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恋哥二 |
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春歌上 (Shin Kokinshu) |  |
12. 巻第十二
恋哥二
1081
皇太后宮大夫俊成女
五十首哥たてまつりしに、寄雲恋
したもえにおもひきえなんけぶりだにあとなき雲のはてぞかなし
き
1082
藤原定家朝臣
摂政太政大臣家百首哥合に
なびかじなあまのもしほびたきそめてけぶりはそらにくゆりわぶ
とも
1083
摂政太政大臣
百首哥たてまつりし時
こひをのみすまのうら人もしほたれほしあへぬ袖のはてをしらば
や
1084
二条院讃岐
恋哥とてよめる
みるめこそいりぬるいその草ならめ袖さへなみのしたにくちぬる
1085
俊頼朝臣
としをへたるこひといへる心をよみ侍ける
君こふとなるみのうらのはまひさぎしほれてのみもとしをふるか
な
1086
前太政大臣
忍恋のこゝろを
しるらめや木の葉ふりしくたに水のいはまにもらすしたの心を
1087
摂政太政大臣
左大将に侍ける時、家に百首哥合し侍けるに、忍恋の心を
もらすなよ雲ゐるみねのはつ時雨この葉はしたにいろかはるとも
1088
後徳大寺左大臣
恋哥あまたよみ侍けるに
かくとだにおもふ心をいはせ山したゆく水の草がくれつゝ
1089
殷富門院大輔
もらさばやおもふ心をさてのみはえぞ山しろの井でのしがらみ
1090
近衛院御哥
忍恋の心を
こひしともいはゞこゝろのゆくべきにくるしや人めつゝむおもひ
は
1091
花園左大臣
見れどあはぬこひといふ心をよみ侍ける
人しれぬこひにわが身はしづめどもみるめにうくは涙なりけり＼
1092
神祇伯顕仲
題しらず
ものおもふといはぬばかりはしのぶともいかゞはすべき袖のしづ
くを
1093
清輔朝臣
忍恋の心を
人しれずくるしき物はしのぶ山したはふくずのうらみなりけり
1094
雅経
和哥所哥合に、忍恋の心を
きえねたゞしのぶの山のみねの雲かゝる心のあともなきまで
1095
左衛門督通光
千五百番哥合に
かぎりあればしのぶの山のふもとにもおち葉がうへのつゆぞいろ
づく
1096
二条院讃岐
うちはへてくるしきものは人めのみしのぶの浦のあまのたくなは
1097
春宮権大夫公継
和哥所哥合に、依忍増恋といふことを
しのばじよいしまづたひのたにがはもせをせくにこそ水まさりけ
れ＼
1098
信濃
題しらず
人もまだふみゝぬ山のいはがくれながるゝ水を袖にせくかな
1099
西行法師
はるかなるいはのはざまにひとりゐて人めおもはで物おもはゞや
1100
かずならぬ心のとがになしはてじしらせてこそは身をもうらみめ
1101
摂政太政大臣
水無瀬の恋十五首哥合に、夏恋を
草ふかきなつ野わけゆくさをしかのねをこそたてねつゆぞこぼ
るゝ
1102
太宰大弐重家
入道前関白右大臣に侍ける時、百首哥人びとによませ侍けるに、 忍恋の心を
のちのよをなげく涙といひなしてしぼりやせましすみぞめの袖
1103
よみ人しらず
大納言成通ふみつかはしけれどつれなかりける女を、のちのよま でうらみのこるべきよし申ければ
たまづさのかよふばかりになぐさめて後のよまでのうらみのこす
な
1104
前大納言隆房中将に侍ける時、右近馬場のひをりの日まかれりけ るに、ものみ侍ける女、車よりつかはしける
ためしあればながめはそれとしりながらおぼつかなきは心なりけ
り
1105
前大納言隆房
返し
いはぬより心やゆきてしるべするながむるかたを人のとふまで
1106
左衛門督通光
千五百番哥合に
ながめわびそれとはなしに物ぞおもふ雲のはたての夕ぐれの空
1107
皇太后宮大夫俊成
あめふる日、女につかはしける
おもひあまりそなたのそらをながむればかすみをわけて春雨ぞふ
る
1108
摂政太政大臣
水無瀬恋十五首哥合に
山がつのあさのさ衣おさをあらみあはで月日やすぎふけるいほ
1109
藤原忠定
欲言出恋といへる心を
おもへどもいはで月日はすぎのかどさすがにいかゞしのびはつべ
き
1110
皇太后宮大夫俊成
百首哥たてまつりし時
あふことはかた野の里のさゝのいほしのに露ちるよはのとこかな
1111
入道前関白右大臣に侍ける時、百首哥の中にしのぶるこひ
ちらすなよしのゝ葉ぐさのかりにてもつゆかゝるべき袖のうへか
は
1112
藤原元真
題しらず
白玉かつゆかとゝはん人もがなものおもふ袖をさしてこたへん
1113
藤原義孝
女につかはしける
いつまでもいのちもしらぬ世中につらきなげきのやまずもあるか
な
1114
大炊御門右大臣
崇徳院に百首哥たてまつりける時
わがこひはちぎのかたそぎかたくのみゆきあはでとしのつもりぬ
るかな
1115
藤原基輔朝臣
入道前関白家に百首哥よみ侍ける時、あはぬこひといふ心を
いつとなくしほやくあまのとまびさしひさしくなりぬあはぬ思は
＼
1116
藤原秀能
夕恋といふ事をよみ侍ける
もしほやくあまのいそやのゆふけぶりたつなもくるし思たえなで
1117
定家朝臣
海辺恋といふことをよめる
すまのあまの袖にふきこすしほ風のなるとはすれどてにもたまら
ず
1118
寂蓮法師
摂政太政大臣家哥合によみ侍ける
ありとてもあはぬためしのなとりがはくちだにはてねせゞのむも
れ木
1119
摂政太政大臣
千五百番哥合に
なげかずよいまはたおなじなとりがはせゞのむもれ木くちはてぬ
とも
1120
二条院讃岐
百首哥たてまつりし時
なみだがはたぎつ心のはやきせをしがらみかけてせく袖ぞなき
1121
高松院右衛門佐
摂政太政大臣百首哥よませ侍けるに
よそながらあやしとだにもおもへかしこひせぬ人の袖のいろかは
1122
よみ人しらず
恋哥とてよめる
しのびあまりおつる涙をせきかへしをさふる袖ようきなもらすな
1123
道因法師
入道前関白太政大臣家哥合に
くれなゐに涙のいろのなりゆくをいくしほまでと君にとはゞや
1124
式子内親王
百首哥中に
夢にても見ゆらんものをなげきつゝうちぬるよゐの袖のけしきは
1125
後徳大寺左大臣
かたらひ侍ける女の夢に見えて侍ければよみける
さめてのち夢なりけりとおもふにもあふはなごりのをしくやはあ
らぬ
1126
摂政太政大臣
千五百番哥合に
身にそへるそのおもかげのきえなゝん夢なりけりとわするばかり
に
1127
大納言実宗
題しらず
夢のうちにあふとみえつるねざめこそつれなきよりも袖はぬれけ
れ＼
1128
前大納言忠良
五十首哥たてまつりしに
たのめをきしあさぢがつゆに秋かけてこの葉ふりしくやどのかよ
ひぢ
1129
正三位経家
隔河忍恋といふことを
しのびあまりあまのかはせにことよせんせめては秋をわすれだに
すな＼
1130
賀茂重政
とをきさかひをまつこひといへる心を
たのめてもはるけかるべきかへる山いくへの雲のうちにまつらん
＼
1131
中宮大夫家房
摂政太政大臣家百首哥合に
あふことはいつといぶきのみねにおふるさしもたえせぬ思なりけ
り
1132
家隆朝臣
ふじのねのけぶりもなをぞたちのぼるうへなきものはおもひなり
けり
1133
権中納言俊忠
名立恋といふこゝろをよみ侍ける
なき名のみたつたの山にたつ雲のゆくゑもしらぬながめをぞする
1134
惟明親王
百首哥の中に恋の心を
あふことのむなしきそらのうき雲は身をしる雨のたよりなりけり
＼
1135
右衛門督通具
わがこひはあふをかぎりのたのみだにゆくゑもしらぬそらのうき
雲
1136
皇太后宮大夫俊成女
水無瀬恋十五首哥合に、春恋の心を
おもかげのかすめる月ぞやどりける春やむかしの袖のなみだに
1137
定家朝臣
冬恋
とこのしもまくらの氷きえわびぬむすびもをかぬ人の契に
1138
有家朝臣
摂政太政大臣家百首哥合に、暁恋
つれなさのたぐひまでやはつらからぬ月をもめでじありあけの空
1139
藤原秀能
宇治にて、夜恋といふことを、ゝのこどもつかうまつりしに
袖のうへにたれゆへ月はやどるぞとよそになしても人のとへかし
1140
越前
ひさしきこひといへることを
夏引のてびきのいとのとしへてもたえぬ思にむすぼゝれつゝ
1141
摂政太政大臣
家に百首哥合し侍けるに、祈恋といへる心を
いく夜われ浪にしほれてきぶねがはそでに玉ちる物おもふらん
1142
定家朝臣
としもへぬいのる契ははつせ山おのへのかねのよその夕ぐれ
1143
皇太后宮大夫俊成
かたおもひの心をよめる
うき身をばわれだにいとふいとへたゞそをだにおなじ心とおもは
ん
1144
権中納言長方
題しらず
こひしなんおなじうき名をいかにしてあふにかへつと人にいはれ
ん＼
1145
殷富門院大輔
あすしらぬいのちをぞおもふをのづからあらばあふよをまつにつ
けても
1146
八条院高倉
つれもなき人の心はうつせみのむなしきこひに身をやかへてん
1147
西行法師
なにとなくさすがにおしきいのちかなありへば人や思しるとて
1148
おもひしる人ありけりのよなりせばつきせず身をばうらみざらま
し
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春歌上 (Shin Kokinshu) | |