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新後撰和歌集卷第十九 雜歌下
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19. 新後撰和歌集卷第十九
雜歌下

前關白太政大臣

題志らず

忘れずと誰にいひてか慰めむ心にうかぶむかしがたりを

前大納言爲家

弘長元年百首の歌奉りける時、松

昔とてかたるばかりの友もなしみのゝを山の松の古木は

天台座主道玄

廣澤の池にまかりてよみ侍りける

老いてみる我影のみや變るらむ昔ながらのひろさはの池

前大僧正源惠

題志らず

思出のなき人だにも古へを忍ぶならひはありとこそ聞け

讀人志らず

かくて又憂身のはてのいかならむ過にし方は思出もなし

源兼氏朝臣

立ちかへり又古を戀ふるかな頼みし末のうきにつけても

平政長

誰も皆昔を忍ぶことわりのあるにすぎても濡るゝ袖かな

津守國助

賤しきもよきも盛の過ぎぬれば老いて戀しき昔なりけり

藤原忠能

年月の隔たるまゝにしかたの忘られはせで猶ぞ悲しき

前大納言基良女

思ひ出もなきいにしへを忍ぶこそ憂を忘るゝ心なるらめ

平行氏

人はいさ戀しからでやこし方を昔とばかり思ひいづらむ

前大僧正禪助

法眼行濟よませ侍りける熊野の十二首の歌の中に

忍ぶべきならひと思ふことわりに過ぎて戀しき昔なりけり

藤原忠資朝臣

懷舊の心を

その事の故とはなしに戀しきは我身に過ぎし昔なりけり

讀人志らず

ながらへてわが身に過ぎし昔をも心ならでは誰か忍ばむ

前參議雅有

弘安元年百首の歌奉りし時

まどろまぬ現ながらに見る夢は思ひつゞくる昔なりけり

讀人志らず

題志らず

哀れにも見し世に通ふ夢路かなまどろむ程や昔なるらむ

法眼慶融

見しことを寐覺の床におどろけば老の枕の夢ぞみじかき

源通有朝臣

幾かへり秋の夜ながき寐覺にも昔をひとり思ひ出づらむ

後一條入道前關白左大臣

物思はでながめし秋のありがほに何と昔の月を戀ふらむ

前右衞門督基顯

いたづらにかくては獨みざらまし今夜の月の昔なりせば

前大僧正禪助

御持僧に加はりて二間に侍りける事を思ひ出でゝよみ侍りける

天の下千代に八千代と祈るこそ夜居の昔に變らざりけれ

讀人志らず

懷舊の心を

何とかく思ひもわかで忍ぶらむ過ぎにし方も同じ浮世を

高階基政朝臣

いかなれば戀しとおもふ古の月日にそへて遠ざかるらむ

惟宗盛長

出家すとてよめる

年月はいはで心に思ひこしこの世を今ぞそむき果てぬる

三條入道内大臣

世をそむきて後人の音づれて侍りける返事に

今更に袖の色にや知らるらむかねても染めし心なれども

權中納言公雄

前大納言爲氏かしらおろし侍る由を聞きて遣しける

身を捨てしわが墨染は歎かれでよそに悲しき袖の色かな

前大納言爲氏

返し

なにゆゑかよそに歎かむ心より思ひ立ちぬる墨ぞめの袖

前大納言爲世

平貞時朝臣かしらおろし侍りけるに宣時朝臣同じく出家の由聞きて申し遣しける

世をすつる一方をこそ歎きつれ共に背くと聞くぞ悲しき

平宣時朝臣

返し

年たけぬ人だに背く世中に老いてつれなくいかゞ殘らむ

讀人志らず

題志らず

何とまた心に物を思ふらむかゝらじとてぞ世をば厭ひし

藤原景綱

寐ぬにみる此世の夢よいかならむ驚けばとて現ともなし

法眼源承

如何せむ此世の夢のさめやらで又重ならむ長きねぶりを

後光明峰寺前攝政左大臣

源親長朝臣身まかりにける時をはり亂れぬよし聞きて源邦長朝臣に遣しける

夢の世に迷ふと聞かばうつゝにもなほ慰まぬ別ならまし

源邦長朝臣

返し

見し人の捨てゝ出にし夢の世に止る歎ぞさむるともなき

典侍親子朝臣

平親清の女身まかりて後いもうとの許に申し遣しける

よそに聞く人は驚く夢の世を我のみさめず猶なげくかな

藤原爲道朝臣

題志らず

仇野や風まつ露をよそに見て消えむ物とも身をば思はず

經乘法師

道助法親王かくれ侍りにける頃僧正玄瑜のもとへ申し遣しける

思ひ入るみ山がくれの苔の袖數ならずとて置かぬ露かは

道供法師

性助法親王かくれ侍りて後法眼行濟高野に侍りけるに遣しける

人よりも志たふ心は君もさぞあはれと苔の下に見るらむ

典侍光子

題志らず

哀なり我が身に近き鳥部野の烟をよそにいつまでか見む

荒木田氏忠

おくれじと思ふ心やなき人の迷ふやみぢの友となるらむ

土御門入道内大臣

少將内侍身まかりて後佛事のついでに辨内侍人々に勸めてよませ侍りける歌の中に

跡をとふ人だになくば友千鳥しらぬ浦路に猶やまよはむ

性瑜上人

同行身まかりける跡にまかりて

思ひきやこの秋迄になれ/\て今なき跡をとはむ物とは

衣笠内大臣

後世の事など申しける人に

行止るいづくをつひの宿とてかとへ共人に契り置くべき

法印聖勝

同じ法衆をむすびて跡をとふべきよし契り侍りけるにさきだつ人侍りけるを病にわづらひてさゝげ物調じて遣しけるつゝみ紙にかき付けゝる

いきて社有るにも非ぬ身なり共なき人數にいつかとはれむ

前大納言爲氏

前關白太政大臣なげく事侍りける頃程へて申し遣しける

問はずとて愚なるにや思ひけむ心をかへて嘆きこし身を

前關白太政大臣

返し

訪れぬも歎にそへてつらかりき心をかふる程をしらねば

僧正慈順

題志らず

かねてなど厭ふ心のなかる覽遂に行くべき道と聞けども

貞空上人

大宮院かくれさせ給ひて後高野山にをさめ奉られける時よみ侍りける

君もまた契ありてや高野山そのあかつきを共に待つらむ

平行氏

題志らず

つひに行く道を誠の別にてうき世にさらば歸らずもがな

藤原秀茂

惜めどもさらぬならひの命にてうきは此世の別なりけり

中務卿宗尊親王

素暹法師わづらふ事侍りけるがかぎりに聞え侍りければ遣しける

限ぞと聞くぞ悲しきあだし世の別はさらぬ習ひなれども

素暹法師

返し

かくつらき別も知らであだし世の習とばかり何思ふらむ

天台座主道玄

普光園入道前關白かくれ侍りて後よみ侍りける

垂乳根のありし其世に哀など思ふばかりも仕へざりけむ

法印覺寛

題志らず

逢坂の關にはあらでしるしらず遂に行くなる道ぞ悲しき

前中納言定家

後京極攝政かくれ侍りけるあくる日從二位家隆とぶらひて侍りければ

昨日までかけて頼みしさくら花ひと夜の夢の春の山かぜ

從二位家隆

返し

悲しさの昨日の夢にくらぶれば移ろふ花も今日のやま風

從三位氏久

後嵯峨院かくれさせ給ひける春、山里の花を見て

さもこそはみ山隱れの花ならめ憂世もしらぬ春の色かな

平親世

おなじ頃龜山殿より花にそへて光俊朝臣の許に遣しける

すみぞめに咲かぬもつらし山櫻花はなげきの外の物かは

大藏卿行家

郁芳門院かくれさせ給ひて又の年の秋御前の萩をみて

萩が花おなじ匂に咲きにけりうかりし秋の露もさながら

讀人志らず

返し

見る度に露けさまさる萩が花をりしりがほに何匂ふらむ

後光明峰寺前攝政左大臣

秋の比圓明寺にて後一條入道前關白の事を思ひ出でゝよみ侍りける

かくばかりなき跡忍ぶ人もあらじわが世の後の秋の山里

前大僧正慈鎭

九條内大臣身まかりて後の秋さがの墓所にまかりてよみ侍りける

山ざとは袖の紅葉のいろぞこき昔を戀ふる秋のなみだに

平時高

題志らず

消えぬまも見るぞはかなきなき人の昔の跡につもる白雪

前關白太政大臣

京極院の十三年に一品經かきて女房の中に遣すとて

跡忍ぶ心をいかであらはさむかゝる御法の知べならずば

法皇御製

後嵯峨院の御事ののち龜山殿にてよませ給ひける

大井川ゆく瀬の浪もおなじくば昔にかへれ君がかげ見む

後一條入道前關白左大臣

從一位倫子のおもひに侍りける頃よみ侍りける

はかなくもこれを形見と慰めて身にそふ物は涙なりけり

津守國助

津守國平身まかりて後よめる

ある世にも斯やはそひし面影の立ちも離れぬ昨日けふ哉

前大僧正良覺

權中納言公宗身まかりて後三月の盡に山階入道左大臣の許に遣しける

うかりける春の別と思ふにも涙にくるゝ今日のかなしさ

法印定爲

藤原爲道朝臣の第三年に結縁經供養し侍りけるついでに、寄菖蒲懷舊を

かけてだに思ひやはせし菖蒲草ながき別の形見なれとは

常磐井入道前太政大臣

東二條院の半物川浪もの申しける男身まかりにけるが教へ置きけるとてかつらの緒の琵琶をひきけるを聞きて

なかばなる月の桂の面かげを思ひ出でゝやかき曇るらむ

東二條院半物川浪

返し

かきくもるなみだも悲し今さらに半の月を袖にやどして

前大納言實冬

前大僧正隆辨八月十五夜身まかりて侍りける一周忌に結縁經の歌そへて秋懷舊と云ふ事を

めぐりあふこぞの今夜の月みてやなき面影を思出づらむ

前權僧正教範

安嘉門院御忌にこもりて侍りける九月十三夜藤原道信朝臣月みるよし申して侍りければ

今夜とて涙のひまもなき物をいかなる人の月を見るらむ

平時範

平時茂都にて身まかりにける後あづまの月を見てよみ侍りける

めぐり逢ふこれや昔の跡ぞともいつか都の月に見るべき

中臣祐親

題志らず

垂乳根の親の見しよの秋ならば月にも袖は絞らざらまし

法眼行濟

戀ひしのぶむかしの秋の月影を苔のたもとの涙にぞ見る

山階入道左大臣

西園寺入道前太政大臣身まかりて第三年の秋常磐井入道前太政大臣の家にて三首の歌よみ侍りけるに、暮秋雨といふ事を

ふりにける年の三とせの秋の雨さらに夕の空ぞかなしき

大藏卿隆博

八月十五夜後一條入道前關白の事思ひ出でゝよみ侍りける

もろ共に見し夜の秋の面影も忘れぬ月にねをのみぞなく

安喜門院大貳

從三位爲繼身まかりて後日數過ぎて人のつぶらひ侍りければ

今さらに悲しき物は遠ざかるわかれの後の月日なりけり

源兼孝朝臣

源時長朝臣身まかりて後第三年の春いもうとの許に申し遣しける

わかれにし後の三とせの春の月面影かすむ夜半ぞ悲しき

中原行實朝臣

後嵯峨院かくれさせ給ひける時素服給ひてよめる

かすむ夜の空よりも猶すみぞめの袖にもくもる春の月影

前大納言爲氏

性助法親王身まかりにける頃法眼行濟が許に申し遣しける

さこそげに夢の別のかなしきは忘るゝまなき現なるらめ

法眼行濟

返し

なにと又驚かすらむうつゝとは思ひもわかぬ夢の別れ路

前大納言成道

西行法師後世の事など申したりければ

驚かす君によりてぞ長き夜の久しき夏はさむべかりける

西行法師

返し

驚かぬ心なりせば世のなかを夢ぞと語るかひなからまし

藤原景綱

題志らず

何かその人の哀もよそならむ浮世の外にすまぬ身なれば

辨内侍

少將の内侍身まかりにける時さまかへて後いく程なくて信實朝臣に後れてよみ侍りける

呉竹のうき一節に身を捨てつ又いかさまに世を背かまし

蓮生法師

なき人を夢に見て人々歌よみ侍りけるに

諸共に行くべき道に先だちて定めなき世の知べをぞする

前太政大臣

京極院かくれさせ給ひての頃雁を聞きて

身を志れば雲居の雁の一つらも後れ先だつねをや鳴く覽

中務卿宗尊親王家三河

わづらひ侍りける時郭公を聞きて

ことゝへよ誰かしのばむ郭公なからむ跡の宿のたちばな

待賢門院堀川

夏のころ西行法師がもとへ遣しける

この世にて語らひ置かむ時鳥志での山路の知べともなれ

大納言師頼

五月のころ大藏卿行宗父の忌日にて侍りけるに遣しける

あしびきの山郭公けふしこそ昔を戀ふるねをば鳴くらめ

入道前太政大臣

前大納言爲家身まかりて後日數過ぐるほどに前大納言爲氏の許に申し遣しける

五月雨の日數はよそに過ぎながらはれぬ涙や袖ぬらす覽

如圓法師

題志らず

なぞもかく露の命といひ置きて消ゆれば人の袖ぬらす覽

法印乘雅

はかなくも消え殘りては歎くかな誰も行くべき道芝の露

興信法師

何としてうき身ひとつの殘るらむ同じ昔の人はなき世に

源兼氏朝臣

九條右大臣身まかりての頃おなじ心になげきける人の許に申し遣しける

君ゆゑに身に惜まれし命こそ後れて殘る今日はつらけれ

法眼慶融

前大納言爲家に後れて後懷舊の歌よみ侍りけるに

たらちねのさらぬ別の涙より見しよ忘れず濡るゝ袖かな

我身いかにするがの山の現にも夢にも今はとふ人のなき

これは寂蓮法師が歌とて僧正道譽が夢に見え侍りけるとなむ。

讀人志らず

題志らず

苔のしたに埋れぬ名を殘しつゝ跡とふ袖に露ぞこぼるゝ