University of Virginia Library

今年みちのくの方修行せんと、乞食袋首かけて、小風呂敷せなかに負たれば影法師は さながら西行らしく見えて殊勝なるに、心は雪と墨染の袖と思へば/\入梅晴のそら はづかしきに、今更すがた替へるもむつかしく、卯の花月十六日といふ日、久しく寐 馴れたる菴をうしろになして、二三里も歩みしころ、細杖をつく/\思ふに、おのれ すでに六十の坂登りつめたれば、一期の月も西山にかたぶく命、又ながらへて歸らん ことも、白川の關をはる%\越える身なれば、十府の菅菰の十に一ツもおぼつかなし と、案じつゞくる程に、ほとんど心細くて、家々の鶏の時を告る聲もとつてかへせと よぶやうに聞へ、畠々の麥に風のそよ吹くも、誰ぞまねくごとく覺へて、行道もしき りにすゝまざれば、とある木陰に休らひて、痩脛さすりつゝ詠るに、柏原はあの山の 外、雲のかゝれる下あたりなどおしはかられて、何となく名殘りおしさに

思ふまじ見まじとすれど我家かな 一茶

おなし心を

故郷に花もあらねどふむ足の
迹へ心を引くかすみかな
あまひらをおどろかさじと青麥に
ほどよき風の吹すぐるかな
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日々懈怠不惜寸陰

けふの日も棒ふり蟲よ翌も又 一茶

無限欲有限命

此風に不足いふなり夏坐敷
起/\の欲目引張る青田哉

心に思ふことを

故郷は蠅まで人をさしにけり
直き世や小錢程でも蓮の花
松陰や寐蓙一ツの夏坐敷

題童唄

三度掻て蜻蛉とまるや夏座敷 希杖
片息に成て逃入る螢かな 一茶
夕顏の花で涕かむおばゞかな
あついとてつらで手習した子哉
大螢ゆらり/\と通りけり

田中川原如意湯に晝浴みして

なを暑し今來た山を寐て見れば
なむあみだ佛の方より鳴蚊かな
とべよ蚤同し事なら蓮の上
かくれ家は蠅も小勢でくらしけり
ひいき鵜は又もから身で浮みけり
松の蝉どこまで鳴て晝になる
今迄は罰もあたらず晝寐蚊屋
はなれ鵜が子のなく舟に戻りけり
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[note] Issa Zenshu acknowledges the author as Issa at this point.