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後拾遺和歌集第十七 雜三
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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17. 後拾遺和歌集第十七
雜三

清原元輔

備中守棟利身まかりにけるかはりを人々望み侍ると聞きて内なりける人の許に遣しける

誰か又年へぬる身を振捨てゝきびの中山越えむとすらむ

源重之

田舍に侍りけるころつかさめしを思ひやりて

春ごとにわすられにける埋木は花の都をおもひこそやれ

大江匡衡朝臣

つかさめしにもれての年の秋、上のをのこども大井にまかりて舟にのり侍りけるに詠める

河舟にのりて心の行くときは沈める身とも思ほえぬかな

大江爲基

大納言公任宰相になり侍らざりける頃よみてつかはしける

世中をきくに袂のぬるゝかな涙はよその物にぞありける

藤原國行

つかさめし侍りけるに申しぶみにそへて侍りける

徒になりぬる人の又もあらば云合せてぞねをばなかまし

源重之

小一條右大將になつきたまふとてよみてそへて侍りける

陸奥のあだちのま弓ひくやとて君に我身をまかせつる哉

天臺座主明快

後朱雀院の御時とし頃よゐつかうまつりけるに後冷泉院位につかせ給ひて又夜居にまゐりてのち上東門院にたてまつり侍りける

雲の上に光かくれし夕よりいく夜といふに月をみつらむ

源經任

藏人にて冠給はりける日よめる

限あれば天の羽衣脱變へておりぞわづらふ雲のかけはし

周防内侍

右大辨通俊藏人頭に成りて侍りけるを程へてよろこびいひにつかはすとてよめる

嬉してふ事はなべてに成ぬればいはで思ふに程ぞへにける

橘爲仲朝臣

後冷泉院の御時藏人にて侍りけるを冠給はりて又の日大貳三位の局につかはしける

澤水におりゐるたづは年ふとも慣し雲居ぞ戀しかるべき

橘俊宗

同じ御時藏人にて侍りけるに世中かはりて前の藏人にて侍りけるを當時に臨時の祭の舞人にまかり入りて試樂の日よめる

思ひきや衣のいろは緑にてみよまで竹をかざすべしとは

前大納言公任

世中をうらみてこもりゐて侍りける頃八重菊を見てよみ侍りける

押なべて咲く白菊は八重/\の花の霜とぞ見え渡りける

藤原兼綱朝臣

年ごろ志づみゐてよろづを思ひなげきはべりけるころ

[_]
[1]侍つ事の
あるとや人の思ふ覽心にもあらで長らふる身を

[_]
[1] Shinpen kokka taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads まつことの.

藤原元眞

はらからなる人の志づみたるよしいひおこせて侍りける返事につかはしける

君をだに浮べてしがな涙川志づむなかにも淵瀬ありやと

藤原義定

身の徒になりはてぬる事を思ひ嘆きつゝ播磨に度々通ひ侍りけるに高砂の松をみて

我のみと思ひしかども高砂の尾上の松もまだ立てりけり

平兼盛

世中をうらみける頃惠慶法師が許につかはしける

世中を今は限とおもふには君こひしくやならむとすらむ

津守國基

賀茂の神主成助が許にまかりて酒などたうべて今まで冠給はらざりける事を嘆きてよみ侍りける

もみぢするかつらの中に住吉の松のみ獨みどりなるかな

中納言基長

つかさめしにもれてなげき侍りける頃女のもとにつかはしける

われ舟の沈みぬる身の悲しきは渚によする浪さへぞなき

源兼俊母

年頃志り侍りける牧のうれへある事有りて宇治前太政大臣に侍りけるころ雪ふりたるあした爲仲の朝臣の許にいひつかはしける

たづねつる雪のあしたの離駒君ばかりこそ跡を志るらめ

堀川女御

小一條院春宮ときこえける時思はずに位おり給ひけるに火たき屋などこぼちさわぐをみてよみ侍りける

雲居まで立昇るべき煙かとみえし思のほかにもあるかな

同し院高松の女御にすみうつり給ひてたえ%\になり給ひての頃松風すごく吹きけるを聞きて

松風は色や緑にふきつらむ物おもふ人の身にぞ志みぬる

源道濟

題志らず

世の中を思ひ亂れてつく%\と詠むる宿に松かぜぞふく

藤原爲任朝臣

世の中心にかなはでうらみ侍りけるころ月をながめてよみ侍りける

心には月見むとしもおもはねど憂には雲ぞ眺められける

中納言隆家

ことありて播磨へまかり下りける道より五月五日に京へつかはしける

世中のうきにおひたる菖蒲草けふは袂にねぞかゝりける

小辨

五月五日服なりける人の許につかはしける

けふ迚も菖蒲志られぬ袂には引違へたるねをやかくらむ

藤原兼房朝臣

靜範法師やはたの宮の事にかゝりて伊豆國に流されて又のとし五月にうちの大貳三位のもとにつかはしける

五月闇こゝひのもりの子規人志れずのみなきゐたるかな

大貳三位

かへし

子規こゝひの杜になく聲はきくよそびとの袖もぬれけり

素意法師

これをきこしめしてめしかへすべきよしおほせくだされけるを聞きてよめる

すべらぎもあら人神もなごむまでなきける杜の子規かな

和泉式部

丹後國にて保昌の朝臣あすかりせむといひける夜鹿のなくをきゝてよめる

理やいかでか鹿の鳴かざらむ今宵ばかりの命とおもへば

惠慶法師

西宮の大いまうち君筑紫にまかりて後住み侍りける西の宮の家を見ありきて詠み侍りける

松風も岸うつ波も諸共にむかしにあらぬこゑのするかな

小式部内侍

二條の前の大いまうち君日頃わづらひて怠りて後など訪はざりつるぞといひ侍りければよめる

志ぬ計歎に社は嘆きしかいきてとふべき身にしあらねば

齋宮女御

題志らず

大空に風まつほどのくものいの心細さをおもひやらなむ

東三條院

かへし

思ひやるわが衣手はさゝがにの曇らぬ空に雨のみぞふる

伊勢大輔

世中さわがしき頃久しう音せぬ人の許につかはしける

なき數に思做してやとはざらむまだ有明の月まつものを

小大君

世のはかなかりけるころ梅の花をみてよめる

ちるをこそ哀とみしか梅の花はなや今年は人を志のばむ

讀人志らず

京より具して侍りける女を、筑紫にまかり下りて後こと女に思ひつきて思ひいでずなりにけり。女たよりなくて京に上るべきすべもなく侍りける程に煩ふ事有りて死なむとしける折男の許にいひ遣しける

とへかしな幾よもあらじ露の身を暫しも言の葉にや懸ると

或人云、此の女經衡筑前守にて侍りける時共にまかり下れりける人のめになむ有りける。かくて女なくなりにければ經衡後にきゝつけて心うかりけるものゝふの心かなとて男おひのぼせられにけり。

和泉式部

世中つねなく侍りける頃よめる

物をのみ思ひしほどに儚くて淺ぢが末に世はなりにけり

忍ぶべきひともなき身はある折に哀々といひや置かまし

思ふ事侍りける頃紅葉をてまさぐりにしてよみ侍りける

いかなれば同じ色にて落つれ共涙は目にも止らざるらむ

堀河右大臣

世の中さわがしく侍りけるころ夕暮に中納言定頼が許につかはしける

つねよりも儚き頃の夕暮はなくなる人ぞかぞへられける

中納言定頼

かへし

草の葉におかぬ計の露の身はいつ其數に入らむとすらむ

赤染衞門

世の中つねなく侍りける頃久しう音せぬ人の許につかはしける

消えもあへず儚き程の露計有りや無しやと人のとへかし

源順

世の中を何にたとへむといふなることをかみにおきてあまたよみ侍りけるに

世中を何にたとへむ秋の田を仄かにてらす宵のいなづま

圓松法師

中關白の忌に法興院にこもりてあかつき方に千鳥のなき侍りければ

明けぬ也賀茂の河瀬に千鳥なくけふも儚く暮れむとす覽

大貳高遠

文集の蕭々暗雨打窓聲といふこゝろをよめる

戀しくば夢にも人を見るべきに窓うつ雨にめを醒しつゝ

赤染衞門

王昭君をよめる

歎きこし道のつゆにも増りけりなれにし里をこふる涙は

僧都懷壽

おもひきや古き都を立ち離れこの國人にならむものとは

懷圓法師

みる度に鏡の影のつらき哉斯らざりせばかゝらましやは

ゐてのあま

入道前の大いまうち君法成寺にて念佛行ひ侍りける頃後夜の時に逢はむとて近き所に宿りて侍りけるに鳥の啼き侍りければ昔を思ひ出でゝよみ侍りける

古はつらく聞えし鳥の音のうれしきさへぞ物はかなしき

増基法師

修行に出でたつ日よみて右近の馬場の柱にかきつけ侍りける

ともすれば四方の山邊にあくがれし心に身をも任せつる哉

馬内侍

語らひ侍りける人の許より世をそむきなむとありしはいかゞといひおこせて侍りければ

志かすがに悲しき物は世中をうきたつほどの心なりけり

藤原長能

山にのぼりて法師になり侍りける人に

[_]
[2]つかはける

何か其身のいるにしもたけからむ心を深きやまに澄せよ
[_]
[2] SKT reads つかはしける.

律師長濟

頼家の朝臣世をそむきぬときゝてつかはしける

誠にや同じ道には入りにける獨はにしへゆかじと思ふに

加賀左衛門

中宮の内侍あまになりぬときゝてつかはしける

爭でかく花の袂をたちかへてうらなる玉を忘れざりけむ

中宮内侍

かへし

かけてだに衣の裏に玉ありと志らで過ぎけむ方ぞ悔しき

選子内親王

上東門院あまにならせ給ひけるころよみてきこえ侍りける

君すらもまことの道に入りぬなり一人や長き闇に惑はむ

讀人志らず

高階成順世をそむき侍りけるにあさの衣を人の許よりおこせ侍るとて

今日としも思ひやはせしあさ衣涙の玉のかゝるべしとは

伊勢大輔

かへし

思ふにもいふにも餘ることなれや衣の玉のあらはるゝ日は

前中納言顯基

後一條院うせさせ給ひて世のはかなくおもほえければ法師になりて横川に籠りゐて侍りける頃上東門院より呼ばせ給ひたりければ

世をすてゝ宿を出でにし身なれども猶戀しきは昔なりけり

上東門院

御かへし

時のまも戀しきことの慰まば世は二度もそむかざらまし

前大納言公任

世を背く人々多く侍りける頃

思知る人もありける世中をいつをいつとてすぐすなる覽

藤原

三條院東宮と申しける時法師になりて宮のうちにたてまつりける

君に人なれならひそ奥山に入りての後は侘しかりけり

三條院御製

御かへし

忘られず思出でつゝ山人を志かぞこひしく我もながむる

前中納言義懷

法師になりてすみ侍りけるところに櫻のさきて侍りけるを見て

見し人も忘れのみゆくふる里に心ながくもきたる春かな

前大納言公任

世を背きて長谷に侍りける頃入道中將の許よりまだすみなれじかしなど申したりければ

谷風になれずといかゞ思ふらむ心は早くすみにしものを

素意法師

良暹法師大原に籠り居ぬときゝてつかはしける

水草ゐしおぼろの清水そこすみて心に月のかげは浮ぶや

良暹法師

かへし

ほどへてや月もうかばむ大原や朧の清水すむ名ばかりに

藤原國房

良暹法師の許につかはしける

おもひやる心さへこそ寂しけれ大原山のあきのゆふぐれ

律師朝範

おとゝなりける法師の山ごもりして侍りけるが許よりかくてなむありとぐまじきといひて侍りける返事につかはしける

思はずにいるとは見えき梓弓歸らばかへれ人のためかは

上東門院中將

長樂寺にすみ侍りけるころ人のなに事かといひて侍りければつかはしける

思ひやれとふ人もなき山里の筧のみづのこゝろぼそさを