University of Virginia Library

Search this document 

 0. 
expand section1. 
expand section2. 
expand section3. 
expand section4. 
expand section5. 
collapse section6. 
後拾遺和歌集第六 冬
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
expand section7. 
expand section8. 
expand section9. 
expand section10. 
expand section11. 
expand section12. 
expand section13. 
expand section14. 
expand section15. 
expand section16. 
expand section17. 
expand section18. 
expand section19. 
expand section20. 

6. 後拾遺和歌集第六

前大納言公任

十月のついたちにうへのをのこども大井河にまかりて歌よみ侍りけるによめる

落ちつもる紅葉をみれば大井川井堰に秋もとまるなりけり

大僧正深覺

十月の朔ごろ紅葉のちるをよめる

手向にもすべき紅葉の錦こそ神無月にはかひなかりけれ

御製

承保三年十月今上みかりのついでに大井河にみゆきせさせ給ふによませ給へる

大井川ふるきながれを尋ねきて嵐のやまの紅葉をぞ見る

藤原兼房朝臣

桂の山庄にて志ぐれのいたうふり侍りければよめる

哀にもたえず音する時雨哉とふべき人もとはぬすみかを

永胤法師

山里の時雨をよみ侍りける

神無月深くなりゆく梢より志ぐれてわたるみ山ベのさと

源頼實

落葉如雨といふ事をよめる

木葉ちる宿は聞分く事ぞなき時雨する夜も時雨せぬ夜も

藤原家經朝臣

紅葉ちる音は時雨の心地して梢のそらはくもらざりけり

能因法師

十月計に山里に夜とまりてよめる

神無月ねざめにきけば山里の嵐のこゑは木の葉なりけり

橘義通朝臣

宇治にて網代をよみ侍りける

網代木に紅葉こきまぜよるひをは錦を洗ふ心地こそすれ

中宮内侍

宇治にまかりて網代のこぼれたるを見てよめる

うぢ河の早く網代はなかり鳬何によりてか日をば暮さむ

藤原孝善

俊綱の朝臣の讃岐にてあや川の千鳥をよみ侍りけるによめる

霧はれぬあやの河べになく千鳥聲にや友のゆく方を志る

堀河右大臣

永承四年内裏の歌合に千鳥をよみ侍りける

佐保川の霧のあなたに鳴く千鳥聲は隔てぬ物にぞ有ける

相摸

難波潟朝みつ汐にたつ千鳥うらづたひする聲ぞきこゆる

和泉式部

題志らず

寂しさ煙をだも斷たじとて柴をりくぶる冬の山ざと

大貳三位

冬の夜の月をよめる

山のはゝ名のみなりけり見る人の心にぞいる冬の夜の月

増基法師

題志らず

冬の夜に幾度ばかり寐覺して物思ふ宿のひましらむらむ

民部卿長家

障子に雪のあした鷹狩したる所をよみ侍りける

とや歸る白斑の鷹のこゐをなみ雪げの空に合せつるかな

能因法師

鷹狩をよめる

打ち拂ふ雪もやまなむみかり野の雉子の跡も尋ぬ計りに

律師長濟

萩原も霜枯にけりみ狩野はあさる雉子のかくれなきまで

大中臣能宣朝臣

屏風の繪に十一月に女のもとに人の音したるところをよめる

霜枯の草の戸ざしは仇なれどなべての人にあくる物かは

少輔

霜がれの草をよめる

霜枯は一つ色にぞ成にける千種に見えし野べには非ずや

讀人志らず

霜落葉を埋むといふ心をよめる

落ち積る庭の木の葉を夜の程に拂ひてけりと見する朝霜

大江公資朝臣

霰をよめる

杉の板をまばらにふける閨のうへに驚く計り霰ふるらし

橘俊綱朝臣

山里の霰をよめる

とふ人もなき芦葺のわが宿はふる霰さへおとせざりけり

相摸

永承四年内裏の歌合に初雪をよめる

都にも初雪ふればをの山のまきの炭がまたきまさるらむ

素意法師

埋火をよめる

埋火のあたりは春の心地してちりくる雪を花とこそみれ

藤原國行

染殿の式部卿のみこの家にて松のうへの雪といふ心を人々よみ侍りけるによめる

沫雪も松の上にしふりぬれば久しく消えぬ物にぞ有ける

紀式部

隆經の朝臣甲斐守にて侍りける時たよりにつけてつかはしける

何方と甲斐の白嶺は志らねども雪ふる毎に思ひこそやれ

能因法師

山の雪をよみ侍りにける

紅葉ゆゑ心のうちにしめゆひし山の高嶺は雪ふりにけり

源道濟

題志らず

朝ぼらけ雪ふる空を見わたせば山のはごとに月ぞ殘れる

慶尋法師

こし道もみえず雪こそ降にけれ今やとくると人は待らむ

藤原國房

いかばかりふる雪なれば志なが鳥ゐなの柴山道惑ふらむ

津守國基

旅宿の雪といふ心をよめる

獨りぬる草の枕はさゆれども降りつむ雪を拂はでぞ見る

赤染衞門

屏風の繪に雪降りたる所に女のながめしたる所をよめる

春やくる人やとふともまたれけりけさ山里の雪を眺めて

藤原經衡

道雅三位の八條の家の障子に山里の雪のあしたまらうど門にある所をよめる

雪深き道にぞ志るき山ざとは我よりさきに人こざりけり

源頼家朝臣

山里は雪こそ深くなりにけれとはでも年のくれにける哉

信寂法師

法師になりて飯室に侍りけるに雪のあした人のもとにつかはしける

思ひやれ雪も山路も深くして跡たえにける人のすみかを

和泉式部

題志らず

こりつみて槇の炭やくけをぬるみ大原山の雪のむらぎえ

清原元輔

天暦の御時御屏風の繪に十二月雪ふれる所をよめる

我宿にふりしく雪を春よまだ年こえぬまの花とこそみれ

入道前太政大臣

雪ふれるあした大納言公任のもとに遣はしける

同じくぞ雪積るらむと思へども君古里はまづぞとはるゝ

前大納言公任

雪ふりて侍りけるあしたむすめのもとにおくりける

ふる雪は年と共にぞつもりける何れか高くなりまさる覽

頼慶法師

薄氷をよめる

狹莚はむべさえけらしかくれぬの芦まの氷一重しにけり

快覺法師

題志らず

さ夜ふくるまゝに汀や凍るらむ遠ざかりゆく志がの浦波

僧都長算

入道前太政大臣の修行のともにて冬の夜氷をよみ侍りける

鴎こそ夜がれにけらし猪名野なるこやの池水うは氷せり

曾禰好忠

題志らず

岩間には氷のくさびうちてけり玉ゐし水も今はもりこず

藤原孝善

氷逐夜結

うば玉の夜をへて凍る原の池は春と共にや浪も立つべき

藤原明衡朝臣

後三條院東宮と申しける時殿上にて人々としの暮れぬるよしをよみ侍りけるに

白妙に頭のかみはなりにけり我が身に年の雪つもりつゝ

源爲善朝臣

十二月のつごもりごろに備前國より出羽辨がもとに遣はしける

都へは年と共にぞ歸るべきやがて春をもむかへがてらに