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新後拾遺和歌集卷第十 羇旅歌
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10. 新後拾遺和歌集卷第十
羇旅歌

民部卿爲藤

嘉元の百首の歌奉りける時、旅

志ひて猶思ひ立つかな旅衣行きてはかへる道とばかりに

後芬陀利花院前關白左大臣

旅の歌とて

故郷を立ちし日數は積れどもなほ末とほき旅ごろもかな

前大納言爲定

文保三年百首の歌奉りける時

やすらひに我が古郷を出でしより頓て日數の積る旅かな

平政村朝臣

題志らず

都出でゝ今日越え初むる逢坂の關や旅寐の始めなるらむ

後照念院關白太政大臣

嘉元の百首の歌奉りけるに、關

越えて行く杉の下道明けやらで鳥のねくらき逢坂のせき

前關白近衞

百首の歌奉りし時、旅

鳥の音に關をば越えて逢坂の山路よりこそ明初めにけれ

後鳥羽院御製

題志らず

駒なべて打出の濱を見わたせば朝日にさわぐ志賀の浦波

人丸

朝まだき我がうち越ゆる立田山深くも見ゆる松の色かな

小式部内侍

人もこえ駒もとまらぬ逢坂の關は清水のもる名なりけり

正三位經朝

旅行の心を

夕烟訪ふべき里の知るべだにまだはるかなる武藏野の原

源頼貞

雲もなほ志たに立ちける棧の遙かに高き木曾のやまみち

堯尋法師

里まではまだ遙かなる宇津の山夕ゐる雲に宿や訪はまし

藤原政宗

題志らず

明けば又獨や行かむ夜もすがら月に伴なふ宇津の山ごえ

式子内親王

自から逢ふ人あらば言傳てよ宇津の山邊を越え別るとも

後山階前内大臣

延文二年百首の歌奉りしに、旅

足引の山わけ衣さのみやは雲よりくもに日かずかさねむ

後光嚴院御製

露拂ふ袂もいとゞ干し侘びぬ山わけごろも日數かさねて

藤原爲盛

題志らず

行く末を急ぐにつけて旅衣ふる里とほくなほへだてつゝ

權中納言資教

百首の歌奉りし時、旅

行きつるゝ友となるより旅衣立ち寄る宿に人もつきつゝ

從二位嚴子

旅の歌とて

行き暮るゝ露わけごろも干しやらでさながら結ぶ草枕哉

藤原基世女

都思ふ涙の上にたびごろも野山のつゆをかさねてぞ敷く

兼好法師

都思ふ草のまくらの夢をだにたのむかたなく山風ぞ吹く

僧正行意

峰より出で侍りて又あづまの方へ修行し侍りけるにさやの中山にて詠み侍りける

これよりも深き嵐に聞きなれて今宵は寐ぬるさやの中山

法印顯詮

題志らず

露拂ふ草の枕に聞き侘びぬ今宵かり寐の鳥籠のやまかぜ

法眼澄基

嵐吹く野原の草の露ながら結ぶかり寐のゆめぞはかなき

讀人志らず

草枕たびは如何なる契にてなれぬ人をもともと待つらむ

中宮大夫公宗

行き暮れて今日も宿訪ふたび衣着つゝ假寐の數や重ねむ


後久我太政大臣

八幡宮の撰歌合に、羇中暮

暮は又いづくに宿をかりの鳴く峯に別るゝ袖のあきかぜ

前參議爲實

題志らず

暮れぬとて山路わかるゝ衣手に伴ひ捨つる峯のあきかぜ

源詮直

行く末の宿をやかねて定めけむ暮れて急がぬ今日の旅人

祝部尚長

我が爲は結びも置かぬいほ崎の隅田河原に宿や借らまし

讀人志らず

たづの音の聞ゆる田居に庵志て我れ旅なりと妹に告げこせ

刑部卿範兼

旅の歌の中に

はかなしや何處を遂の住みかにて之をば旅と思ひなすらむ

按察使公敏

思ひねと知りてもせめて慰むは都にかよふ夢路なりけり

常磐井入道前太政大臣

かり寐する岡の萱根のかや莚かた敷き明す旅のつゆけさ

權中納言爲重

曉旅と云ふ事を

急げたゞ曉おきの旅ごろも立ちて山路はつゆふかくとも

源兼澄

初瀬に詣でゝ曉に歸るに川霧の立ちけるを見てよめる

川霧も旅の空とや思ふらむまだ夜深くも立ちにけるかな

和泉式部

題志らず

見るらむと思ひおこせて古郷の今宵の月を誰れ詠むらむ

左大臣

百首の歌奉りし時、旅

都をば花を見捨てゝ出でしかど月にぞ越ゆる白川のせき

後京極攝政前太政大臣

和歌所にて六首の歌奉りけるに

夢にだに逢ふ夜稀なる都人寢られぬ月にとほざかりぬる

定顯法師

題志らず

假寐訪ふ月を一夜のちぎりにて手枕うとき猪名のさゝ原

道成法師

さゝ枕猪名野のよはに假寐して古郷とほき月を見るかな

平宗宣朝臣

東へ下りける道にて詠みける

山の端にかたぶく方を都とて心におくるありあけのつき

光嚴院御製

貞和二年百首の歌召しける次でに

草枕假寐の露に我れを置きて伴なふ月もあけがたのそら

前參議雅有

題志らず

明けぬるか今は立ちなむ旅衣袖に消え行く野邊の月かげ

信實朝臣

弘長の百首の歌に、海路

月を見て泊はせじと漕行けば知らぬ浪路に夜ぞ明けにける

崇賢門院

百首の歌奉りし時

有明の影を志るべに誘はれて夜ふかくいづる須磨の浦舟

前大納言爲氏

弘長の百首の歌に

浦波のたよりに風やなりぬらむ由良のみなとを渡る舟人

讀人志らず

題志らず

限なく思ひしよりもわたの原漕ぎ出でゝ遠き末のうら浪

源頼春朝臣

浦風の湊によわる明方もしほにまかせてふなでをぞする

讀人志らず

淡路潟瀬戸の追風吹き添ひてやがてなるとにかゝる舟人

源秀春

舵枕幾夜なれてか浪の音におどろくほどの夢をだに見む

十佛法師

風寒き磯屋の枕夢覺めてよそなるなみに濡るゝそでかな

賀茂清宣朝臣

夢ながら結び捨てつる草枕いく夜になりぬ野邊の假ぶし

等持院贈左大臣

貞和二年、百首の歌に

東路は古郷ながら武藏野のとほきに末をなほやまよはむ

源頼康

旅の歌に

草枕あまた旅寢をかぞへてもまだ武藏野は末ぞのこれる

宗久法師

武藏野も流石果ある日數にや富士の嶺ならぬ山も見ゆ覽

藤原長秀

旅行の心を

富士の嶺をふりさけ見れば白雪の尾花に續く武藏野の原

權大納言經嗣

あらち山越ゆべき道も行き暮れぬ矢田野の草に枕結ばむ

前大納言爲定

孰くにか今宵はさ寢む印南野の淺茅が上も雪降りにけり

讀人志らず

題志らず

古郷の人知るらめやかくばかり旅寢露けき小野のしの原

藤原隆信朝臣

後法性寺入道前關白、右大臣に侍りける時、よませ侍りける百首の歌に

柞原した葉折り敷く山城の岩田の小野に侘びつゝぞぬる