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後撰和歌集卷第十三 戀歌五
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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13. 後撰和歌集卷第十三
戀歌五

在原業平朝臣

題志らず

伊勢の海に遊ぶ蜑とも成にしが浪掻分けてみるめ潜かむ

伊勢

かへし

朧げの蜑やは潜く伊勢の海浪高き浦におふるみるめは

讀人志らず

つれなく見え侍りける人に

つらしとや云果てゝまし白露の人に心はおかじと思ふを

題志らず

ながらへば人の心もみるべきに露の命ぞかなしかりける

小野小町が姉

獨ぬる時はまたるゝ鳥の音も稀に逢ふ夜は侘しかりけり

深養父

女の恨みおこせて侍りければ遣はしける

空蝉の空しき骸になるまでも忘れむと思ふ我ならなくに

讀人志らず

あだなる男をあひ志りて心ざしはあると見えながら猶疑はしく覺えければ遣しける

いつまでのはかなき人の言の葉か心の秋の風をまつらむ

題志らず

うたゝねの夢計りなる逢ふ事を秋の夜すがら思ひつる哉

兼輔朝臣

女の許にまかりたりけるよ門をさしてあけざりければまかり歸りて旦に遣しける

秋の夜の草の閉しの侘しきは明くれど明ぬ物にぞ有ける

讀人志らず

かへし

いふからにつらさぞ増る秋の夜の草の閉しに障るべしやは

さだかずのみこ

桂のみこにすみはじめけるあひだにかのみこあひ思はぬけしきなりければ

人志れずもの思ふ頃の我が袖は秋の草葉に劣らざりけり

贈太政大臣

忍びたる人につかはしける

賤機に思ひ亂れて秋の夜の明くるも志らず歎きつるかな

讀人志らず

せをそこ通はしけれどもまだあはざりける男をこれかれあひにけりといひ騒ぐをあらがはざなりと恨み遣はしければ

蓮葉の上はつれなき裏に社物あらがひはつくと云ふなれ

男のつらうなりゆく頃雨の降りければ遣しける

降已めば跡だに見えぬうたかたの消えて儚きよを頼む哉

女の許にまかりてえあはで歸りて遣しける

あはでのみ數多の夜をも歸るかな人めの繁き逢坂にきて

女に物いふ男ふたりありけり。ひとりに返事すと聞きて今一人が遣しける

靡く方ありける物をなよ竹のよにへぬ物と思ひけるかな

女の心かはりぬべきを聞きてつかはしける

ねになけば人笑へ也呉竹のよにへぬをだに勝ちぬと思はむ

文遣しける女の親の伊勢へまかりければ共にまかりけるにつかはしける

伊勢の蜑と君しなりなば同くば戀しき程にみるめからせよ

一條

一條がもとにいとなむ戀しきといひにやりたりければ鬼のかたをかきてやるとて

戀しくば影をだにみて慰めよ我が打ち解けて忍ぶ顏なり

伊勢

かへし

影みればいとゞ心ぞ惑はるゝ近からぬけの疎きなりけり

讀人志らず

人のむすめに忍びて通ひ侍りけるにつらげに見え侍りければ消息ありける返事に

人言のうきをも志らずありかせし昔乍らの我身ともがな

みなれたる女に又物いはむとてまかりたりけれど聲は志ながら隱れければ遣しける

郭公なつきそめにしかひもなく聲をよそにも聞渡るかな

人の許にはじめてまかりてつとめて遣しける

常よりもおき憂かりける曉は露さへかゝる物にぞ有ける

忍びてまできける人の霜のいたくふりける夜まからでつとめてつかはしける

置く霜の曉おきを思はずば君がよどのに夜がれせましや

かへし

霜おかぬ春より後の長雨にもいつかは君がよ枯せざりし

源英明朝臣

心にもあらで久しくとはざりける人の許につかはしける

伊勢の海の蜑のまてかた暇なみ存へにける身をぞ恨むる

藤原爲世

えがたう侍りける女の家のまへよりまかりけるを見ていづこへいくぞといひ出して侍りければ

逢ふ事を交野へとてぞ我はゆく身を同名に思ひなしつゝ

讀人志らず

題志らず

君が當り雲ゐに見つゝ宮路山打越え行かむ道も志らなく

俊子

男の返事につかはしける

思ふてふ言の葉いかに懷かしな後うき物と思はずもがな

兼茂朝臣女

題志らず

思ふてふ事社うけれ呉竹のよにふる人のいはぬなければ

讀人志らず

思はむと我をたのめし言の葉は忘れ草とぞ今はなるらし

男の病にわづらひてまからで久しくありて遣はしける

今迄も消えでありつる露の身はおくべき宿のあれば也鳬

かへし

言の葉も皆霜枯に成り行けば露の宿りもあらじとぞ思ふ

恨みおこせて侍りける人の返事に

[_]
[1]忘れなむと
いひしことにもあらなくに今は限と物思ふかは

題志らず

現にはふせどねられず起き返り昨日の夢をいつか忘れむ

女につかはしける

さゞら浪まなく立つめる浦を社よに淺し共見つゝ忘れば

敦忠朝臣

西四條の前齋宮まだみこにものしたまひし時心ざしありて思ふ事侍りける間に齋宮に定まりたまひにければ其あくるあしたに榊の枝につけてさしおかせ侍りける

伊勢の海の千尋の濱に拾ふとも今は何てふかひか有べき

本院のくら

朝頼の朝臣の年ごろせをそこ通はし侍りける女の許よりようなし今は思ひ忘れねとばかり申して久しうなりにければこと女にいひつきて消息もせずなりにければ

忘ねと云ひしに叶ふ君なれど訪はぬはつらき物にぞ有ける

讀人志らず

題志らず

春霞はかなく立ちて別るとも風よりほかに誰かとふべき

伊勢

かへし

めに見えぬ風に心をたぐへつゝやらば霞の別れこそせめ

貞元親王

土左がもとよりせをそこ侍りける返事につかはしける

深緑そめけむ松のえにしあらば薄き袖にも浪はよせてむ

土左

かへし

松山の末こす浪のえにしあらば君が袖には跡も止まらじ

贈太政大臣

女の許より定めなき心ありなど申したりければ

深く思ひ染めつと云し言の葉はいつか秋風吹きて散ぬる

讀人志らず

男の心かはるけしきなりければたゞなりける時この男の心ざせりける扇にかきつけて侍りける

人をのみ恨むるよりは心からこれいまざりし罪と思はむ

忍びたる女の許に消息遣したりければ

足びきの山下志げくゆく水の流れてかくしとはゞ頼まむ

伊勢

男の忘れ侍りにければ

わびはつる時さへ物の悲しきはいづこを忍ぶ心なるらむ

親の護りける女をいなともせともいひ放てと申しければ

いなせとも云ひ放たれず憂物は身を心ともせぬよなり鳬

讀人志らず

をとこのいかにぞえまうでこぬ事といひて侍りければ

こずやあらむきやせむとのみ河岸の松の心を思遣らなむ

とまれと思ふ男の出でゝまかりければ

志ひてゆく駒の足をる橋をだになど我宿に渡さゞりける

物いひける人の久しう音づれざりけるからうじてまうできたりけるになどか久しうといへりければ

年をへていけるかひなき我身をば何かは人に有りとしられむ

いと忍びてまできたりける男をせいしける人ありけり。のゝじりければ歸り罷りてつかはしける

あさりする時ぞ侘しき人志れず難波の浦に住まふ我身は

寛湛法師母

公頼朝臣今まかりける女の許にのみまかりければ

ながめつゝ人待つ宵の呼子鳥何方へとか行きかへるらむ

讀人志らず

忍びたる人に

人ごとの頼み難さは難波なる芦の裏葉のうらみつべしな

少將内侍

忍びて通ひ侍りける人今歸りてなどたのめ置きておほやけの使に伊勢國にまかり歸りまできて久しうとはず侍りければ

人はかる心の隈はきたなくてきよき渚をいかですぎけむ

兼輔朝臣

かへし

誰が爲にわれが命を長濱の浦にやどりを志つゝかはこし

讀人志らず

女の許につかはしける

せきもあへず淵にぞ迷ふ涙川渡るてふ瀬を志る由もがな

かへし

淵ながら人かよはさじ涙川わたらば淺き瀬もこそはみれ

常にまうできて物などいふ人の今はなまうでこそ人もうたていふなりといひ出して侍りければ

きて歸る名をのみぞたつ唐衣志たゆふひもの心とけねば

内侍平子

左大臣河原にいであひて侍りければ

たえぬとも何思ひけむ涙川流れあふ瀬もありけるものを

左大臣

大輔につかはしける

今ははやみ山を出でゝ時鳥けでかき聲を我れにきかせよ

かへし

人はいさみ山がくれの時鳥ならはぬ里はすみうかるべし

中務

左大臣に遣しける

有しだに憂かりし物をあはず迚いづくにそふるつらさ成覽

左大臣

右近につかはしける

思侘び君がつらきに立ち寄らば雨も人めも洩さゞらなむ

讀人志らず

高明の朝臣に笛をおくるとて

笛竹の元の古ねは變る共己がよゝにはならずもあらなむ

好古朝臣

こと女に物いふと聞きてもとのめの内侍のふすべ侍りければ

めも見えず涙の雨の志ぐるれば身の濡衣はひる由もなし

中將内侍

かへし

にくからぬ人のきせけむ濡衣は思ひにあへず今乾きなむ

小野道風

[_]
[2]
題志ず

大方はせとだにかけじ天のがは深き心をふちとたのまむ

讀人志らず

かへし

淵とても頼みやはする天のがは年に一たび渡るてふせを

清蔭朝臣

みくしげ殿の別當につかはしける

身のならむ事をも志らず漕ぐ舟は浪の心も包まざりけり

元良親王

事いできて後に京極の御息所につかはしける

侘ぬれば今將同じ難波なるみを盡しても逢はむとぞ思ふ

敦忠朝臣

忍びてみくしげ殿のべたうにあひかたらふと聞きて父の左大臣のせいし侍りければ

いかにしてかく思ふてふことをだに人傅ならで君に語らむ

朝忠朝臣

公頼朝臣のむすめに忍びてすみ侍りけるにわづらふ事ありて志ぬべしといへりければ遣しける

諸共にいざと云ずば志での山越ゆ共こさむ物ならなくに

清蔭朝臣

年をへてかたらふ人のつれなくのみ侍りければ移ろひたる菊につけて遣しける

かくばかり深き色にも移ろふをなほ君菊の花といはなむ

讀人志らず

人の許にまかりたりけるに門よりのみ返しけるにからうじて簾垂のもとに呼びよせてかうてさへや心ゆかぬといひ出したりければ

いさやまた人の心も白露のおくにもとにも袖のみぞひづ

人のもとにまかりけるをあはでのみかへし侍りければ道よりいひつかはしける

よる汐の滿來る浦も思ほえず逢ふ事なみに歸ると思へば

人を思ひかけていひわたり侍りけるをまちどほにのみ侍りければ

數ならぬ身は山の端にあらね共多くの月をすぐしつる哉

業平朝臣

久しくいひわたり侍りけるにつれなくのみ侍りければ

頼めつゝあはで年ふる僞にこりぬこゝろを人は知らなむ

伊勢

かへし

夏蟲の志る/\惑ふ思ひをばこりぬ悲しと誰か見ざらむ

讀人志らず

かへしせぬ人に遣はしける

打侘びてよばゝむ聲に山彦の答へぬ山はあらじとぞ思ふ

かへし

山彦の聲のまに/\とひゆかば空しき空に行やかへらむ

かくいひかはす程に三年ばかりになり侍りければ

新玉の年の三年はうつ蝉の空しきねをや鳴きてくらさむ

題志らず

流れ出づる涙の川の行く末は遂にあふみの海とたのまむ

雨のふる日人につかはしける

雨ふれどふらねどぬるゝ我が袖は斯る思に乾かぬやなぞ

かへし

露ばかりぬるらむ袖の乾かぬは君が思ひの程やすくなき

女の許にまかりたるに立ちながら歸したれば道よりつかはしける

常よりも惑ふ/\ぞ歸りつる逢ふ道もなき宿に行きつゝ

雨にもさはらずまできてそら物語などしける男の門よりわたるとて雨のいたくふればなむまかりすぎぬるといひたれば

濡つゝもくると見えしは夏引の手引に堪ぬ糸にや有けむ

人に忘られて侍りける時

數ならぬ身は浮草と成りなゝむ強面き人に寄邊志られじ

思ひ忘れにける人の許にまかりて

夕闇は道もみえねど古さとはもとこし駒に任せてぞくる

かへし

駒にこそ任せたりけれ綾なくも心のくると思ひけるかな

朝綱朝臣の女に文など遣はしけるをこと女にいひつきて久しうなりて秋とぶらひて侍りければ

何方にことづてやらむ雁がねのあふこと稀に今はなるらむ

男のかれはてぬにことをとこをあひ志りて侍りけるにもとの男の東へまかりけるを聞きてつかはしける

ありとだに聞べき物を逢坂の關のあなたぞ遙けかりける

かへし

關守は改まるてふあふ坂のゆふつけ鳥はなきつゝぞゆく

又女のつかはしける

行き返りきてもきかなむ逢坂の關に變れる人もありやと

かへし

もる人もありとはきけど逢坂の關もとゞめぬ我が涙かな

かれにける男の思ひ出てまできて物などいひて歸りて

葛城や久米路にわたすいは橋の中々にても歸りぬるかな

かへし

中たへてくる人もなき葛城のくめぢの橋は今もあやふし

藤原有好

白ききぬども着たる女どものあまた、月あかきに侍りけるを見てあしたに一人が許につかはしける

白雲の皆一むらに見えしかど立ち出て君を思ひそめてき

讀人志らず

女の許に遣はしける

よそなれど心計はかけたるをなどか思ひに乾かざるらむ

題志らず

我戀の消ゆるまもなく苦しきはあはぬなげきや燃渡る覽

かへし

消ずのみ燃ゆる思は遠けれど身も焦れぬる物にぞ有ける

又をとこ

上にのみ愚に燃ゆる蚊遣火のよにも底には思ひこがれじ

又かへし

かはとのみ渡るをみるに慰まで苦しきことぞいや増りける

又をとこ

水増る心地のみして我爲に嬉しきせをばみせじとやする
[_]
Shinpen Kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1; hereafter cited as SKT) reads 忘れむと.
[_]
[2] SKT reads 題しらず.