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後拾遺和歌集第二十 神祇六
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  

20. 後拾遺和歌集第二十
神祇六

長元四年六月十七日伊勢のいつき内宮に參りて侍りけるに俄に雨ふり風吹きていつきみづから託宣して祭主輔親をめしておほやけの御事など仰せられけるついでにたび/\御みきめしてかはらけ給はすとてよませ給ひける

盃にさやけき影のみえぬればちりの恐りはあらじとを志れ

祭主輔親

御和奉りける

おほぢ父うまご輔親三代迄に戴きまつるすべらおほむ神

和泉式部

男に忘られて侍りける頃貴ぶねにまゐりてみたらし川に螢のとび侍りけるを見て詠める

物思へば澤の螢も我身よりあくがれ出づる玉かとぞみる

御かへし

奥山にたぎりて落つる瀧つ瀬の玉ちるばかり物な思ひそ

此の歌はきぶねの明神の御返しなり。男の聲にて和泉式部が耳に聞えけるとなむいひつたへたる。

藤原長能

世中さわがしく侍りける時さとのとね宣旨にてまつりつかうまつるべきを歌ふたつなむいるべきといひければよみ侍りける

白妙の豊みてぐらをとりもちていはひぞそむる紫の野に

今よりはあらぶる心ましますな花の都にやしろさだめつ

此歌或人云ふ、世中さわがしう侍りければ船岡のきたに今みやといふ神をいはひておほやけも神馬たてまつりたまふとなむいひつたへたる。

惠慶法師

稻荷によみて奉り侍りける

いなり山みつの玉垣うちたゝき我ねぎ言を神もこたへよ

山口重如

すみよしの宮うつりの日かきつけ侍りける

住吉の松さへかはる物ならばなにか昔の志るしならまし

源兼澄

一條院の御時はじめて松尾の行幸侍りけるにうたふべき歌つかうまつりけるに

千早振松の尾山のかげ見ればけふぞ千とせの始なりける

大貳實政

後三條院の御時はじめて日吉の社に行幸侍りけるにあづまあそびにうたふべき歌おほせごとにてよみ侍りける

明らけき日吉の御神君がためやまのかひある萬代やへむ

藤原經衡

同じ御時祗薗に行幸侍りけるにあづま遊びにうたふべき歌めし侍りければよめる

ちはやぶる神の園なるひめ小松萬代ふべき始めなりけり

治部卿伊房

大原野の祭の上卿にてまゐりて侍りけるに雪の所々消えけるを見てよみ侍りける

榊葉にふる白雪はきえぬめり神のこゝろも今やとくらむ

能因法師

式部大輔資業伊豫守に侍りける時彼國の三島明神にあづま遊びして奉りけるをよめる

うど濱に天の羽衣昔きてふりけむそでやけふのはふりこ

讀人志らず

大貳成章肥後守にて侍りける時阿蘇の社に御裝束奉り侍りけるに彼の國の女のよみ侍りける

天の下育くむ神のみそなればゆたげにぞたつみづの廣前

増基法師

八幡にまうでゝよみ侍りける

こゝにしもわきていで劔岩清水神の心をくみも志らばや

蓮仲法師

住吉にまゐりてよみ侍りける

住吉の松の下枝に神さびてみどりに見ゆるあけの玉がき

讀人志らず

石清水に參りて侍りける女の杉の木の本に住吉の社をいはひて侍りければやしろのはしらにかきつけて侍りける

さもこそは宿はかはらめすみ吉の松さへ杉に成にける哉

藤原時房

貴ぶねにまゐりていがきにかきつけ侍りける

思ふ事なる河かみにあとたれてきぶねは人を渡す也けり

藤原範永朝臣

後冷泉院の御時きさいの宮の歌合に春日のまつりをよみ侍りける

けふ祭るみ笠の山の神ませばあめの下には君ぞさかえむ

釋教

光源法師

山階寺の涅槃講にまうでゝよみ侍りける

古のわかれの庭にあへりともけふの涙ぞなみだならまし

前律師惠暹

つねよりもけふの霞ぞあはれなる薪盡きにし煙と思へば

慶範法師

二月十五日の夜中ばかりに伊勢大輔が許に遣しける

いかなれば今宵の月のさ夜中に照しも果てゞ入りし成覽

伊勢大輔

かへし

世を照す月隱れにしさ夜中はあはれ闇にや皆まどひけむ

讀人志らず

二月十五日の夜月のあかく侍りけるに大江佐國が許につかはしける

山のはに入にし夜はの月なれど名殘はまだも清けかり鳬

伊勢大輔

太皇大后東三條にわたり給ひたりける頃其御臺に宇治前太政大臣のあふぎの侍りけるにかきつけ侍りける

積るらむ塵をもいかで拂はまし法にあふぎの風の嬉しさ

弁乳母

懴法おこなひ侍りけるに佛にたてまつらむとて周防内侍の許に菊をこひ侍りけるにおこせて侍りける返事に

八重菊に蓮の露を置き添へて九志なまでうつろはしつる

康資王母

太皇太后宮五部の大乘經供養せさせ給ひけるに法華經にあたりたる日よみ侍りける

さきがたき御法のはなにおく露や頓て衣の玉となるらむ

讀人志らず

故土御門右大臣の家の女房車みつにあひのりて菩提講にまゐりて侍りけるに雨の降りければ二つの車はかへり侍りにける。今一つの車に乘りたる人、講にあひて後、歸りにける人の許に

[_]
[1]遣しけ

諸共にみつの車にのりしかどわれは一味の雨にぬれにき
[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads つかはしける.

僧都覺超

月輪觀をよめる

月のわにこゝろをかけし夕べより萬の事を夢とみるかな

前大納言公任

維摩經の十喩のなかにこの身芭蕉の如しといふ心を

風ふけば先破れぬる草の葉によそふるからに袖ぞ露けき

小辨

同喩の中にこの身は水の月の如しといふ心をよめる

常ならぬ我身は水の月なれば世に住み遂げむ事も覺えす

伊勢大輔

三界唯一心

ちる花も惜まばとまれ世の中は心の他のものとやはきく

赤染衛門

化城喩品

こしらへて假の宿りに休めずば誠の道をいかで志らまし

康資王母

道とほみ中空にてやかへらまし思へば假の宿ぞうれしき

赤染衞門

五百弟子品

衣なる玉ともかけて志らざりき醉さめて社嬉しかりけれ

康資王母

壽量品

わしの山隔つる雲や深からむつねにすむなる月を見ぬ哉

前大納言公任

普門品

世を救ふうちには誰かいらざらむ普き門は人しさゝねば

遊女宮木

書寫のひじり結縁經供養しはべりけるに人々あまたふせをおくりけるなかにおもふこゝろやありけむ、志ばしとらざりければよめる

津の國の難波のことか法ならぬ遊び戯ぶれまでと社きけ

誹諧歌

讀人志らず

題志らず

笛の音の春面白く聞ゆるは花ちりたりとふけばなりけり

僧正深覺

橘季通みちのくにゝ下りて武隈の松を歌によみ侍りけるにふた木の松を人問はゞみきと答へ侍らむなどよみて侍りけるをつてに聞きてよみ侍りける

武隈の松は二木を三きと云へばよく讀るには非ぬ成べし

源道濟

題志らず

さかざらば櫻をひとのをらましや櫻のあたは櫻なりけり

藤原實方朝臣

まだちらぬ花もやあると尋見むあなかま暫し風に志らすな

大江嘉言

となりより三月三日に桃の花をこひたるに

桃の花宿にたてれば主人さへすける物とや人のみるらむ

藤原實方朝臣

三條太政大臣の許に侍りける人の娘を忍びて語らひ侍りけり。女の親腹だちて娘をいと淺ましく罪しけるなどいひ侍りけるに三月三日かの北の方三夜のもちひくへとて出しけるによめる

三日の夜の餅ひはくはじ煩し聞けば淀野にはゝ子つむなり

和泉式部

水無月のはらへをよみ侍りける

思ふ事皆つきねとて麻の葉をきりにきりても祓へつる哉

皇太后宮陸奥

ひるくひて侍りける人今は香もうせぬらむと思ひて人の許にまかりたりけるに名殘の侍りけるにや七月七日につかはしける

君が貸す夜の衣を棚機はかへしや志つるひるくさしとて

堀川右大臣

小一條院、入道前太政大臣のかつらなる所にて歌よませ給ひけるに紅葉をよみ侍りける

紅葉は錦に見ゆと聞きしかどめも綾に社けふはなりぬれ

増基法師

紅葉のちり果てたるに風いたくふき侍りければ

落積る庭をだにとてみる物をうたて嵐のはきに掃くかな

讀人志らず

人のすみたてまつらむ、いかゞといひたりければよめる

心ざしおほはら山の炭ならば思をそへておこすばかりぞ

天台座心源心

題志らず

雲居にていかで扇と思ひしに手かく計になりにけるかな

和泉式部

法師の扇をおとして侍りけるをかへすとて

儚くも忘られにける扇哉おちたりけりとひともこそみれ

題志らず

さなくてもねられぬ物をいとゞしくつき驚す鐘の音かな

少將藤原義孝

七月ばかり月のあかゝりける夜女の許につかはしける

忘れてもあるべき物を此頃の月夜よいたく人なすかせそ

小大君

三條院の御時うへのとのゐすとてちかく侍りける人々まくらをおとしてまかり出でければかきつけて殿上につかはしける

道芝やおどろの髮にならされて移れる香こそくさ枕なれ

讀人志らず

人の草合志けるに朝がほかゞみ草など合せけるにかゞみ草ちかければ

まけがたの耻かしげなる朝顏をかゞみ草にもみせてける哉

大納言道綱母

入道攝政かれ%\にてさすがにかよひ侍りけるころ帳のはしらにこゆみの矢をむすびつけたりけるをほかにてとりにおこせて侍りければつかはすとてよめる

思出づる事もあらじと見えつれどやといふに社驚かれぬれ

能因法師

人の長門へ今なむくだるといひければよめる

白波の立ち乍らだに長門なる豐浦の里のとよられよかし

大江匡衡朝臣

めのとせむとてまうできたりける女のちのほそく侍りければよみ侍りける

儚くも思ひけるかなちもなくて博士の家の乳母せむとは

赤染衛門

かへし

さもあらばあれ大和心し賢くばほそぢに付けて荒す計ぞ