University of Virginia Library

8. 八
離別哥

在原行平朝臣

題しらず

立ちわかれいなばの山の峯におふる松としきかば今かへりこむ

よみ人しらず

すがるなく秋のはぎはらあさたちて旅行く人をいつとかまたむ

限なき雲ゐのよそにわかるとも人を心におくらさむやは

をののちふるがみちのくのすけにまかりける時に、 ははのよめる

たらちねのおやのまもりとあひそふる心ばかりはせきなとどめそ

きのとしさだ

さだときのみこの家にて、ふぢはらのきよふがあふ みのすけにまかりける時に、むまのはなむけしける夜よめる

けふわかれあすはあふみとおもへども夜やふけぬらむ袖のつゆけき

こしへまかりける人によみてつかはしける

かへる山ありとはきけど春霞立別れなばこひしかるべし

きのつらゆき

人のむまのはなむけにてよめる

をしむからこひしき物を白雲のたちなむのちはなに心地せむ

在原しげはる

ともだちの人のくにへまかりけるによめる

わかれてはほどをへだつとおもへばやかつ見ながらにかねてこひしき

いかごのあつゆき

あづまの方へまかりける人によみてつかはしける

おもへども身をしわけねばめに見えぬ心を君にたぐへてぞやる

なにはのよろづを

あふさかにて人をわかれける時によめる

相坂の関しまさしき物ならばあかずわかるる君をとどめよ

よみ人しらず

題しらず

唐衣たつ日はきかじあさつゆのおきてしゆけばけぬべき物を

このうたは、ある人、つかさをたまはりてあたらし きめにつきて、としへてすみける人をすてて、ただあすなむたつとばかりいへりける時 に、ともかうもいはでよみてつかはしける

ひたちへまかりける時に、ふぢはらのきみとしによ みてつかはしける

あさなげに見べききみとしたのまねば思ひたちぬる草枕なり

よみ人しらず

きのむねさだがあづまへまかりける時に、人の家に やどりて、暁いでたつとてまかり申ししければ、女のよみていだせりける

えぞしらぬ今心みよいのちあらば我やわするる人やとはぬと

ふかやぶ

あひしりて侍りける人のあづまの方へまかりけるを おくるとてよめる

雲ゐにもかよふ心のおくれねばわかると人に見ゆばかりなり

よしみねのひでをか

とものあづまへまかりける時によめる

白雲のこなたかなたに立ちわかれ心をぬさとくだくたびかな

つらゆき

みちのくにへまかりける人によみてつかはしける

しらくものやへにかさなるをちにてもおもはむ人に心へだつな

人をわかれける時によみける

わかれてふ事はいろにもあらなくに心にしみてわびしかるらむ

凡河内みつね

あひしれりける人のこしのくににまかりて、としへ て京にまうできて、又かへりける時によめる

かへる山なにぞはありてあるかひはきてもとまらぬ名にこそありけれ

こしのくにへまかりける人によみてつかはしける

よそにのみこひやわたらむしら山の雪見るべくもあらぬわが身は

つらゆき

おとはの山のほとりにて人をわかるとてよめる

おとは山こだかくなきて郭公君が別ををしむべらなり

ふぢはらのかねもち

藤原ののちかげがからもののつかひに、なが月の つごもりがたにまかりけるに、うへのをのこどもさけたうびけるついでによめる

もろともになきてとどめよ蛬秋のわかれはをしくやはあらぬ

平もとのり

秋霧のともにたちいでてわかれなばはれぬ思ひに恋ひや渡らむ

しろめ

源のさねがつくしへゆあみむとてまかりけるに、山 ざきにてわかれをしみける所にてよめる

いのちだに心にかなふ物ならばなにか別のかなしからまし

源さね

山ざきより神なびのもりまでおくりに人人まかり て、かへりがてにしてわかれをしみけるによめる

人やりの道ならなくにおほかたはいきうしといひていざ帰りなむ

藤原かねもち

今はこれよりかへりねとさねがいひけるをりによみ ける

したはれてきにし心の身にしあれば帰るさまには道もしられず

つらゆき

藤原のこれをかがむさしのすけにまかりける時に、 おくりにあふさかをこゆとてよみける

かつこえてわかれもゆくかあふさかは人だのめなる名にこそありけれ

藤原かねすけの朝臣

おほえのちふるがこしへまかりけるむまのはなむけ によめる

君がゆくこしのしら山しらねども雪のまにまにあとはたづねむ

僧正遍昭

人の花山にまうできて、ゆふさりつかたかへりなむ としける時によめる

ゆふぐれのまがきは山と見えななむよるはこえじとやどりとるべく

幽仙法師

山にのぼりてかへりまうできて、人人わかれけるつ いでによめる

別をば山のさくらにまかせてむとめむとめじは花のまにまに

僧正へんぜう

うりむゐんのみこの舎利会に山にのぼりてかへりけ るに、さくらの花のもとにてよめる

山かぜにさくらふきまきみだれなむ花のまぎれにたちとまるべく

幽仙法師

ことならば君とまるべくにほはなむかへすは花のうきにやはあらぬ

兼芸法し

仁和のみかどみこにおはしましける時に、ふるのた き御覧じにおはしましてかへりたまひけるによめる

あかずしてわかるる涙滝にそふ水まさるとやしもは見るらむ

つらゆき

かむなりのつぼにめしたりける日、おほみきなどた うべてあめのいたくふりければ、ゆふさりまで侍りてまかりいでけるをりに、さか月を とりて

秋はぎの花をば雨にぬらせども君をばましてをしとこそおもへ

兼覧王

とよめりけるかへし

をしむらむ人の心をしらぬまに秋の時雨と身ぞふりにける

みつね

かねみのおほきみにはじめて物がたりして、わかれ ける時によめる

わかるれどうれしくもあるかこよひよりあひ見ぬさきになにをこひまし

よみ人しらず

題しらず

あかずしてわかるるそでのしらたまを君がかたみとつつみてぞ行く

限なく思ふ涙にそほちぬる袖はかわかじあはむ日までに

かきくらしごとはふらなむ春雨にぬれぎぬきせて君をとどめむ

しひて行く人をとどめむ桜花いづれを道と迷ふまでちれ

つらゆき

しがの山ごえにて、いしゐのもとにてものいひける 人のわかれけるをりによめる

むすぶてのしづくににごる山の井のあかでも人にわかれぬるかな

とものり

みちにあへりける人のくるまにものをいひつきて、 わかれける所にてよめる

したのおびのみちはかたがたわかるとも行きめぐりてもあはむとぞ思ふ