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後拾遺和歌集第十六 雜二
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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16. 後拾遺和歌集第十六
雜二

大納言道綱母

入道攝政夜がれがちに成り侍りける頃くれにはなどいひおこせて侍りければ云ひ遣しける

柏木のもりのした草くれ毎に猶頼めとやもるをみる/\

馬内侍

こむといひてこざりける人の暮にかならずといひて侍りける返事に

待つ程の過ぎのみゆけば大井川頼むる暮も如何とぞ思ふ

讀人志らず

女の許にくれにはと男いひつかはしたるかへり事によみ侍りける

淺き瀬をこす筏士の綱弱み猶このくれもあやふかりけり

馬内侍

中關白通ひ始めける頃夜がれして侍りけるつとめて今宵はあかしがたくてこそなどいひて侍りければよめる

獨ぬる人やしるらむ秋の夜をながしと誰か君に告げつる

新左衞門

忍びたる男のほかにいであへなどいひ侍りければ

春霞たち出でむ事も思ほえず淺みどりなる空のけしきに

小馬命婦

爲家の朝臣物いひける女にかれ%\になりて後みあれの日暮にはといひてあぶひをおこせて侍りければむすめに代りてよみ侍りける

其色の草共見えず枯にしをいかに云てか今日はかくべき

和泉式部

男の夜更けてまうできて侍りけるにねたりと聞きて歸りにければつとめてかくなむありしと男のいひおこせて侍りける返事に

ふしに鳬さしも思はゞ笛竹の音をぞせまし夜更けたり共

よひのほどまうで來りける男のとく歸りにければ

休はでたつにたてうき槇の戸をさしも思はぬ人も有り鳬

堀川右大臣

小式部内侍の許に二條前太政大臣はじめてまかりぬときゝてつかはしける

人しらでねたさもねたし紫のねずりの衣うはきにもせむ

和泉式部

かへし

ぬれぎぬとひとにはいはむ紫の根摺の衣うはぎなりとも

兵衞内侍

平行親くら人にて侍りけるに忍びて人の許に通ひながらあらがひけるを見顯はして

秋霧はたち隱せども萩原に鹿ふしけりと今朝見つるかな

左兵衛督公信

實方の朝臣の娘に文通はしけるを藏人行資にあひぬと聞きてこの女のつぼねにうかゞひて見あらはしてよみ侍りける

朝な/\おきつゝ見れば白菊の霜にぞ痛く移ろひにける

相模

大江公資相摸守に侍りける時諸共に彼の國に下りて遠江守にて侍りける頃忘られにければこと女をゐてくだるときゝてつかはしける

あふ坂のせきに心はかよはねどみし東路はなほぞ戀しき

讀人志らず

左大將朝光通ひ侍りける女にあだなること人にいはるなりといひ侍りければ女のよめる

根蓴のねぬ名の痛くたちぬれば猶大澤のいけらじや世に

藤原兼平朝臣母

太政大臣かれ/\に成りて四月ばかりにまゆみのもみぢを見てよみ侍りける

すむ人の枯行く宿は時わかず草木も秋の色にぞありける

小一條院

女の許にてあかつき鐘を聞きて

曉の鐘のこゑこそきこゆなれこれを入相と思はましかば

和泉式部

男の隔つる事もなく語らはむなどいひ契りていかゞ思ほえけむ、ひるまにはかくれもしつべくなどいひて

[_]
[1]侍りれれば

いづくにかきても隱む隔てつる心の隈のあらば社あらめ
[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads はべりければ.

こむといひてたゞにあかしてける男の許に遣しける

休らひに眞木の戸社はさゝざらめいかに明ぬる冬の夜ならむ

藤原顯綱朝臣

後三條院坊におはしましける時女房の局の前に柳の枝を植ゑて侍りけるをよひに物語などして歸りたるあしたその柳なかりければよべの人のとりたるかとてこひにおこせたりければ

青柳の糸になき名ぞ立ちにける夜くる人は我ならねども

後三條院御製

皇后宮みこの宮の女御と聞えける時里へまかり出でたまうにければそのつとめてさかぬ菊にさして御消息ありけるに

まださかぬ籬の菊もある物をいがなる宿に移ろひぬらむ

馬内侍

忘れじといひ侍りける人のかれ%\になりて枕箱とりにおこせて侍りけるに

玉櫛笥身はよそ/\になりぬとも二人契りし事な忘れそ

和泉式部

ものへまかるとて人のもとにいひおきはべりける

何方に行くと計は告てまし問ふべき人のある身と思はゞ

忍びたる男雨のふる夜まできてぬれたるよし歸りていひおこせて侍りければ

斯ばかり忍ぶる雨を人とはゞ何にぬれたる袖といふらむ

人の許にふみやる男をうらみやりて侍りける返りごとにあらがひ侍りければ

空になる人の心はさゝ蟹のいかにけふ又かくてくらさむ

男の物いひ侍りける女を今はさらにいかじといひて後雨の痛く降りけるにまかりけりと聞きてつかはしける

み笠山さし離れぬときゝしかど雨もよにとは思ひし物を

讀人志らず

年頃住み侍りける女を男思ひ離れてものゝぐなどはこび侍りければ女のよめる

歎かじな終にすまじき別かは是はある世にと思ふ計りを

中納言定頼

兼房の朝臣女の許にまうできて物語し侍りけるをかくと聞きてうたてといひ遣はしたりける返事に物越になむ女のいひおこせて侍りければ詠める

古のきならし衣今さらに其ものごしのとけずしもあらし

相模

大貳資通むつまじきさまになむいふと聞きてつかはしける

誠にや空になき名のふりぬらむ天てる神の曇りなきよに

藤原長能

元輔文かよはしける女に諸共にふみなど遣はしけるに元輔にあひてわすられにけりと聞きて女の許につかはしける

こりぬ覽仇なる人に忘られて我れ習はさむ思ふためしは

馬内侍

入道前太政大臣兵衛佐にて侍りける時一條左大臣の家にまかりそめて、かくなむあるとは志りたりやといひおこせて侍りける返事によめる

春雨の古めかしくもつぐるかなはや柏木のもりにし物を

清原元輔

早う住み侍りける女の許に罷りて端の方にゐて侍りけるにぬる所の見え侍りければ

古の常世の國や變りにしもろこしばかりとほく見ゆるは

右兵衛督朝任

赤染衞門うらむる事侍りけるころつかはしける

渡の原たつ白波のいかなれば名殘久しく見ゆるなるらむ

赤染衛門

かへし

風は只思はぬ方に吹きしかどわたの原たつ浪はなかりき

相模

中納言定頼家をはなれてひとり侍りける頃住み侍りける所のこしば垣の中におかせ侍りける

人志れず心ながくや時雨るらむ更行く秋の夜はのね覺に

大江匡衡朝臣

女の許にまかりたりけるにあづまごとをさし出で侍りければ

逢坂の關のあなたもまだみねば東のことも志られざりけり

馬内侍

十月ばかりまで來りける人の時雨し侍りければたゝずみ侍りけるに

かき曇れ時雨るとならば神な月心そらなる人やとまると

清少納言

大納言行成物語などし侍りけるに内の御物忌にこもればとていそぎ歸りてつとめて鳥の聲にもよほされてといひおこせて侍りければ、夜深かりける鳥の聲は函谷關のことにやといひ遣はしたりけるを立ち歸り是は逢坂の關に侍るとあればよみ侍りける

夜をこめて鳥の空音ははかる共よに逢坂の關はゆるさじ

素意法師

みわの社わたりに侍りける人をたづぬる人にかはりて

古里のみわの山邊を尋ぬれどすぎまの月の影だにもなし

相模

はらからなどいはむといふ人の忍びてこむといひたるかへり事に

東路の其はらからは來たりとも逢坂迄はこさじとぞ思ふ

兵衞姫君

俊綱の朝臣たび/\文遣はしけれど返事もせざりけるを猶などいひ侍りければ櫻の花にかきて遣しける

ちらさじと思ふあまりに櫻花言の葉をさへ惜みつるかな

下野

睦しくもなき男に名たちける頃其男の許より春もたちぬ今はうちとけねかしなどいひて侍りければ

さらでだに岩まの水はもる物を氷とけなば名こそ流れめ

四條宰相

能通の朝臣女を思ひかけて石山にこもりてあはむ事を祈り侍りけり。あふよしの夢を見て女のめのとにかくなむ見たるといひ遣はして侍りければかくよみてつかはしける

祈りけむ事は夢にて限りてよ偖も逢ふてふ名こそ惜けれ

少將内侍

資良の朝臣藏人にて侍りける時、園、韓神のまつりの内侍にもよほすとてみそぎすれど此世の神はしるしなければ、園、から神にいのらむといひて侍りける返事によめる

近きだにきかぬ禊を何かそのから神までは遠くいのらむ

伊賀少將

家綱の朝臣ふみかよはして侍りけるにあはぬさきにたえ%\になりければ遣しける

忘るゝも苦しくもあらず根蓴の妬くと思ふ事しなければ

少將藤原義孝

左衛門藏人にふみ遣はしけるにうとくのみ侍りければちひさきうりに書きて遣しける

ならされぬ御園の瓜と志りながらよひ曉と立つぞ露けき

左大將朝光

人の娘のをさなく侍りけるをおとなびてなど契りけるをことざまに思ひ成るべしと聞きてそのわたりの人の扇にかきつけ侍りける

生ひ立つを松と頼めしかひもなく浪こすべしと聞くは誠か

源道濟

秋をまてと言ひたる女に遣しける

いつしかとまちしかひなく秋風にそよと計も荻の音せぬ

和泉式部

男のふみかよはしけるに此廿日のほどにと頼めけるをまち遠しといひ侍りければ

君はまだ知らざり鳬な秋の夜の木間の月は廿日にぞ見る

相模

中納言定頼馬に乘りて

[_]
まで
來りけるに門あけよといひ侍りけるにとかくいひてあけ侍らざりければ歸りける又の日つかはしける

さもこそは心較べにまけざらめ早くも見えし駒の足かな
[_]
[2] SKT reads まうで.

中原長國

物いひかはしける人のおとせずとうらみければ

おのづから我が忘るゝになりにけり人の心を試みしまに

律師朝範

つらかりける童を恨むとて音し侍らざりければ、わらはの許よりわれさへ人をといひおこせて侍りければ

恨みずば爭でか人にとはれまし憂も嬉しき物にぞ有ける

相模

橘則長父のみちの國の守にて侍りける頃馬にのりてまかり過ぎけるを見侍りて男はさもしらざりければ又の日つかはしける

綱たえて離れ果てにし陸奥のをぶちの駒を昨日みしかな

木の葉のいたく散りける日人の許にさしおかせける

言の葉に附けてもなどかとはざらむ蓬の宿もわかぬ嵐を

中納言定頼

かへし

八重葺の隙だにあらば芦の屋におとせぬ風はあらじとをしれ

藤原實方朝臣

三條太政大臣の家に侍りける女承香殿に參り侍りてみし人とだにさらに思はずとうらみ侍りければ

わりなしや身は九重の内乍とへとは人のうらむべしやは

中宮内侍

高階成棟小一條院の御ともに難波にまゐるとていかにこひしからむずらむといひおこせて侍りければ

暫しこそ思ひも出でめ津の國の長らへゆかば今忘れなむ

上總大輔

人にはかなきたはぶれ事いふとてうらみける人に

是もさはあしかりけりな津の國のこや事つくる始なる覽

土御門御匣殿

小一條院かれ%\になり給ひける頃

心えつ蜑の栲繩うちはへてくるをくるしと思ふなるべし

祭主輔親

日ごろ牛をうしなひてもとめわづらひけるほどにたえ/\になりにける女の家にこの牛入りて侍りければ女の許よりうしと見し心にまさりけりといひおこせて侍りけるかへり事に

數ならぬ人を野がひの心にはうしとも物を思はざらなむ

大貳成章

人のつぼねを忍びてたゝきけるにたぞと問ひ侍りければよみ侍りける

磯なるゝ人は數多に聞ゆるをたがなのりそをかりて答む

和泉式部

久しう音せぬ人の山吹にさして日ごろのつみはゆるせといひて侍りければ

とへとしも思はぬ八重の山吹を許すといはゞ折にこむとや

おなじ人のもとよりきたりときゝておなじ花につけてつかはしける

味氣なく思ひこそやれつれ%\と一人やゐでの山吹の花

少將内侍

わづらふといひて久しう音せぬ男のほかにはありくと聞きて遣はしける

根蓴の苦しき程の絶間かとたゆるをしらで思ひけるかな

式部命婦

師資の朝臣の物いひ渡りけるをたえじなど契りて後又たえて年頃になりにければ通はしける文を返すとて其の端に

[_]
[3]かきつて
遣しける

行末を流れてなにゝたのみけむ絶えけるものを中河の水
[_]
[3] SKT reads かきつけて.

和泉式部

門おそくあくとて歸りにける人のもとにつかはしける

長しとて明ずやはあらむ秋の夜は待てかし槇のと計をだに

藤原道信朝臣

うちより出でばかならずつげむなど契りける人の音もせでさとに出でにければ遣しける

天の原遙にわたる月だにも出づるは人に志られこそすれ

藤原元眞

題志らず

うき事もまだ白雲の山のはにかゝるやつらき心なるらむ

齋宮女御

ふく風になびく淺茅は我なれや人の心のあきを志らする