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新後撰和歌集卷第九 釋教歌
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9. 新後撰和歌集卷第九
釋教歌

皇太后宮大夫俊成

法華經方便品、其知惠門難解難入の心を

入り難く悟り難しと聞く門をひらけば花の御法なりけり

前大納言經任

譬喩品

子を思ふ親の教のなかりせば假のやどりに迷ひ果てまし

了然上人

今得無漏無上大果

尋ねつる雲より高き山越えて又上も無きはなを見るかな

後嵯峨院御製

授記品

更け行けば出づべき月と聞くからに兼て心の闇ぞ晴ぬる

法印公紹

結びおく世々の契も深草のつゆのかごとにぬるゝ袖かな

圓世法師

化城喩品

假そめの宿とも知らで尋ねこし迷ぞ道のしるべなりける

前大僧正道寳

五百弟子品

下にすむもとの心を知らぬかな野中の清水み草ゐぬれば

法印乘雅

以無價寳珠繋着内衣裏

などか我れ衣の裏のたまさかに法にあひても悟らざり劔

前大僧正行尊

衣手に包みし玉のあらはれてうらなく人に見ゆる今日哉

前大僧正公澄

須臾聞之即得究竟

一聲を聞き初めてこそ郭公鳴くに夜ふかき夢はさめけり

皇太后宮大夫俊成

寂寞無人聲讀誦此經典

問ふ人の跡なき柴のいほりにもさしくる月の光をぞ待つ

源有長朝臣

乃至以身而作床座

仙人の苔の蓆に身を代へていかに千年をしきしのぶらむ

光俊朝臣

不信是經則爲大失

頼まれぬ心ぞ見ゆる來ては又空しき空にかへるかりがね

法印源爲

不輕品

草の庵柴のあみ戸の住まひまでわかぬは月の光なりけり

俊頼朝臣

神力品

大空を御法の風や拂ふらむ雲がくれにしつきを見るかな

前大納言忠良

於我滅度後應受持此經

あらざらむ後の世かけし契こそ頼むにつけて嬉かりけれ

八條院高倉

是人於佛道決定無有疑

契り置く其行く末の頼みあらば此世を憂しと何か歎かむ

寂蓮法師

囑累品

忘るなといひても袖やしをれ劔跡留むべき此世ならねば

従三位光成

若爲大水所漂稱其名號則得淺處

行く水の深き流れに沈みても淺瀬ありとぞなほ頼むべき

源兼氏朝臣

觀普賢經、見諸障外事

春の夜の霞や空に晴れぬらむ朧げならぬつきのさやけさ

中務卿宗尊親王

同じ經の心を

露霜の消えてぞ色は増りける朝日に向ふみねのもみぢ葉

安喜門院大貳

題志らず

世々を經てたへなる法の花ならば開けむ時の契たがふな

前大僧正忠源

天台の法門御尋にあづかる事代々になりぬる事を思ひてよみ侍りける

習ひこし妙なる法の花故に君にとはるゝ身とぞなりぬる

前大僧正聖忠

釋教の心を

鷲の山後のはるこそ待たれけれ心の花のいろをたのみて

太上天皇

鷲の嶺やとせの秋の月きよみその光こそこゝろにはすめ

後京極攝政前太政大臣

家に花の五十首の歌よみ侍りけるに

鷲の山御法の庭に散る花を吉野のみねのあらしにぞ見る

皇太后宮大夫俊成

久安の百首の歌に

常にすむ鷲の高嶺の月だにも思ひ知れとぞ雲がくれける

西音法師

二月十五日の夜湛空上人に申し遣しける

二月の半の空の夜はの月入りにしあとのやみぞかなしき

湛空上人

返し

闇路をば彌陀の御法にまかせつゝ春の半の月は入りにき

天台座主道玄

文永七年冬の比内裏にて寒の御祈の爲に如法佛眼の法修じ侍りける時雪の降りて侍りければ承元の昔の跡を思ひて奏させ侍りける

九重に降りしく雪はいにしへの法の莚にあとや見ゆらむ

法皇御製

御返し

いにしへの跡を知らせて降る雪の頼む心は深くなりぬる

前大僧正公什

正安二年法皇に灌頂授け奉りて後わが山に其跡稀なる事を思ひてよみ侍りける

思ひきや我が立つ杣のかひ有て稀なる跡を殘すべしとは

前中納言爲房

大日經を

品々にかはる心のいろもみなはてはひとつの誓なりけり

前僧正公朝

理趣經、慾無戯論性故瞋無戯論性

愚かなる心に種はなかりけり四方の草木のあるに任せて

法印覺源

父母所生身即證大覺位の心を

誰れ故に此度かゝる身を受けて又あり難き法にあふらむ

讀人志らず

成自然覺不由他悟

我れとたゞ行きてこそ見め法の道人の教を知べとはせじ

前大僧正隆辨

蜜嚴世界

迷ひしもひとつ國ぞと悟るかな誠の道のおくぞゆかしき

前大僧正公什

傳法の序でに思ひつゞけ侍りける

教へ置く法の道芝ふみ見れば露もあだなる言の葉ぞなき

權少僧都道順

一流の事を思ひてよみ侍りける

夏草のことしげき世に迷ひてもなほ末頼むをのゝふる道

二品法親王覺助

弘安元年百首の歌奉りし時

身を去らぬ心の月に雲晴れていつか誠のかげも見るべき

太上天皇

百首の歌召されし序でに、釋教

まどかなる八月のつきの大空に光となれる四方のあき霧

後一條入道前關白左大臣

題志らず

迷ふべき闇路を近く思ふにも見捨て難きはよはの月かげ

後京極攝政前太政大臣

長き夜の更け行く月を詠めても近づく闇を知る人ぞなき

中院入道右大臣

月あかゝりける夜西行法師詣で來て侍りけるに、出家の志あるよし物語して歸りける後、其夜の名殘多かりし由など申し送るとて

終夜月を詠めてちぎり置きしそのむつ言に闇は晴れにき

西行法師

返し

すむと見えし心の月し顯れば此世も闇の晴れざらめやは

小侍從

心月輪の心を

潔く月は心にすむものと知るこそやみのはるゝなりけれ

前大僧正行尊

暗き夜の迷の雲の晴れぬれば靜かにすめる月をみるかな

見佛上人

蓮生法師松島へ詣でゝ法門などだんじて歸り侍りけるに遣しける

長き夜の闇路に迷ふ身なりともねぶりさめなば君を尋ねむ

蓮生法師

返し

闇路には迷ひも果てじ在明のつきまつ島の人のしるべに

皇太后宮大夫俊成

美福門院に極樂六時の讃を繪に書かせら

[_]
[2]ね
て書くべき歌つかうまつりけるに七重寳樹の風には一實相の理をしらべむ

影清き七重のうゑ木うつり來て瑠璃の扉も花かとぞ見る

權少僧都俊譽

無量壽經四十八願の心をよみ侍りけるに、聞名具徳願

吉野川花の岩波名に立てゝよる瀬を春のとまりとぞ聞く

中原師光朝臣

具足諸相願

三十あまり二の姿たへなればいづれも同じ花のおもかげ

祝部成賢

觸光柔軟

身を去らぬ日吉の影を光にて此世よりこそ闇は晴れぬれ

源邦長朝臣

觀無量壽經、正坐西向諦觀於日といふ事を

西にのみ向ひの岡の夕附日外にこゝろのうつりやはする

蓮生法師

水想觀

水すめばいつも氷はむすびけり心や冬のはじめなるらむ

大江頼重

光明遍照十方世界の心を

草の原ひかり待ちとる露にこそ月も分きては影宿しけれ

大藏卿隆博

釋教の歌の中に

立ち歸り又ぞ沈まむ世に踰ゆる元の誓のなからましかば

常磐井入道前太政大臣

是心是佛の心を

今更に佛の道を何とかはもとのこゝろのほかにもとめむ

後嵯峨院御製

下輩觀をよませ給ひける

愚かなる涙の露のいかでなほ消えてはちすの玉となる覽

耆闍會

言ひ置きし我が言の葉のかはらぬに人の誠は顯れにけり

天台座主道玄

阿彌陀經、歡喜信受の心を

嬉しさをさながら袖に包むかな仰ぐ御空の月をやどして

壽證法師

三輩一向專念無量壽佛

三吉野のみつわけ山の瀧つ瀬も末は一つの流れなりけり

權少僧都房嚴

一切善惡凡夫得生者

秋深くしぐるゝ西の山風にみなさそはれて行く木の葉哉

禪空上人

釋教の心を

一方に頼みをかくる白糸のくるしきすぢに亂れずもがな

式子内親王

阿彌陀を

露の身に結べる罪は重くとも洩らさじ物を花のうてなに

住慣れし跡を忍ぶる嬉さに洩さず過ぐる身とは知らずや

此の歌は禪林寺の住僧の夢に律師永觀の歌とて見えける。

蓮生法師

人の許より西へ行く道を忍べよと申して侍りければ

思ひ立つ心計りを知べにて我れとは行かぬ道とこそ聞け

順空上人

同じさまに申しける人に

爰にやり彼處によばふ道はあれど我心より迷ふとを知れ

基俊

題志らず

澄みのぼる月の光をしるべにて西へもいそぐわが心かな

法眼能信

往生禮讃に、必有事礙不及向西方、但作向西想亦得といふ事を

夕暮の高嶺を出づる月影も入るべきかたを忘れやはする

唯教法師

彌勒を

めぐりあふ我が身ならずばいかゞせむ其曉の月は出づ共

後京極攝政前太政大臣

天王寺に詣でゝよみ侍りける

西を思ふ心ありてぞ津の國の難波方りは見るべかりける

郁芳門院安藝

同じ寺にて所々の名を人々歌によみ侍りけるに、龜井

稀に説く御法の跡を來て見れば浮木にあへる龜井なり鳬

大炊御門右大臣

久安の百首の歌に、釋教

世の中を厭ふ餘りに鳥のねも聞えぬ山のふもとにぞ住む

前大僧正守譽

合會有別離の心を

稀にだに逢へば別の悲しきに知らでや鹿
[_]
[3]の
妻を戀ふらむ

鷹司院帥

釋教の歌の中に

色も香も空しき物と教へずば有るをあるとや思果てまし

法印定圓

金剛般若經の不應取法不應取非法

吉野山分きて見るべき色もなし雲もさくらも春風ぞ吹く

普光園入道前關白左大臣

我於阿耨多羅三藐三菩提乃至無有小法

夢の内に求めし法の一ことも誠なきこそうつゝなりけれ

皇太后宮大夫俊成女

勝王經吉祥天女品の心を

誓あれば空行く月の都人そでにみつなるひかりをぞみる

前太政大臣

圓覺經、始知衆生本來成佛生非涅槃猶如昨夢といふ心を

覺めやらぬ浮世の他の悟ぞと見しは昨日の夢にぞ有ける

法印圓勇

欲知過去因見其現在果を

數ならず生れける身の理に前の世までのつらさをぞ知る

參議雅經

衆生無邊誓願度

行くへなき身を宇治川の橋柱立てゝしものを人渡せとは

前大僧正忠源

以觀觀昏即昏而朗

村雲にかくるゝ月は程も無くやがてさやけき光をぞ見る

了然上人

大日經三々昧那品現般涅槃成就衆生

迷はじな入りぬと見ゆる月も猶同じ空行く影と知りなば

寂然法師

弘决秋九月從慈始入天台といふ心を

長月の有明の月ともろともに入りける峰を思ひこそやれ

僧正範憲

迷悟一如の心を

さとるべき道とて更に道もなし迷ふ心もまよひならねば

心海上人

一念不生

草の葉にむすばぬさきの白露は何を便りにおき始めけむ

基俊

堀河院に百首の歌奉りける時

浮世には消なば消えね蓮葉に宿らば露の身ともなりなむ

今出川院近衛

煩惱即菩提の心を

思ひきや袖に包みしほたるをも衣のうらにかくる玉とは

見性法師

題志らず

言のはもおよばぬ法の誠をば心よりこそつたへそめしか

惟宗忠景

五戒の歌の中に、不妄語戒

僞の心あらじとおもふこそたもてる法のまことなりけれ

花山院内大臣

釋教の心を

むつの道迷ふと思う
[_]
[4]心そ
たちかへりては知るべなりけれ

前大納言教良

いかにせむ法の舟出も知らぬ身は苦しき海に又や沈まむ

圓空上人

身を思ふ人社げには無りけれうかるべき世の後を知らねば

前大僧正慈鎭

厭離穢土の心を

皆人のさらぬ別を思ふこそ浮世をいとふかぎりなりけれ

僧正道潤

題志らず

行く末は迷ふ習としりながら道をもとめぬ人ぞはかなき

慈道法親王

悟りとてほかに求むる心こそ迷ひそめけむ始めなるらめ

前内大臣

百首の歌奉りしとき、釋教

しばしこそ人の心に濁るともすまでやむべき法の水かは

前太政大臣

同じ心を

ほかになき御法の水の清ければ我心をばくみてしるべき

權中納言公雄

同じくば流れを分くる法の水の其の水上を爭でくまゝし

前大僧正公澄

叡山の谷々にならひかへ侍る法門の事申しける人の返事に

法の水一つ流をむすびてもこゝろ%\にすゑぞなりゆく

權少僧都良信

唯識論の由此有諸趣及涅槃證得の心を

氷りしも同じ心の水なればまたうちとくる春にあふかな

法印實聽

如清水珠能清濁の心を

すみそめし元の心の清ければ濁りもはてぬ玉の井のみづ

權少僧都實壽

題志らず

終夜窓のともし火かゝげてもふみみる道になほまよふ哉

平親清女妹

ぼにの頃佛の御前にさぶらひて思ひつゞけ侍りける

しるべせよ暗き暗路にまよふとも今宵かゝぐる法の燈火

澄覺法親王

釋教の歌とて

古への跡ふみ見むとかゝげても心にくらき法のともしび
[_]
[2] SKT reads れ.
[_]
[3] A character here in our copy-text was illegible. SKT reads の.
[_]
[4] SKT reads 心こそ.