University of Virginia Library

十五夜は高井野梨本氏にありて

古郷の留守居も一人月見かな 一茶

月蝕皆既亥七刻右方ヨリ缺、子六刻甚ク丑ノ五刻左終

人數は月より先へ缺にけり 一茶
人の世は月もなやませ給ひけり
潜上に月の缺るを目利かな
酒盡てしんの坐につく月見かな

おのが味噌のみそ嗅を知らず

蕎麥國のたんを切つゝ月見かな

九月十六日正風院菊會

鍬さげて神農顏や菊の花
菊園や歩きながらの小盃
杖先で畫解するなりきくの花
入道の大鉢巻できくの花
下戸菴が疵なりこんな菊の花

さと女笑顔して夢に見へけるまゝを

頬ぺたにあてなどしたる眞瓜かな
どう追れても人里を渡り鳥
山雀の輪拔しながらわたりけり
鵙の聲かんにん袋きれたりな
蟷螂や五分の魂是見よと

高井野の高みに上りて

秋風や磁石にあてる古郷山
行灯を松に釣して小夜砧
行な雁往ばどつちも秋の暮

若僧の扇面に

影法師に耻よ夜寒のむだ歩き
こんな村なんとの行か渡り鳥 白飛
藪陰やことし酒屋のことし酒 土英

老樂

子どもらを心でおがむ夜寒かな 一茶
こほろぎのとぶや唐箕のほこり先 一茶
小菊なら繩目の耻はなかるべし

戸迷ひせし折からに

小便所爰と馬よぶ夜寒かな
喧嘩すなあひみたがひの渡り鳥
さをしかやゑひしてなめるけさの霜
狼は糞ばかりでも寒かな
一つかみ塗樽拭ふ紅葉かな
むら千鳥そつと申せばばつと立
炭の火や朝の祝儀の咳ばらひ
三介が敲く木魚もしぐれけり
木がらしやから呼されし按摩坊

善光寺門前憐乞食

重箱の錢四五文や夕時雨
大根引拍子にころり小僧かな
はつ雪の降り捨てある家尻哉
木からしや折介歸る寒さ橋
菜畠を通してくれる十夜哉
雪ちるやおどけもいへぬしなの空
能なしは罪も又なし冬籠

強盗はやりければ

張番に菴とられけり夜の霜
彼是といふも當坐ぞ雪佛
お袋がお福手ちぎる指南哉
餅搗が隣へ來たといふ子かな

餅花

かまけるな柳の枝にもちがなる
子のまねを親もするなり節季候

東に下らんとして中途迄出たるに

椋鳥と人に呼るゝ寒かな

護持院原

木がらしや廿四文の遊女小屋 一茶

兩國橋

寒垢離にせなかの龍の披露かな

かも川をわたらじとちかひし人さへあるにひと度籠りし深山を下りてしら髪つむりを 吹れつゝ名利の地に交る

恥かしやまかり出てとる江戸のとし
其迹は子どもの聲や鬼やらひ

小人閑居成不善

冬籠り惡く物喰を習けり

廿一日節分

一聲に此世の鬼は迯るよな
けふからは正月分ンぞ麥の色

札納

梅の木や御祓箱を負ながら