University of Virginia Library

よみ人しらず

題しらず

風ふけばおきつ白浪たつた山よはにや君がひとりこゆらむ

ある人、この哥は、むかしやまとのくになりける人 のむすめに、ある人すみわたりけり、この女おやもなくなりて家もわるくなりゆくあひ だに、このをとこかうちのくにに人をあひしりてかよひつつ、かれやうにのみなりゆき けり、さりけれどもつらげなるけしきも見えで、かふちへいくごとにをとこの心のごと くにしつついだしやりければ、あやしと思ひて、もしなきまにこと心もやあるとうたが ひて、月のおもしろかりける夜かふちへいくまねにて、せんざいのなかにかくれて見け れば、夜ふくるまでことをかきならしつつうちなげきて、この哥をよみてねにければ、 これをききてそれより又ほかへもまからずなりにけりとなむいひつたへたる