University of Virginia Library

10. 十
名物

藤原としゆきの朝臣

うぐひす

心から花のしづくにそほちつつうくひずとのみ鳥のなくらむ

ほととぎす

くべきほどときすぎぬれやまちわびてなくなるこゑの人をとよむる

在原しげはる

うつせみ

浪のうつせみればたまぞみだれけるひろはばそでにはかなからむや

壬生忠岑

返し

たもとよりはなれて玉をつつまめやこれなむそれとうつせ見むかし

よみ人しらず

うめ

あなうめにつねなるべくも見えぬかなこひしかるべきかはにほひつつ

つらゆき

かにはざくら

かづけども浪のなかにはさぐられで風吹くごとにうきしづむたま

すもものはな

今いくか春しなければうぐひすもものはながめて思ふべらなり

ふかやぶ

からもものはな

あふからもものはなほこそかなしけれわかれむ事をかねて思へば

をののしげかげ

たちばな

葦引の山たちはなれ行く雲のやどりさだめぬ世にこそ有りけれ

とものり

をがたまの木

みよしののよしののたきにうかびいづるあわをかたまのきゆと見つらむ

よみ人しらず

やまがきの木

秋はきぬいまやまがきのきりぎりすよなよななかむ風のさむさに

あふひ、かつら

かくばかりあふ日のまれになる人をいかがつらしとおもはざるべき

人めゆゑのちにあふ日のはるけくはわがつらきにや思ひなされむ

僧正へんぜう

くたに

ちりぬればのちはあくたになる花を思ひしらずもまどふてふかな

つらゆき

さうび

我はけさうひにぞ見つる花の色をあだなる物といふべかりけり

とものり

をみなへし

白露を玉にぬくやとささがにの花にも葉にもいとをみなへし

あさ露をわけそほちつつ花見むと今ぞの山をみなへしりぬる

つらゆき

朱雀院のをみなへしあはせの時に、をみなへしとい ふいつもじをくのかしらにおきてよめる

をぐら山みねたちならしなくしかのへにけむ秋をしる人ぞなき

とものり

きちかうの花

秋ちかうのはなりにけり白露のおけるくさばも色かはりゆく

よみ人しらず

しをに

ふりはへていざふるさとの花見むとこしをにほひぞうつろひにける

とものり

りうたむのはな

わがやどの花ふみしだくとりうたむのはなければやここにしもくる

よみ人しらず

をばな

ありと見てたのむぞかたきうつせみの世をばなしとや思ひなしてむ

やたべの名実

けにごし

うちつけにこしとや花の色を見むおく白露のそむるばかりを

文屋やすひで

二条の后春宮のみやすん所と申しける時に、めどに けづり花させりけるをよませたまひける

花の木にあらざらめどもさきにけりふりにしこのみなるときもがな

きのとしさだ

しのぶぐさ

山たかみつねに嵐の吹くさとはにほひもあへず花ぞちりける

平あつゆき

やまし

郭公みねのくもにやまじりにしありとはきけど見るよしもなき

よみ人しらず

からはぎ

空蝉のからは木ごとにとどむれどたまのゆくへを見ぬぞかなしき

ふかやぶ

かはなぐさ

うばたまの夢になにかはなぐさまむうつつにだにもあかぬ心は

たかむこのとしはる

さがりごけ

花の色はただひとさかりこけれども返す返すぞつゆはそめける

しげはる

にがたけ

いのちとてつゆをたのむにかたければ物わびしらになくのべのむし

かげのりのおほきみ

かはたけ

さ夜ふけてなかばたけゆく久方の月ふきかへせ秋の山風

真せいほうし

わらび

煙たちもゆとも見えぬ草のはをたれかわらびとなづけそめけむ

きのめのと

ささ、まつ、びは、ばせをば

いさざめに時まつまにぞ日はへぬる心ばせをば人に見えつつ

兵衛

なし、なつめ、くるみ

あぢきなしなげきなつめそうき事にあひくる身をばすてぬものから

安倍清行朝臣

からことといふ所にて春のたちける日よめる

浪のおとのけさからことにきこゆるは春のしらべや改るらむ

兼覧王

いかがさき

かぢにあたる浪のしづくを春なればいかがさきちる花と見ざらむ

あほのつねみ

からさき

かの方にいつからさきにわたりけむ浪ぢはあとものこらざりけり

伊勢

浪の花おきからさきてちりくめり水の春とは風やなるらむ

つらゆき

かみやがは

うばたまのわがくろかみやかはるらむ鏡の影にふれるしらゆき

よどがは

あしひきの山べにをれば白雲のいかにせよとかはるる時なき

ただみね

かたの

夏草のうへはしげれるぬま水のゆくかたのなきわが心かな

源ほどこす

かつらのみや

秋くれば月のかつらのみやはなるひかりを花とちらすばかりを

よみ人しらず

百和香

花ごとにあかずちらしし風なればいくそばくわがうしとかは思ふ

しげはる

すみながし

春がすみなかしかよひぢなかりせば秋くるかりはかへらざらまし

みやこのよしか

おきび

流れいづる方だに見えぬ涙河おきひむ時やそこはしられむ

大江千里

ちまき

のちまきのおくれておふるなへなれどあだにはならぬたのみとぞきく

僧正聖宝

はをはじめ、るをはてにて、ながめをかけて時のう たよめと人のいひければよみける

花のなかめにあくやとてわけゆけば心ぞともにちりぬべらなる