University of Virginia Library

わが友魚淵といふ人の所に、天が下にたぐひなき牡丹咲きたりとて、いひつぎきゝ傳 へて、界隈はさらなり、よそ國の人も足を勞して、わざ/\見に來るもの、日々多か りき。おのれもけふ通りがけに立より侍りけるに、五間ばかりに花園をしつらひ、雨 覆ひの蔀など今樣めかしてりゝしく、しろ紅ゐ紫花のさま透間もなく開き揃ひたり、 其中に黒と黄なるはいひしに違はず目をおどろかす程めづらしく妙なるが、心をしづ めてふたゝび花のありさまを思ふに、ばさ/\として、何となく見すぼらしく、外の 花にたくらぶれば、今を盛りのたをやめの側に、むなしき屍を粧ひ立て竝べおきたる やうにて、さら/\色つやなし。是主人のわざくれに紙もて作りて、葉がくれにくゝ りつけて、人を化すにぞありける、されど腰かけ臺の價をむさぼるためにもあらで、 たゞ日々の群集に酒茶つひやしてたのしむ主の心おもひやられて、しきりにをかしく なん。

紙屑もぼたん顏ぞよ葉がくれに 一茶