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續拾遺和歌集卷第七 雜春歌
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7. 續拾遺和歌集卷第七
雜春歌

衣笠内大臣

弘長元年百首の歌奉りける時初春の心を

あふさかの關の杉村雪きえて道ある御代と春はきにけり

俊頼朝臣

同じこゝろを

いつしかと今朝は氷も解けにけり爭で汀に春を知るらむ

雅成親王

春の歌の中に

池に生ふる水草の上の春の霜あるにも非ぬ世にもふる哉

前大納言顯朝

雪は猶冬に變らずふる里に春きにけりとうぐひすぞ鳴く

式乾門院右京大夫

山里にて鶯のおそく鳴きければよみ侍りける

そむきにし身にはよそなる春なれど猶鶯の聲ぞ待たるゝ

源兼氏朝臣

山階入道左大臣の家の十首の歌に子日松と云ふ事を

谷かげや子日にもるゝ岩ね松誰にひかれて春を志らまし

皇太后宮大夫俊成

四位の後崇徳院の還昇いまだ許されざりける頃百首の歌部類して奉りけるついでに

雲居よりなれし山路を今さらに霞へだてゝなげく春かな

是を聞し召して還昇仰せられけるとなむ。

後嵯峨院御製

寳治百首の歌めしけるついでに、山霞

今はまた霞へだてゝおもふかな大うち山の春のあけぼの

前大納言爲家

白河殿の七百首の歌におなじ心を

山の端のみえぬを老に喞てども霞みにけりな春の明ぼの

從二位家隆

建保三年内裏の歌合に、江上霞

なには江や霞の志たの澪標春の志るしやみえて朽ちなむ

平親清女

題志らず

汐かぜのおともたかしの濱松に霞みてかゝる春の夕なみ

八條院高倉

春の歌の中に

みても又たれか忍ばむ故郷のおぼろ月夜ににほふ梅がえ

兵部卿隆親

世をそむきて外に移りゐ侍りにけるに人のもと住みける所の梅を見てよみ侍りける

折りてだに見せばや人に梅の花ありし色香を忘果てずば

前大納言爲家

康元元年二月の頃わづらふ事ありて司奉りてかしらおろし侍りける時よみ侍りける

數ふれば残る彌生もあるものを我身の春に今日別れぬる

天台座主公豪

歸雁を

雁がねは秋と契りてかへるとも老の命をいかゞたのまむ

藤原隆祐朝臣

秋風にあひみむ事はいのちとも契らでかへる春の雁がね

右近中將經家

前關白一條の家に百首の歌よみ侍りけるに、歸雁幽

あさぼらけ霞のひまの山の端をほのかに歸る春の雁がね

前中納言定家

建保百首の歌奉りけるとき

花の色にひと春まけよ歸る雁ことし越路の空だのめして

月花門院

初花の心を

咲きにけりまやの軒端の櫻花あまり程ふる詠めせしまに

土御門院小宰相

花の歌の中に

便あらば問へかし人のあるじとて頼む計の花ならねども

右近中將師良

今さらに春とて人も尋ねこずたゞ宿からの花のあるじは

藤原仲敏

前大納言爲家住吉の社にて歌合し侍りけるに、野花

かへるさは遠里をのゝ櫻がり花にやこよひ宿をからまし

如圓法師

題志らず

吹きおくる嵐を花のにほひにて霞にかをる山ざくらかな

源時清

河邊花といへる心を

散らぬまの浪も櫻にうつろひぬ花のかげ行くやま川の水

藤原基政

春宮帶刀にて侍りけるを思ひ出でゝよめる

いにしへの春のみ山の櫻花なれし三とせのかげぞ忘れぬ

權少僧都嚴雅

故郷花といふ事をよみ侍りける

いにしへのあるじ忘れぬ故郷に花も幾たび思ひ出づらむ

前大僧正道玄

おなじ心を

見ずしらぬ世々の昔もしのばれて哀とぞ思ふ志賀の花園

兵部卿隆親

東山に花見にまかりてよみ侍りける

思ひいでの春とや人に語らまし花に泪のかゝらざりせば

前内大臣

花の歌の中に

ふりまさる齡を花にかぞへてもあかぬ心はたえぬ春かな

衣笠内大臣

年毎に後の春とも知らざりし花にいく度なれて見つらむ

信實朝臣

いつまでか雲居の櫻かざしけむをり忘れたる老の春かな

法印公朝

四十迄花に心を染めながら春をしらでも身こそ老いぬれ

京月法師

長らへて八十の春に逢ふことは花見よとての命なりけり

眞願法師

世を遁れてのち花を見てよめる

春きてぞ心よわさも知られぬる花になれゆく墨ぞめの袖

前大僧正慈鎭

後京極攝政の家の花の五十首の歌に

かく計へがたき物を月よりも花こそ世をば思ひしりけれ

土御門院御製

題志らず

咲きて散る花をもめでじ是ぞこの嵐に急ぐあだし世の中

前中納言定家

花盛に西園寺入道前太政大臣の許より音づれて侍りける返事に

大方の春に知られぬならひゆゑ頼む櫻もをりや過ぐらむ

蓮生法師

花をみてよみ侍りける

あだにのみ思ひし人の命もて花をいくたび惜みきぬらむ

中原行範

雲林院にて花の散りけるをよめる

命をもたがためとてか惜みこし思ひ志らずも散る櫻かな

平長時

落花をよめる

さらでだに移ろひやすき花の色に散るを盛と山風ぞ吹く

藤原景綱

ありて世ののちはうくとも櫻花さそひなはてそ春の山風

靜仁法親王

花は皆詠めせしまに散りはてゝ我身世にふる慰めもなし

源光行

大内の花み侍りけるに人のもとよりあらぬさまの事を申して侍りける返事に

尋ねきてふみ見るべくもなき物を雲居の庭の花のしら雪

法眼宗圓

返し

誘はれぬ今日ぞ知りぬるふみ通ふ跡まで厭ふ花の雪とは

讀人志らず

題志らず

櫻花いまや散るらむみよしのゝ山したかぜに降れる白雪

藤原泰綱

水邊落花といへる心を

吉野河みねの櫻のうつりきて淵瀬もしらぬ花のしらなみ

法印憲實

散りかゝる影もはかなく行く水に數かきあへぬ花の白浪

平長季

散りかゝる花の鏡と思ふにも見で過ぎがたき山の井の水

前關白左大臣一條

春の歌の中に

たき川の落つとはみえて音せぬは峯の嵐に花や散るらむ

藤原宗泰

嵐吹く木ずゑ移ろふ花のいろのあだにも殘るみねの白雲

祝部忠成

櫻色にうつろふ雲のかたみまで猶あともなき春風ぞ吹く

平義政

身にうとき春とはしらぬ月影やわが涙にも猶かすむらむ

中務卿宗尊親王

めぐり逢ふ春も昔の夜はの月かはらぬそでの涙にぞみる

前内大臣

寳治百首の歌奉りける時、春月

詠めきて年にそへたる哀とも身にしられぬる春の夜の月

前大僧正隆辨

百首の歌奉りし時

老らくの心もいまはおぼろにて空さへかすむ春の夜の月

澄覺法親王

藤花年久といへる心を

住吉の松のしづえの藤のはな幾とし波をかけて咲くらむ

皇太后宮大夫俊成

五社に百首の歌よみて奉りける頃夢の告あらたなる由志るし侍るとて書きそへ侍りける

春日山たにの松とは朽ちぬとも梢にかへれきたの藤なみ

前中納言定家

其後年をへて此かたはらに書きつけ侍りける

立ちかへる春をみせばや藤なみは昔ばかりの梢ならねど

前大納言爲家

同じくかきそへ侍りける

言のはのかはらぬ松の藤浪に又立ちかへる春をみせばや

前大納言爲氏

三代の筆の跡を見て又かきそへ侍りし

春日山いのりし末の世々かけて昔かはらぬ松のふぢなみ

八條院高倉

法印覺寛よませ侍りける七十首の歌の中に

身はかくて六十の春を過しきぬとしの思はむ思出もなし

後法性寺入道前關白太政大臣

家に百首の歌よみ侍りける時、鶯を

聞くたびに名殘をしくぞなりまさる春くれがたの鶯の聲

從二位成實

洞院攝政の家の百首の歌に、暮春

歸る雁しばし休らふ方もなし暮れゆく春や空にしるらむ

光俊朝臣

題志らず

ながらへて今いくたびと頼まねば老こそ春の別なりけれ

院辨内侍

さはる事ありて彌生の暮つかた里に出でけるによみ侍りける

神まつる卯月の後と契りおきて我さへいそぐ春の暮かな

和泉式部

彌生の晦日に大貳三位糸を尋ねて侍りければ申し遣しける

青柳の糸も皆こそ絶えにけれ春の殘りは今日ばかりとて

大貳三位

返し

青柳の春とともには絶えにけむまた夏引の糸はなしやは

讀人志らず

題志らず

ゆふかけて卯月に祭る神山のならの木陰に夏はきにけり

皇太后宮大夫俊成

述懷の百首の歌の中に

神山に引き殘さるゝ葵草ときに逢はでも過ぎにけるかな

平泰時朝臣

世を遁れける人の卯月の頃詣できて申す事侍りける後つかはしける

こひ/\て初音は聞きつ郭公ありしむかしの宿な忘れそ

從三位行能女

夏の歌の中に

過ぬとて恨みもはてじ時鳥まつらむ里もみにしられつゝ

前關白左大臣鷹司

關白の表奉りてのち郭公をきゝて

待ちなれしおほうち山の時鳥今は雲居のよそに聞くかな

法印公朝

題志らず

楢の葉の名におふ宮の時鳥よゝにふりにしこと語らなむ

靜仁法親王

百首の歌奉りし時

しる人もみにはなき世の郭公かたらひあかせ老の寐覺に

前大納言爲氏

寢覺時鳥といふ事を

時鳥なく音をそへて過ぎぬなり老の寐覺の同じなみだに

徳大寺入道前太政大臣女

曉時鳥

つれもなき別はしらじほとゝぎす何有明の月に鳴くらむ

前右兵衞督爲教女

夏の歌の中に

菖蒲草けふとていとゞ影そへついつ共分かぬ袖の浮寐に

鎌倉右大臣

いにしへを忍ぶとなしに古郷のゆふべの雨に匂ふたち花

土御門院御製

百敷や庭のたちばな思ひ出でゝ更にむかしの忍ばるゝ哉

天台座主公豪

夜盧橘といふ事を

橘はたが袖の香とわかねども老のねざめぞむかし戀しき

藤原景家

河五月雨

淺き瀬はあだ波そへて吉野河ふちさへさわぐ五月雨の頃

侍從雅有

中將を望み申して年久しくなりにけるに五月雨の頃人のもとに遣はしける

いかにせむ我身舊り行く梅雨に頼む三笠の山ぞかひなき

源親行

郭公をよめる

さみだれの雲ゐるやまの時鳥晴れぬ思の音をや鳴くらむ

法眼慶融

郭公み山にかへる聲すなり身をかくすべき事やつてまし

山階入道左大臣

家に十首の歌よみ侍りける時、夏草を

草深き夏野の道に迷ひても世のことわりぞ更に志らるゝ

法橋春撰

題志らず

きぶね川山した陰の夕やみに玉ちる浪はほたるなりけり

大僧正道寳

ある所に久しく籠りゐて後勸修寺に歸りてよみ侍りける

立ちかへりあつめし窓にきて見れば昔忘れず飛ぶ螢かな

入道内大臣

百首の歌奉りし時

御祓する麻のゆふしで浪かけて凉しくなりぬかもの川風

前大納言爲家

六月祓を

みそぎ河ゆくせも早く夏くれて岩こす浪のよるぞ凉しき