University of Virginia Library

信濃の國墨坂といふ所に、中村なにがしといふ醫師ありけり、その父のわざくれに蛇 のつるみたるを打殺したりけるが、其夜かくれ所のものづき/\痛み出して、つひに くされてころりとおちて死けるとかや。其子、親の業をつぎて三哲といふ。並み/\ より勝れてふとくたくましき松茸のやうなるものもちたりけり、しかるに妻を迎へて、 始て交りせんとする時、棒を立たるやうなるもの、たゞちにめそ/\と小さく、燈心 に等しくふは/\として、今さらにふつと用立ぬものから、耻しくもどかしくいま/ \しく、婦人を替たらましかば又幸あらんと、百人ばかりもとり替へ引かえ、妾を かゝえぬれど、みな/\前の通りなれば、狂氣の如くたゞいらちにいらちて、今は獨 身にてくらしけり。かゝる事うぢ拾遺物語其外昔双紙などにばかりと思ひ捨侍りける を、今目の前に見んとは、是かの蛇の執念に、其家血筋たやすならんと、人々ひそか に噂きけり、されば生とし活るもの、蚤虱にいたるまで、命おしきは人に同じからん、 ましてつるみたるを殺すは罪深きわざなるべし。

魚どもや桶ともしらで門凉み 一茶
とくかすめとく/\かすめ放ち鳥
彼岸の蚊釋迦のまねして喰れけり
大江丸 光俊卿
水ふねにうきてひれふる生け鯉の
命まつ間もせはしなの世や 俊頼卿
ふしつけしおどろが下に住むはへの
心おさなき身をいかにせん

淺間山

晝顏やぽつぽと燃る石ころへ 一茶

俳諧宗雲水に送る

鬼茨も添て見よ/\一凉み

古之爲關也將以禦暴今之爲關也將以爲暴

關守りの灸點はやる梅の花 一茶
人聲に子を引かくす女鹿かな
はつ螢其手はくはぬとびぶりや
蓮の花少曲るもうき世かな
隈界のなまけ所や木下闇

大沼

萍の花からのらんあの雲へ

越後>

柿崎やしぶ/\鳴の閑古鳥

江戸住居

青草も錢だけそよぐ門凉
なでしこに二文が水を浴せけり

小金原

母馬が番して呑す清水かな
風あるをもつて尊とし雲の峯
疫病神蚤も負せて流しけり

茂林寺

蝶々のふはりと飛んだ茶釜かな
櫻までわるくいはする藪蚊かな
蟻の道雲の峰よりつゞきけん