University of Virginia Library

Search this document 

 1. 
 2. 
 3. 
 4. 
 5. 
 6. 
 7. 
 8. 
collapse section9. 
後撰和歌集卷第九 戀歌一
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
 10. 
 11. 
 12. 
 13. 
 14. 
 15. 
 16. 
 17. 
 18. 
expand section19. 
expand section20. 

9. 後撰和歌集卷第九
戀歌一

源宗于朝臣

からうじてあひ志りて侍りける人につゝむ事ありて又あひがたく侍りければ

東路のさやの中山なか/\にあひみて後ぞ侘しかりける

貫之

忍びたりける人に物語し侍りけるを人の騒がしく侍りければ罷り歸りて遣はしける

曉と何かいひけむ別るればよひもいとこそ侘しかりけれ

するが

源おほきが通ひ侍りけるを後々はまからずなり侍りにければ隣の壁のあなよりおほきをはつかに見て遣はしける

まどろまぬ壁にも人を見つる哉正しからなむ春の夜の夢

元良のみこ

あひ志りて侍りける人の許に返事見むとて遣はしける

くや/\と待つ夕暮と今はとて歸るあしたと何れ勝れる

藤原かつみ

かへし

夕暮はまつにもかゝる白露のおくる朝や消えははつらむ

讀人志らず

大和にあひ志りて侍りける人のもとにつかはしける

打返し君ぞ戀しきやまとなるふるのわさ田の思ひ出つゝ

かへし

秋の田の稻てふことをかけしかば思出づるが嬉しげもなし

女につかはしける

人戀ふる心計りはそれ乍ら我はわれにもあらぬなりけり

伊勢

まかる所志らせず侍りける頃又あひしりて侍りける男のもとより日頃尋ね侘びてうせにたるとなむ思ひつるといへりければ

思川たえず流るゝ水の泡のうたかた人にあはで消えめや

公忠

題志らず

思ひやる心は常に通へどもあふ坂の關こえずもあるかな

讀人志らず

女につかはしける

消え果てゝやみぬ計りか年をへて君を思ひの驗なければ

かへし

思ひだに驗なしてふ我身にぞあはぬ歎きの數はもえける

題志らず

ほしがてにぬれぬべきかな唐衣乾く袂のよゝになければ

よと共に阿武隈川の遠ければ底なる影を見ぬぞわびしき

わが如くあひ思ふ人のなき時は深き心もかひなかりけり

いつしかと我まつ山に今はとてこゆなる波にぬるゝ袖哉

女のもとにつかはしける

人ごとは誠なりけり下紐のとけぬに志るき心とおもへば

結び置きし我下紐の今迄にとけぬは人のこひぬなりけり

女の人の許に遣はしける

外の瀬は深くなるらし飛鳥川昨日の淵ぞ我が身なりける

かへし

淵瀬ともいさや白浪立ち騒ぐ我が身一つはよる方もなし

題志らず

光まつ露に心をおける身はきえ返りつゝ世をぞうらむる

貫之

ある所にあふみといひける人のもとにつかはしける

汐みたぬ海ときけばやよと共にみるめなくして年のへぬ覽

桂のみこ

あつよしの親王まうできたりけれど逢はずしてかへして又のあしたに遣はしける

唐衣きて歸りにしさ夜すがら哀れと思ふを恨むらむはた

紀のめのと

あひ待ちける人の久しう消息なかりければ遣はしける

影だにも見えず成行く山の井は淺きより又水やたえにし

平定文

かへし

淺してふことをゆゝしみ山の井はほりし濁に影はみえぬぞ

讀人志らず

題志らず

幾度かいく田の浦に立ちかへる浪に我身を打ち濡すらむ

かへし

立歸りぬれてはひぬる汐なれば生田の浦のさがと社みれ

女の許に

逢ふことはいとゞ雲居の大空に立つ名のみしてやみぬ計か

かへし

よそ乍やまむともせず逢ふ事は今こそ雲の絶間なるらめ

又をとこ

今のみと頼むなれ共白雲の絶間はいつかあらむとすらむ

かへし

をやみせず雨さへふれば澤水の増るらむ共思ほゆるかな

題志らず

夢にだに見る事ぞなき年を經て心長閑にぬる夜なければ

見そめずてあらまし物を唐衣立つ名のみしてきるよ無哉

女のもとに遣はしける

枯果つる花の心はつらからで時過ぎにける身をぞ恨むる

かへし

あだにこそちると見るらめ君に皆移ろひにたる花の心を

其程にかへりこむとて物にまかりける人の、程を過ぐしてこざりければ遣はしける

こむと云ひし月日を過す姨捨の山端つらき物にぞ有ける

かへし

月日をも數へける哉君こふる數をもしらぬ我身なりけり

女に年をへて心ざしある由をのたまひわたりける。女猶今年をだに待ちくらせとたのめけるをその年もくれてあくる春までいとつれなく侍りければ

このめはる春の山田を打返し思ひやみにし人ぞこひしき

贈太政大臣

心ざしありながらえあはず侍りける女のもとにつかはしける

ころをへてあひみぬときは白玉の涙も春は色まさりけり

伊勢

かへし

人こふる涙は春ぞぬるみけるたえぬ思のわかすなるべし

源たのむがむすめ

男のこゝかしこに通ひすむ所多くて常にしもとはざりければ女も又いろごのみなる名立ちけるを恨み侍りける返事に

つらしともいかゞ恨みむ時鳥我が宿ちかく鳴く聲はせで

あつよしのみこ

かへし

里毎になきこそわたれ郭公住みかさだめぬ君たづぬとて

春道列樹

えがたかるべき女を思ひかけてつかはしける

數ならぬみ山がくれの郭公人しれぬ音をなきつゝぞふる

これたゞのみこ

いと忍びたる女にあひ語らひて後人めにつゝみて又あひ難く侍りければ

あふ事の片絲ぞとはしりながら玉の緒計り何によりけむ

讀人志らず

女のもとより忘草に文をつけておこせて侍りければ

思ふとはいふ物からにともすれば忘るゝ草の花にやは非ぬ

たいふのごといふ人

かへし

植ゑてみる我は忘れで仇人に先忘らるゝ花にぞありける

土左

平定文が許より難波の方へなむまかるといひおくりて侍りければ

浦分かずみるめかるてふ蜑の身は何か難波の方へしもゆく

定文

かへし

君を思ふ深さに比べに津の國の堀江みに行く我にやは非ぬ

伊勢

つらくなりにける人に遣はしける

いかでかく心一を二しへにうくもつらくもなしてみす覽

讀人志らず

題志らず

ともすれば玉に比べします鏡人のたからと見るぞ悲しき

忍びたる人につかはしける

磐瀬山たにの下水うちしのび人のみぬまは流れてぞふる

人をあひしりて後久しう消息もつかはさゞりければ

嬉げに君が頼めし言の葉はかたみに汲める水にぞ有ける

題志らず

ゆきやらぬ夢路に惑ふ袂には天津空なき露ぞおきける

身は早く奈良の都と成にしを戀しき事のまだもふりぬか

住吉の岸の白浪よる/\は海士のよそめに見るぞ悲しき

君こふとぬれにし袖の乾かぬは思ひの外にあれば也けり

あはざりし時いかなりし物とてか唯今のまも見ねば戀き

世の中に忍ぶる戀の侘しきはあひての後のあはぬなり鳬

戀をのみ常に駿河の山なれば富士のねにのみ泣かぬ日はなし

君により我身ぞつらき玉垂の
[_]
[1]みずば
戀しと思はましやは

男のはじめて女の許にまかりてあしたに雨のふるに歸りてつかはしける

今ぞしるあかぬわかれの曉は君を戀路にぬるゝものとは

かへし

よそにふる雨とこそきけ覺束な何をか人の戀路といふ覽

つらかりける男に

たえはつるものとはみつゝ笹がにの糸を頼める心細さよ

かへし

打ち渡し長き心はやつ橋のくもでに思ふことはたえせじ

思ふ人侍りける女に物のたうびけれどつれなかりければ遣はしける

思ふ人おもはぬ人の思ふ人思はざらなむおもひしるべく

かへし

木枯しの森の下草風はやみ人のなげきはおひそひにけり

男のこと女迎ふるを見て親の家にまかり歸るとて

別れをば悲しき物ときゝしかど後やすくも思ほゆるかな

題志らず

なきたむる袂こほれるけさ見れば心とけても君を思はず

身を分けてあらまほしくぞ思ほゆる人は苦しと云ける物を

雲居にて人を戀しと思ふかな我は葦べのたづならなくに

源ひとしの朝臣

人につかはしける

あさぢふの小野の篠原忍ぶれど餘りてなどか人の戀しき

兼盛

雨やまぬ軒の玉水數しらず戀しきことのまさるころかな

讀人志らず

心短きやうに聞ゆる人なりといひければ

伊勢の海にはへても餘るたく繩の長き心は我ぞまされる

人につかはしける

色に出て戀すてふ名ぞ立ぬべき涙に染むる袖のこければ

斯戀る物と知せば夜はおきて明れば消ゆる露ならましを

逢もみず歎もそめずありし時思ふことこそ身になかりしか

戀のごとわりなき物はなかり鳬且むつれつゝ且ぞ戀しき

女のもとに遣はしける

わたつ海に深き心のなかりせば何かは君を恨みしもせむ

みな神に祈るかひなく涙川うきても人をよそに見るかな

かへし

祈りける水神さへぞ恨めしきけふより外に影のみえねば

右大臣

大輔につかはしける

色深くそめし袂のいとゞしく涙にさへもこさまさるかな

讀人志らず

題志らず

見る時は事ぞともなくみぬ時はことあり顏に戀しきやなぞ

男のこむとてこざりければ

山里の槇の板戸もさゝざりき頼めし人を待ちしよひより

はじめて女のもとに遣はしける

行く方もなくせかれたる山水のいはまほしくも思はゆる哉

女につかはしける

人の上のこととしいへばしらぬ哉君も戀する折もこそあれ

かへし

つらからば同じ心につらからむ強面き人を戀ひむ共せず

女につかはしける

人しれず思ふ心はおほしまのなるとはなしに嘆くころ哉

中務

男のもとに遣はしける

儚なくて同じ心になりにしを思ふがごとは思ふらむやぞ

源信明

かへし

わびしさを同じ心ときくからに我身をすてゝ君ぞ悲しき

まからずなりにける女の人に名たちければ遣はしける

定めなく仇に散りぬる花よりは常盤の松の色をやはみぬ

讀人志らず

かへし

住吉の我が身なりせば年ふとも松より外の色をみましや

をとこにつかはしける

現にもはかなき事の怪しきはねなくに夢の見ゆる也けり

女のあはず侍りけるに

白浪のよる/\岸に立ちよりてねも見し物を住吉のまつ

男に遣はしける

長らへてあらぬ迄にも言の葉の深きはいかに哀れ也けり
[_]
[1] Shinpen Kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads 見ずは.