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新後撰和歌集卷第十二 戀歌二
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12. 新後撰和歌集卷第十二
戀歌二

法皇御製

弘安元年百首の歌召されし次でに

長らへばさても逢ふ世の頼みとて猶惜まるゝ我が命かな

前大納言爲氏

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

限ある命の程のつれなさも戀ひ死なぬにぞ思ひ知らるゝ

太上天皇

おなじ心を

こむ世には契り有りやと戀ひ死なむ逢ふを限の命惜まで

百首の歌めされしついでに

つれなさの限をせめて知りもせば命をかけて物は思はじ

衣笠内大臣

題志らず

戀ひ死なぬ身の難面さを歎にて逢見む迄は思ひ絶えにき

中務卿宗尊親王

あぢきなくいつまで物を思へとてうきに殘れる命なる覽

前中納言俊定

逢はでこそたゞ其儘に戀ひ死なめ中々後のつらさ思へば

院大納言典侍

有りて憂き命に換へて時のまも此世乍らのあふこともがな

藤原業尹朝臣

存へてつらき思はなからまし逢ふに命をかふる世ならば

藤原爲實朝臣

逢ふとみる程は現に變らぬを覺めて夢ぞと思はずもがな

右大臣

百首の歌奉りし時、不逢戀

是れも又たが僞の夢なれば通はぬなかもあふと見ゆらむ

今上御製

夢中逢戀といへる心を

現には逢ふよも知らずみる夢を儚しとては頼みこそせめ

靜仁法親王

戀の歌の中に

逢ふとみし夢の直路に關すゑてうちぬる隙もなき思かな

前中納言爲兼

逢ふことはたゞ思ひ寐の夢路にて現ゆるさぬよはの關守

左近大將道平

逢ふと見る我が思ひ寐の面影を覺めても頼むほどぞ儚き

伊豆盛繼

ぬるが内もいかに頼みて儚くも契らぬ中のゆめを待つ覽

法印長舜

面影の憂に變らで見えもせばいかにせむとか夢を待らむ

常磐井入道前太政大臣

建保六年内裏の歌合に、戀の歌

轉寐につれなく見えし面影を夢と志りても猶やうらみむ

前大納言基良

題志らず

いかにせむまどろむ程の夢にだにうしとみぬよの慰めもがな

從三位行能

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄衣戀

小夜衣返す志るしの慰めもねられし迄の夢にぞ有りける

大江廣茂

戀の歌の中に

思ひ寢の夜はの衣をかへしても慰むほどの夢をやはみる

皇太后宮大夫俊成女

名所の百首の歌奉りし時

歎きつゝ伏見の里のゆめにさへむなしき床をはらふ松風

前大納言資季

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄莚戀

岩が根のこりしく山の苔莚ぬるよもなしと歎くころかな

前參議雅有

題志らず

知らせばや人をうらみの戀衣泪かさねてひとりぬる夜を

讀人志らず

憂き物とわかれになして恨みばやつれなき中の有明の月

院御製

寄弓戀といへるこゝろを

憂き身にはつれなかりける梓弓いかなる方に心ひくらむ

前大納言爲氏

戀の歌の中に

よしさらば唯中々に強面かれうきに負けてや思ひ弱ると

光明峯寺入道前攝政左大臣

積れたゞあはで月日の重ならば暫し忘るゝ折も有りやと

前大納言隆房

よと共に我には物を思はせてさのみや人の志らず顏なる

平貞時朝臣

逢ふまでの知べぞ今はたどらるゝ心の通ふ道はあれども

信實朝臣

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

後はいさ逢ひみぬ先のつらさ社思ひ比ぶる方なかりけれ

讀人志らず

題志らず

初めて猶後は憂く共逢ひみてのつらさを歎く我身共がな

宮内卿經尹

今は唯色に出でゝや恨みまし憂身を知らぬ名にはたつ共

藤原爲實朝臣

いかにせむ泪の河の淺き瀬にあだ波かけてたつ名計りを

花山院内大臣

弘安元年百首の歌奉りし時

浮名をや猶立てそへむ錦木の千つかに餘る人のつらさに

常磐井入道前太政大臣

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

無き名のみおほの浦梨徒らにならぬ戀する身社つらけれ

津守國冬

百首の歌奉りしとき、同じ心を

浦風のはげしき磯の松をみよつれなき色も靡きやはせぬ

左近中將師良

題志らず

かひなしやみるめばかりを契にて猶袖ぬるゝちかの浦波

衣笠内大臣

伊勢の海のをのゝ湊の自づから逢見る程の浪のまもがな

後鳥羽院御製

藻鹽燒く蜑の栲繩打ちはへて苦しとだにもいふ方ぞなき

少將内侍

寳治百首の歌奉りける時、寄衣戀

おのづから逢ふ夜もあらば須磨の蜑の鹽燒衣まどほなり

平長時

戀の歌の中に

須磨の蜑の潮たれ衣浪かけてよるこそ袖も濡れ増りけれ

從三位範宗

名所の百首の歌奉りける時

三熊野の浦の濱ゆふいく代へぬ逢はぬ泪を袖にかさねて

小侍從

千五百番歌合に

浪たかき由良の湊を漕ぐ舟のしづめもあへぬわが心かな

藻壁門院少將

題志らず

寄るべなき棚無小舟朽もせでおなじ入江に身は焦れつゝ

西園寺入道前太政大臣

問はゞやなみぬめの浦に住む蜑も心のうちに物や思ふと

左大辨經繼

身には又まどほにだにも蜑衣慣れぬ袂のなどしをるらむ

遊義門院

つれなくも猶逢ふ事を松島や小島のあまと袖はぬれつゝ

光明峰寺入道前攝政左大臣

家に百首の歌よみ侍りける時、名所戀

立田河くれなゐくゝる秋の水いろもながれも袖の他かは

從二位家隆

後京極攝政の家の六百番歌合に

いかにして影をもみまし澤田川袖つくほどの契なりとも

安嘉門院甲斐

戀の歌の中に

徒らに名のみ流れていさやまた逢ふ瀬も志らぬ床の山川

三條入道内大臣

思河瀬々のうたかた徒らに逢はで消えぬる名を流せとや

荒木田延行

思川いつまで人になびき藻の下に亂れて逢ふせまつらむ

如願法師

涙川うき瀬に迷ふ水の泡の流石に消えぬ身をいかにせむ

民部卿成範

隔川戀

年ふれどわたらぬ中に流るゝを逢隈川と誰れかいひけむ

藤原季宗朝臣

題志らず

人知れぬ戀路の果やみちのくの逢隈川のわたりなるらむ

奨子内親王

よそにのみ猶いつまでか思ひ河わたらぬ中の契たのまむ

大藏卿隆博

法眼行濟よませ侍りける熊野の十二首の歌の中に

我が袖の物とはよしやいはしろの野邊の下草露深くとも

普光園入道前關白左大臣

光明峯寺入道前攝政の家の戀の三十首の歌に

飛鳥河ゆきゝの岡の葛かづら苦しや人に逢はぬうらみは

素暹法師

戀の歌の中に

迷行く末はいかにと問ふべきを我戀路にはあふ人もなし

天台座主道玄

人々すゝめて日吉の社にて廿一首の歌よみ侍りける時

相坂の關の此方のいかなればまだ越えぬより苦しかる覽

今上御製

寄山戀といへる心をよませ給ひける

關無くてたゞ逢坂の山ならばへだつる中に物はおもはじ

權大納言師信

題志らず

誰れにかは相坂山の名のみして我身にこえぬ關となる覽

前參議實俊

いかにせむよその人目の關守にかよふ道なきあふ坂の山

前大納言爲家

白河殿の七百首の歌に、寄雲戀

伊駒山へだつる中の峯の雲何とてかゝるこゝろなるらむ

太宰權帥爲經

建長五年五首の歌に、寄山戀

夜と共にもゆ共いかゞ伊吹山さしも難面き人に知らせむ

讀人志らず

題志らず

戀死なむのちせの山の峯の雲きえなばよそに哀とも見よ

二條院讃岐

千五百番歌合に

富士の嶺も立ちそふ雲はある物を戀の烟ぞまがふ方なき

前參議雅有

戀の歌の中に

烟たつ室の八島はいづくぞと問へな思の行くへ知らせむ

後久我太政大臣

建保六年内裏の歌合に

松島や我が身のかたに燒く鹽の烟のすゑをとふ人もがな

前中納言定家

寄烟戀を

須磨の浦の餘りにもゆる思かな燒く鹽けぶり人は靡かで

大納言師頼

堀川院に百首の歌奉りける時

思ふ事荒磯の海のうつせ貝あはでやみぬる名をや殘さむ

後鳥羽院宮内卿

千五百番歌合に

つれなくも猶長らへて思ふかなうき名を惜む心ばかりに

前大納言實教

祈戀を

憂き人の心も志らず我ればかり命あらばと身を祈るかな

前大納言爲世

内裏の百首の歌奉りし時、おなじ心を

強面さもよしや祈らじ神だにも受けずば後の頼なければ

小侍從

戀の歌の中に

住吉の神の祈りしあふ事のまつも久しくなりにけるかな

高階宗成朝臣

思ふ事種しあらばと頼みても松の妬くや逢はでやみなむ

遊義門院大藏卿

戀死なぬみのゝを山の強面くもいつ迄人に待つと聞れむ

典侍親子朝臣

いとせめてまつに堪へたる我身ぞと知りてや人の強面かる覽

前大納言爲家

弘長元年百首の歌奉りける時、不逢戀

訪へかしな蜑の眞手形さのみやは待つに命の存へもせむ

定覺法師

題志らず

強面さのうきにしもなど長らへて思ひつきせぬ命なる覽

藤原基隆

戀死なむ後に逢ふせのあるべくば猶惜からぬ命ならまし

法印雲雅

長らへてあらばと思ふ心こそ人も契らぬたのみなりけれ

西圓法師

いかにせむ我れのみ人を思ふ共こふとも同じ心ならずば

入道前太政大臣

よしさらば戀死なず共長らへて同じ世にたに有りと聞れむ

藤原爲顯

弘安元年百首の歌奉りし時

我ればかり命にかへて歎く共惜まれぬべき身とは頼まじ

前内大臣

百首の歌奉りし時、不逢戀

偖も又逢はで絶えなば玉の緒の幾世をかけて思ひ亂れむ

大江頼重

戀の歌の中に

廻逢はむ來む世も知らぬ契には身をかへて共え社頼まね

源親長朝臣

つらく共猶空蝉の身をかへて後の世までや人を戀ひまし

醍醐入道前太政大臣

千五百番歌合に

池水につがはぬ鴛鴦の浮枕ならぶかたなき戀もするかな

前中納言資實

題志らず

行く水に數かく人も我がごとく跡なき戀に袖やぬれけむ

藤原顯仲朝臣

物思へばまのゝ小菅のすが枕絶えぬ泪に朽ちぞ果てぬる

源家長朝臣

光明峯寺入道前攝政の家の戀の十首の歌合に、寄弓戀

つれなさのためしに引かむ梓弓思ひよわらぬ心づよさを

前大僧正聖兼

戀の歌の中に

物思ふ泪のはてもいかならむ逢ふを限のなくてやみなば

前大納言實家

玉葛絶えぬつらさの年をへてさのみや人におもひ亂れむ

入道二品親王性助

弘安元年百首の歌奉りし時

さりともと思ふ心に年ふるはつらきも絶えぬ契なりけり

藤原爲信朝臣

逢ふまでと頼む月日の果もなしうきを限りの心ながさに

前大納言良教

題志らず

強面さのうきにつけても喞つ哉世々の昔の知らぬ報いに

權大納言實國

先の世に我に心や盡しけむ報いならではかゝらましやは