University of Virginia Library

9. 新後拾遺和歌集卷第九
離別歌

權中納言敦忠

題志らず

行き歸る物と知る/\怪しくも別と云へば惜まるゝかな

中務

行く人にそふる心の怪しくも知るべなごとをまどはるゝ哉

中納言兼輔

大江のちふるが美濃へいきけるにきぬ遣すとて

もろともに惜む別の唐衣かたみばかりぞまづそぼちける

源兼澄

題志らず

行く人は思ひやすつるとまる身はそれぞ別のしづ心なき

藤原高範

遠き國へまかりける時あとの事などを申し置きける人の許に詠みて遣しける

尋ね見よ和歌の浦路の友千鳥立ち離れ行く跡はいかにと

讀人志らず

友だちの遠き國へまかりけるに詠める

志たひえぬ名殘にそへて思ふかな歸らむ程の心づくしを

中務卿宗尊親王

旅にまかりける人に

さらぬ世のならひをつらき限にて命の内は別れずもがな

女御徽子女王

琴習ひ侍りける人のみちの國に下りけるに裝束遣すとて

今よりはたゞ行く末の松風をよその事とや思ひなしてむ

花山院御製

實方朝臣みちの國へ下り侍りける時給はせける

何事も語らひてこそ過しつれいかにせよとて人の行く覽

貫之

信濃へ下りける人に大納言師氏の餞し侍りけるに詠める

君が行くところと聞けば月見つゝ姨捨山ぞ戀しかるべき

中宮大夫公宗母

題志らず

志のべとや空行く月に契らまし誰が慕ふべき別ならねど

藤原行朝

法印實性あづまに下りて歸りのぼりけるに申し贈り侍りける

行く人の心とめずば足柄のせきもる神もかひやなからむ

藤原仲實朝臣

堀河院の御時百首の歌たてまつりけるに

とまるべき道にもあらぬ別路はしたふ心や關となるらむ

權中納言師時

玉きはる心も知らず別れぬる人を待つべき身こそ老ぬれ

法印實清

題志らず

命あらばめぐり逢ふべき別ぞと慰めながら濡るゝ袖かな

讀人志らず

命ありて別るゝ道はおのづから又逢ふ末を頼むばかりぞ

順徳院御製

百首の歌めしけるついでに

知る知らず行くも歸るも逢坂の關の清水に影は見ゆらむ

爲道朝臣

あづまの方へ下り侍りけるに、賀茂のあたりゐせきと云ふ所に住み侍りける女の許へ詠みて遣しける

忘れずばゐせきの水に影を見よ思ふ心はそれにこそすめ

土御門院御製

題志らず

あさ霧に淀のわたりを行く舟の知らぬ別も袖は濡れけり

藤原長能

物へ行く人に餞すとて

古も今もあらばや我がごとく思ひつきせぬわかれする人

大藏卿行宗

俊頼朝臣ものへまかりける時遣しける

頼むべき我身なりせば幾度か歸りこむ日を君に問はまし

大納言經信

帥になりて下りけるに別れ惜むとて津守國基が、六とせにぞ君はきまさむと云へりける返事に

とゞまるも過ぎ行く身をも住吉の松の齡と祈らざらめや