University of Virginia Library

Search this document 

 0. 
expand section1. 
expand section2. 
expand section3. 
expand section4. 
expand section5. 
expand section6. 
expand section7. 
expand section8. 
expand section9. 
expand section10. 
expand section11. 
expand section12. 
expand section13. 
expand section14. 
collapse section15. 
後拾遺和歌集第十五 雜一
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
expand section16. 
expand section17. 
expand section18. 
expand section19. 
expand section20. 

15. 後拾遺和歌集第十五
雜一

善滋爲政朝臣

題志らず

年ふればあれのみ増る宿の内に心ながくもすめる月かな

宇治忠信女

月影のいるを惜むも苦しきに西には山のなからましかば

藤原爲時

われ獨ながむと思ひし山里に思ふことなき月もすみけり

源師賢朝臣

船中月といふ心をよみ侍りける

水馴掉とらでぞ下すたかせぶね月の光のさすにまかせて

良暹法師

池上月をよめる

月影のかたぶくまゝに池水をにしへ流ると思ひけるかな

大藏卿長房

後冷泉院の御時きさいの宮にて月をよみ侍りける

月影は山のはいづる宵よりもふけゆく空ぞてり増りける

源頼家朝臣

連夜に月を見るといふ心をよみ侍りける

敷妙の枕の塵やつもるらむ月のさかりはいこそねられね

懷圓法師

月のいと面白う侍りける夜きし方行末もありがたき事など思うたまへてうちより輔親が六條の家に罷れりけるに夜更けにければ人もあらじと思ひ給ひけるにすみあらしたる家のつまに出でゐて前なる池に月のうつりて侍りけるをながめてなむ侍りける。おなじ心にもなどいひてよみ侍りける

池水は天の川にやかよふらむ空なる月のそこに見ゆるは

永胤法師

中納言泰憲近江守にはべりける時三井寺にて歌合し侍りけるに月をよみ侍りける

何方へ行くとも月の見えぬかなた靡く雲の空になければ

江侍從

永承四年内裏の歌合に月をよめる

いつよりも曇なき夜の月なれば見る人さへに入り難き哉

堀川右大臣

麗景殿の女御の家の歌合に

山のはのかゝらましかば池水にいれども月は隱れざり鳬

加賀左衛門

題志らず

宿毎にかはらぬものは山のはの月まつほどの心なりけり

永源法師

依月客來といふ心をよめる

我ひとり詠めてのみやあかさまし今宵の月の朧なりせば

後冷泉院御製

賀陽院におはしましける時石たて瀧落しなど志て御覽じける頃九月十三夜になりければ

岩まより流るゝ水は早けれどうつれる月の影ぞのどけき

彈正尹清仁親王

月夜中納言定頼が許に遣はしける

板ま荒みあれたる宿の寂しきは心にもあらぬ月を見る哉

中納言定頼

その夜かへしはなくて二三日ばかり有りて雨の降りける日みこの許につかはしける

雨ふれば閨の板まもふきつ覽もりくる月は嬉しかりしを

藤原範永朝臣

人の許よりこよひの月はいかゞといひたるかへりごとにつかはしける

月みては誰も心ぞ慰まぬをばすてやまのふもとならねど

賀茂成助

おほやけの御かしこまりにて侍りける頃賀茂のやしろによる/\まゐりていのり申しけるに月のおもしろく侍りければ

かくばかり隈なき月を同じくば心の晴れて見る由もがな

齋院中務

くらまより出で侍りける人の月のいとをかしかりければくらまの山もかくこそはなど思ひいでけるをきゝて

住みなるゝ都の月のさやけきになにか鞍馬の山は戀しき

齋院中將

かへし

諸共に山のは出でし月なれば都ながらもわすれやはする

清原元輔

月のあかく侍りける夜小一條のおほいまうち君むかしをこふる心よみ侍りけるに詠める

天の原月はかはらぬ空ながらありし昔のよをやこふらむ

藤原實綱朝臣

月の前に思ひをのぶといふ心をよみ侍りける

いつとてもかはらぬあきの月見ればたゞ古の空ぞ戀しき

源師光

さきのくら人にて侍りける時對月懷舊といふこゝろを人々よみ侍りけるに

常よりもさやけき秋の月を見てあはれ戀しき雲の上かな

民部卿長家

齋信の民部卿のむすめにすみわたり侍りけるにかの女身まかりにければ法住寺といふ所にこもりゐて侍りけるに月を見て

諸共にながめし人も我もなき宿にはひとり月やすむらむ

江侍從

兼房の朝臣月いでばむかへにこむとたのめておとせざりければよみ侍りける

月見れば山の端高く成に鳬いでばといひし人にみせばや

源爲善朝臣

思ふ事有りける頃山寺に月を見てよみ侍りける

山のはに入りぬる月の我ならば憂世の中に又はいでじを

聖梵法師

山にすみわづらひて奈良にまかりて住み侍りけるに志りたる人もなく又みし世のすみかにも似ざりければ月の面白く侍りけるを眺めてよめる

昔見し月の影にもにたるかなわれと共にや山をいでけむ

赤染衛門

中關白少將に侍りける時内の御ものいみにこもるとて月のいらぬさきにといそぎ出で侍りければつとめて女にかはりてつかはしける

いりぬとて人の急ぎし月影は出でゝの後も久しくぞみし

三條院御製

例ならずおはしまして位などさらむと覺しめしける頃月の

[_]
[1]あゝかりける
を御覽じて

心にもあらで憂世に長らへば戀しかるべき夜はの月かな
[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads あかかりける.

陽明門院

後朱雀院の御時月のあかゝりける夜うへにのぼらせ給ひていかなる事かまうさせ給ひけむ

今は唯雲居の月を眺めつゝめぐりあふべき程も志られず

小辨

こむといひつゝこざりける人の許に月のあかゝりければつかはしける

なほざりのそらだのめせで哀にもまつに必いづる月かな

小式部

かへし

頼めずばまたでぬる夜ぞ重ねまし誰ゆゑか見る有明の月

讀人志らず

月あかく侍りける夜はじとみに女共の立ちて侍りけるを男まゐらむなどいひいれよとて侍りければよめる

誰とてかあれたる宿といひ乍月よりほかの人をいるべき

藤原隆方朝臣

こよひ必と頼めたる女の許に月あかゝりける夜まかりて侍りけるにおろしこめて女あひ侍らざりければ歸りて又の日つかはしける

よしさらば待たれぬ身をばおき乍月みぬ君は名社惜けれ

僧正深覺

月の山のはに入らむとするを見てよみ侍りける

眺むれば月傾ぶきぬ哀れ我が此世の程もかばかりぞかし

藤原範永朝臣

侍從の尼ひろ澤にこもるときゝてつかはしける

山のはに隱れな果てそ秋の月此世をだにも闇にまどはじ

中原長國妻

月を見てよみ侍りける

諸共におなじ憂世にすむ月の羨ましくもにしへ行くかな

大納言道綱母

入道攝政物語などして寢待の月の出づる程にとまりぬべき事などいひたらばとまらむといひ侍りければよみ侍りける

いかにせむ山のはにだに止まらで心の空にいでむ月をば

月の朧なりける夜入道攝政まうで來て物語し侍りけるにたのもしげなき事などいひはべりければよめる

曇る夜の月とわが身の行末と覺束なさはいづれまされり

齋宮女御

村上の御時うへにのぼりて侍りけるにうへ御とのごもりにければ歸り下りてよみ侍りける

隱れぬにおふる菖蒲の浮寐して果てはつれなくなる心哉

曾禰好忠

題志らず

川上やあらふの池のうきぬなは憂事あれや來る人もなし

小式部

六條前齋院に歌合あらむとしけるにみぎに心よせありと聞きて小辨が許に遣はしける

あらはれて恨みやせましかくれぬの汀によせし浪の心を

小辨

かへし

岸遠みたゞよふ浪は中空による方もなきなげきをぞせし

五月五日六條前齋院に物語合せ志侍りけるに小辨遲くいだすとてかたの人々とめてつぎの物語を出し侍りければ宇治の前太政大臣、かの小辨が物語はみどころなどやあらむとてこと物語をとゞめてまち侍りければ岩がきぬまといふ物語を出すとてよみ侍りける

引捨つる岩がきぬまの菖蒲草思ひ志らずもけふにあふ哉

馬内侍

はゝきの國に侍りけるはらからの音し侍らざりければたよりにつけて遣しける

ゆかば社逢はずもあらめ箒木のありと計は音づれよかし

讀人志らず

煩ふ人の道命をよび侍りけるにまからで又の日いかゞと訪らひに遣はしたりける返事に

思出でゝとふ言の葉を誰れみましつらきに堪ぬ命也せば

中務典侍

わづらひて山里に侍りける頃人のとひて侍りけれど又おともせずなりにければ

山里を尋ねてとふと思ひしはつらき心をみするなりけり

齋宮女御

馬のないしが許に遣はしける

夢のごとおぼめかれ行く世中にいつ訪はむとか音信もせぬ

相模

ある人のむすめをかたらひつきて久しくおとし侍らざりければ

踏見ても物思ふ身とぞ成にけるさ野の繼橋と絶のみして

男の許より、けはひのかはりたるはいかに今はまかるまじきかといひおこせて侍りければ

野飼はねど荒行く駒をいかゞせむ杜の下草盛りならねば

讀人志らず

忍ぶ事ある女に中納言兼頼忍びて通ふと聞きてをとこ絶え侍りにけり。中納言さへ又かれ%\になり侍りにければ女のよめる

徒に身はなりぬ共つらからぬ人故とだにおもはましかば

大江匡衡朝臣

赤染、右大臣道綱に名たち侍りけるころつかはしける

あるが上に又脱懸くる唐衣み棹もいかゞつもりあふべき

源雅通朝臣女

定輔の朝臣かれ%\になりてほかに心など有りければ時々は引きとゞめよといふ人侍りければ

わりなしや心に叶ふ涙だに身のうきときは止りやはする

道命法師

熊野へ參るとて人の許にいひつかはしける

忘るなよ忘るときかばみ熊野の浦の濱ゆふ恨みかさねむ

思はむとたのめたりける人のさもあらぬけしきなりければよみ侍りける

忘れじといひつる中は忘れけり忘れむと社云べかりけれ

久しくおとづれぬ人のもとに

物いはで人の心を見るほどに頓てとはれでやみぬべき哉

周防内侍

後冷泉院うせ給ひて世の憂き事など思ひ亂れて籠りゐて侍りけるに

[_]
[2]後三院條
位につかせ給ひて後七月七日參るべき由仰せ事侍りければよめる

天の河おなじ流ときゝながら渡らむ事のなほぞかなしき
[_]
[2] SKT reads 後三条院.

小大君

源頼光の朝臣女におくれて侍りけるころ霜のおきたるあしたにつかはしける

此頃の夜はのね覺は思ひやるいかなるをしか霜拂ふらむ

清原元輔

大貳國章妻なく成りて秋風の夜寒なるよしたよりにつけていひおこせて侍りける返事につかはしける

おもひきや秋の夜風の寒けきにいもなき床に獨ねむとは

忠務卿具平親王

春頃爲頼長任など相共に歌よみ侍りけるにけふの事をば忘るなといひわたりて後爲頼の朝臣身まかりて又の年の春長任が許に遣はしける

いかなれば花の匂も變らぬを過ぎにし春の戀しかるらむ

祭主輔親

能宣身まかりて後四十九日の内にかうぶり給はりて侍りけるに大江匡衡が許より其由いひおこせて侍りける返事にいひつかはしける

墨ぞめにあけの衣をかさねきて涙の色のふたへなるかな

能因法師

陸奥にまかり下りけるに志のぶの郡といふ所にはやうみし人を尋ねければその人なくなりにけりと聞きて

淺茅原あれたるやどは昔見し人を忍ぶのわたりなりけり

大納言道綱朝臣

母におくれ侍りて又の年のわざなど過ぎてつれづれに侍りける夕暮に塵積りたる琴などおしのごひてひくとはなけれど今は程など過ぎにければをり/\ならしけるををばなりける人のあひすみける方より、ことの音きけば物ぞかなしきなどいひおこせて侍りける返事によめる

亡人は音づれもせで琴の緒をたちし月日ぞ歸りきにける

源經隆朝臣

母に後れて侍りける頃兄弟のかた%\にとぶらひの人々まで來けれどわが方にはおとづるゝ人も侍らざりければ

時雨るれどかひなかり鳬埋木は色づく方ぞ人もとひける

少將井尼

物思ひける頃時雨いたく降り侍りけるあしたこよひの時雨はなど人のおとづれて侍りければよめる

人志れずおつる涙の音をせば夜はの時雨に劣らざらまし

後朱雀院御製

故中宮うせ給ひての又の年の七月七日宇治前太政大臣の許につかはしける

こぞのけふ別れし星も逢ひぬめりなど類なき我身なる覽

小左近

後朱雀院うせ給ひてうち續き世のはかなき事ども侍りける頃花の面白く侍りければ

儚さによそへて見れば櫻花折志らぬにやならむとすらむ

辨乳母

故皇太后宮うせ給ひて明くる年その宮の櫻の花面白く咲きたりけるに人々いと口惜くなどいひければ

形見ぞと思はで花を見しだにも風を厭はぬ春はなかりき

小辨

世中はかなくて右大將道房かくれ侍りぬときゝて

數ならぬ身の憂事は世中になきうちにだにいらぬ也けり

齋宮女御

たゞにもあらで里にまかり出で侍りけるに十月ばかりほどちかうなりてうちより御とぶらひありける返事にたてまつり侍りける

枯果つる淺ぢが上の霜よりもけぬべき程を今かとぞまつ

藤原範永朝臣

後朱雀院うせさせ給ひて上東門院白河にわたり給ひて嵐のいたく吹きけるつとめてかの院に侍りける侍從の内侍の許につかはしける

古をこふるねざめやまさるらむきゝもならはぬ峰の嵐に