後撰和歌集 (Gosen wakashu [Book 1]) | ||
3. 後撰和歌集卷第三
春歌下
藤原顯忠朝臣母
贈太政大臣相わかれて後ある所にてその聲を聞きてつかはしける
貫之
櫻の花の瓶にさせりけるがちりけるを見て中務に遣はしける
かへし
讀人しらず
題しらず
伊勢
朝光の朝臣隣に侍りけるに櫻のいたうちりければいひ遣はしける
讀人しらず
女につかはしける
題しらず
貫之
讀人しらず
荒れたる所に住み侍りける女徒然に思ほえ侍りければ庭にある菫の花をつみていひつかはしける
題しらず
清原深養父
こわかぎみ
常にせをそこ遣はしける女ともだちの許より櫻の花のいと面白かりける枝を折りてこれそこの花に見くらべよとありければ
父のみこの心ざせるやうにもあらで常に物思ひける人にてなむありける。
讀人しらず
春の池のほとりにて
春の暮にかれこれ花惜みける所にて
凡河内躬恒
延喜の御時殿上のをのこどものなかにめしあげられておの/\かざしさしける序に
讀人しらず
題しらず
貫之
花のもとにてかれこれ程もなくちることなど申しけるついでに
讀人しらず
春花見に出でたりけるを見つけて文を遣したりける其返事もなかりければあくるあした昨日の返事とこひにまうできたりければいひ遣したりける
男のもとよりたのめおこせて侍りければ
伊勢
題しらず
元良のみこ
元良のみこ兼茂朝臣のむすめにすみ侍りけるを法皇のめしてかの院にさぶらひければえあふ事も侍らざりければあくる年の春櫻の枝にさして彼のざうしにさしおかせける
源信明
月の面白かりける夜花を見て
橘公平女
あがたの井戸といふ家より藤原治方につかはしける
讀人しらず
助信が母みまかりて後も時々かの家に敦忠朝臣のまかり通ひけるに櫻の花のちりけるをりにまかりて木のもとに侍りければ家の人のいひいだしける
敦忠朝臣
かへし
貫之
櫻川といふ所ありときゝて
兼輔朝臣
前栽に山吹あるところにて
在原元方
題しらず
藤原敏行朝臣
寛平の御時櫻の花の宴ありけるに雨のふり侍りければ
讀人しらず
和泉の國にまかりけるに海のつらにて
典侍因香朝臣
女ども花みむとて野べに出でゝ
讀人しらず
あひしれりける人の久しうとはざりければ花盛につかはしける
源清蔭朝臣
かへし
伊勢
山櫻を折りておくり侍るとて
讀人しらず
宮づかへしける女のいそのかみといふ所に住みて京の友だちのもとに遣はしける
法師にならむの心ありける人大和にまかりて程久しく侍りてのちあひしりて侍りける人のもとより月ごろはいかにぞ花は咲きたりやといひて侍りければ
亭子院の歌合の歌
貫之
山櫻を見て
讀人しらず
題しらず
人の心たのみがたくなりければ山吹のちりさしたるをこれ見よとてつかはしける
僧正遍昭
やよひばかりの花の盛りに道をまかりけるに
讀人しらず
題しらず
三條右大臣
三月の下の十日計に三條の右大臣兼輔の朝臣の家にまかり渡りて侍りけるに藤の花さける遣水のほとりにてかれこれ大みきたうべけるついでに
兼輔朝臣
貫之
三條右大臣
ことふえなどしてあそび物語などし侍りける程に夜更けにければまかりとまりて又のあしたに
兼輔朝臣
貫之
讀人しらず
題しらず
躬恒
櫻の花のちるを見て
源中宣朝臣
敦實のみこの花見侍りける所にて
讀人しらず
櫻のちるを見て
貫之
やよひにうるふ月ある年つかさめしのころ申文に添へて左大臣の家につかはしける
左大臣
かへし
藤原雅正
常にまうでき通ひける所にさはる事侍りて久しくまできあはずして年かへりにけり。あくる春彌生のつごもりに遣はしける
貫之
かへし
讀人しらず
題しらず
躬恒
貫之
やよひのつごもり
讀人しらず
躬恒
貫之
三月のつごもりの日久しうまうでこぬ由いひてはんべる文の奧にかきつけ侍りける
貫之かくて同じ年になむ身まかりにける。
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