふ程に驚かすにも成ぬべきかな

大和宣旨

中納言定頼が許に遣はしける

はる%\と野中に見ゆる忘れ水絶間々々をなげく頃かな

大納言忠家

題志らず

如何計嬉しからまし面影に見ゆるばかりの逢夜なりせば

讀人志らず

男有りける女を忍びて物いふ人侍りけり。ひまなきさまを見てかれ%\に成り侍りければ女のいひつかはしける

我宿の軒のしのぶにことよせてやがても茂るわすれ草かな

皇太后宮陸奥

成資の朝臣大和守にて侍りける時物いひわたり侍りけり。たえて年へにける後、宮にまゐりて侍りける車にいれさせて侍りける

あふ事を今は限とみわの山杉の過ぎにしかたぞこひしき

讀人志らず

五せちに出で侍りける人をかならずたづねむといふ男侍りけれど

[_]
[2]音せざりけれは女にかはりで
つかはしける

杉村といひて志るしもなかりけり人の尋ねぬみわの山本
[_]
[2] SKT reads 音せざりければ女にかはりて.

相模

題志らず

住吉の岸ならねども人志れぬ心のうちのまつぞわびしき

僧都遍救

思ひけるわらはの三井寺にまかりて久しう音もし侍らざりければよみ侍りける

逢坂の關の清水や濁るらむ入りにし人のかげもみえぬは

左京大夫道雅

題志らず

涙やは又も逢ふべきつまならむなくより外の慰めぞなき

前律師慶暹

語らひ侍りけるわらはのこと人に思ひつきければ久しう音もせで侍りけるにさすがにおぼえければよみて遣はしける

よそ人に成果てぬとや思ふ覽恨むるからに忘れやはする

大中臣輔弘

忘れじとちぎりたる女の久しうあひ侍らざりければつかはしける

つらし共思ひしらでぞやみなまし我も果てなき心也せば

和泉式部

久しうとはぬ人の音づれて又音もせずなり侍りにければいひつかはしける

中々にうかりし儘にやみにせば忘るゝ程に成も志なまし

題志らず

憂世をもまた誰にかは慰めむ思ひ志らずもとはぬ君かな

源政成

物いひわたり侍りける女おやなどにつゝむ事ありて心にもかなはざりければよめる

逢迄や限なる覽と思ひしを戀はつきせぬ物にぞありける

左京大夫道雅

伊勢の齋宮わたりよりまかり上りて侍りける人に忍びて通ひける事をおほやけもきこしめしてまもりめなどつけさせ給ひて忍びにも通はずなりにければよみ侍りける

逢坂は東路とこそきゝしかど心盡しのせきにぞありける

榊葉のゆふしでかけしそのかみに押返しても渡る頃かな

今は唯思絶えなむとばかりを人傳ならでいふよしもがな

又おなじ所にむすびつけさせ侍りける

陸奥のをだえの橋や是ならむふみゝふまずみ心まどはす

前大納言經輔

心ざし侍りける女のことざまに成りて後石山に籠りあひて侍りければよみ侍りける

こひしさも忘れやはする中々に心さわがす志賀のうら波

相模

中納言定頼いまは更にこじなどいひて歸りて音もし侍らざりければつかはしける

こじとだにいはで絶なばうかりける人の誠を爭で志らまし

題志らず

たが袖に君かさぬらむ唐衣夜な/\我にかたしかせつゝ

和泉式部

黒髮の亂れて志らず打臥せばまづかきやりし人ぞ戀しき

清原元輔

ある女に

移香の薄くなり行くたき物のくゆる思に消えぬべきかな

和泉式部

男に忘られてさうぞくなどつゝみておくり侍りけるにかはの帶に結びつけ侍りける

泣き流す涙に堪へで絶えぬればはなだの帶の心地社すれ

相模

題志らず

中たゆる葛城山の岩橋はふみ見る事もかたくぞありける

大貳良基

二條院に侍りける人のもとにつかはしける

忘れなむと思ふさへ社思ふ事叶はぬ身には叶はざりけれ

高橋良成

題志らず

忘れなむとおもふにぬるゝ袂かな心ながきは涙なりけり

大納言忠家母

如何計覺束なさを嘆かましこの世のつねと思ひなさずば

權僧正靜圓

あふ事のたゞひたぶるの夢ならば同じ枕に又もねなまし

和泉式部

心地れいならず侍りけるころ人のもとにつかはしける

あらざらむ此世のほかの思出に今一たびの逢ふ事もがな

藤原惟規

父の許に越の國に侍りける時重くわづらひて京に侍りける齋院の中將が許に遣しける

都にも戀しき事の多かれば猶このたびはいかむとぞ思ふ

周防内侍

心變りける人の許に遣はしける

契りしに非ぬつらさも逢事のなきにはえ社恨みざりけれ

西宮前左大臣

題志らず

忘れなむそれも恨みず思ふ覽戀ふ覽とだに思ひおこせよ

藤原道信朝臣

七月七日女の許に遣はしける

年の内にあはぬ例の名をたてゝ我れ棚機にいまるべき哉

増基法師

棚機をもどかしとのみ我がみしも果は逢見ぬ例とぞなる

馬内侍

題志らず

蜘蛛手さへかきたえにける笹蟹の命を今は何にかけまし