University of Virginia Library

他力信心/\と一向に他力にちからを入れて頼み込み候輩は、つひに他力繩に縛れて、 自力地獄の炎の中へほたんとおち入候、其次に、かゝるきたなき土凡夫をうつくしき 黄金の膚になしくだされと、阿彌陀佛におし誂へに誂ばなしにしておいて、はや五體 は佛染み成りたるやうに惡るすましなるも、自力の張本人たるべく候。問ていはく、 いか樣に心得たらんには、御流儀に叶ひ侍りなん。答ていはく、別に小むづかしき子 細は不存候、たゞ自力他力何のかのいふ芥もくたを、さらりとちくらが沖へ流して、 さて後生の一大事は、其身を如來の御前に投出して、地獄なりとも、極樂なりとも、 あなたさまの御はからひ次第あそばされくださりませと、御頼み申ばかりなり。如斯 決定しての上には、なむあみだ佛といふ口の下より、慾の網をはるの野に、手長蜘の 行ひして、人の目を霞め、世渡る雁のかりそめにも、我田へ水を引く盗み心をゆめ/ \持べからず、しかる時は、あながち作り聲して念佛申に不及、ねがはずとも佛は守 り玉ふべし、是則、當流の安心とは申なり、穴かしこ
五十七齡

ともかくもあなた任せのとしのくれ 一茶

文政二年十二月廿九日