University of Virginia Library

3. 三夏哥

よみ人しらず

題しらず

わがやどの池の藤波さきにけり山郭公いつかきなかむ

このうた、ある人のいはく、かきのもとの人まろが 也

紀としさだ

う月にさけるさくらを見てよめる

あはれてふ事をあまたにやらじとや春におくれてひとりさくらむ

よみ人しらず

題しらず

さ月まつ山郭公うちはぶき今もなかなむこぞのふるごゑ

伊勢

五月こばなきもふりなむ郭公まだしきほどのこゑをきかばや

よみ人しらず

さつきまつ花橘のかをかげば昔の人の袖のかぞする

いつのまにさ月きぬらむあしひきの山郭公今ぞなくなる

けさきなきいまだたびなる郭公花たちばなにやどはからなむ

きのとものり

おとは山をこえける時に郭公のなくをききてよめる

おとは山けさこえくれば郭公こずゑはるかに今ぞなくなる

そせい

郭公のはじめてなきけるをききてよめる

郭公はつこゑきけばあぢきなくぬしさだまらぬこひせらるはた

ならのいその神でらにて郭公のなくをよめる

いその神ふるき宮この郭公声ばかりこそむかしなりけれ

よみ人しらず

題しらず

夏山になく郭公心あらば物思ふ我に声なきかせそ

郭公なくこゑきけばわかれにしふるさとさへぞこひしかりける

ほととぎすながなくさとのあまたあれば猶うとまれぬ思ふ物から

思ひいづるときはの山の郭公唐紅のふりいでてぞなく

声はして涙は見えぬ郭公わが衣手のひつをからなむ

あしひきの山郭公をりはへてたれかまさるとねをのみぞなく

今さらに山へかへるな郭公こゑのかぎりはわがやどになけ

みくにのまち

やよやまて山郭公事づてむ我世中にすみわびぬとよ

紀とものり

寛平御時きさいの宮の哥合のうた

五月雨に物思ひをれば郭公夜ふかくなきていづちゆくらむ

夜やくらき道やまどへるほととぎすわがやどをしもすぎがてになく

大江千里

やどりせし花橘もかれなくになどほととぎすこゑたえぬらむ

きのつらゆき

夏の夜のふすかとすれば郭公なくひとこゑにあくるしののめ

みぶのただみね

くるるかと見ればあけぬるなつのよをあかずとやなく山郭公

紀秋岑

夏山にこひしき人やいりにけむ声ふりたててなく郭公

よみ人しらず

題しらず

こぞの夏なきふるしてし郭公それかあらぬかこゑのかはらぬ

つらゆき

郭公のなくをききてよめる

五月雨のそらもとどろに郭公なにをうしとかよただなくらむ

みつね

さぶらひにてをのこどものさけたうべけるに、めし て郭公まつうたよめとありければよめる

ほととぎすこゑもきこえず山びこはほかになくねをこたへやはせぬ

つらゆき

山に郭公のなきけるをききてよめる

郭公人まつ山になくなれば我うちつけにこひまさりけり

ただみね

はやくすみける所にてほととぎすのなきけるを ききてよめる

むかしべや今もこひしき郭公ふるさとにしもなきてきつらむ

みつね

郭公のなきけるをききてよめる

郭公我とはなしに卯花のうき世中になきわたるらむ

僧正へんぜう

はちすのつゆを見てよめる

はちすばのにごりにしまぬ心もてなにかはつゆを玉とあざむく

深養父

月のおもしろかりける夜、あかつきがたによめる

夏の夜はまだよひながらあけぬるを雲のいづこに月やどるらむ

みつね

となりよりとこなつの花をこひにおこせたりけれ ば、をしみてこのうたをよみてつかはしける

ちりをだにすゑじとぞ思ふさきしよりいもとわがぬるとこ夏のはな

みな月のつごもりの日よめる

夏と秋と行きかふそらのかよひぢはかたへすずしき風やふくらむ