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後撰和歌集卷第十六 雜歌二
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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16. 後撰和歌集卷第十六
雜歌二

在原業平朝臣

思ふ心ありて前太政大臣によせて侍りける

頼まれぬ憂世の中を歎つゝ日蔭におふる身をいかにせむ

敏行朝臣

やまひし侍りて近江の關寺にこもりて侍りけるに前の道より閑院のみこ石山に詣でけるを唯今なむ行き過ぎぬると人のつげ侍りければおひてつかはしける

逢坂のゆふつけになく鳥の音を聞咎めずぞ行過ぎにける

宣旨

前中宮の宣旨、贈太政大臣の家よりまかり出でゝあるにかの家にことにふれて日ぐらしといふことなむ侍りける

み山より響き聞ゆるひぐらしの聲を戀しみ今もけぬべし

贈太政大臣

かへし

蜩の聲を戀しみけぬべくば深山とほりにはやもきねかし

敦忠朝臣母

河原に出でゝはらへし侍りけるにおほいまうち君もいであひて侍りければ

誓はれし加茂の河原に駒とめて暫し水かへ影をだに見む

閑院のみこ

人の牛をかりて侍りけるに志に侍りければいひ遣はしける

我のりし事をうしとや消えにけむ草葉にかゝる露の命は

三條右大臣

延喜の御時賀茂の臨時の祭の日御前にてさかづきとりて

かくてのみやむべき物か千早ぶる賀茂の社の萬代をみむ

枇杷左大臣

同じ御時北野の行幸にみこし岡にて

御輿岡幾十の世々に年を經て今日の御幸を待ちて見つ覽

讀人志らず

戒仙が深き山寺に籠り侍りけるにこと法師詣できて雨に降りこめられて侍りけるに

何れをか雨ともわかむ山伏の落つる涙もふりにこそふれ

藤原興風

これかれ逢ひて夜もすがら物語してつとめておくり侍りける

思にはきゆる物ぞと志り乍今朝しもおきて何にきつらむ

讀人志らず

若う侍りける時は志賀に常に詣でけるを年老いては參り侍らざりけるに參り侍りて

珍らしや昔ながらの山の井は沈める影ぞ朽ち果てにける

大江興俊

宇治のあじろにしれる人の侍りければまかりて

うぢ川の浪にみなれし君ませば我も網代によりぬべき哉

小貳のめのと

院のみかど内におはしましゝ時人々扇てうぜさせ給ひける奉るとて

吹き出づるねどころ高く聞ゆなり初秋風はいさ手ならさじ

大輔

かへし

心して稀にふきくる秋風を山おろしにはなさじとぞ思ふ

讀人志らず

男のふみ多く書きてといひければ

儚くて絶えなむくもの糸故に何にか多くかゝむとすらむ

亭子院にいまあことめしける人

鞍馬の坂をよるこゆとてよみ侍りける

昔より鞍馬の山といひけるは我がごと人も夜や越えけむ

讀人志らず

男につけてみちのくにへむすめを遣はしたりけるが其をとこ心變りたりと聞きて心うしと親のいひ遣はしたりければ

雲居路の遙けき程の空言はいかなる風の吹きてつげゝむ

女の母

かへし

天雲のうきたる事ときゝしかど猶ぞ心はそらになりにし

もとよしの親王

たまさかに通へりける文をこひかへしければその文にぐして遣はしける

やればをしやらねば人に見えぬべし泣々も猶返す勝れり

素性法師

延喜の御時御馬を遣はして早くまゐるべき由おほせつかはしたりければ即ち參りておほせごとうけたまはれる人につかはしける

望月の駒より遲く出でつればたどる/\ぞ山はこえつる

藤原敦敏

病して心細しとて大輔につかはしける

萬代と契りしことのいたづらに人笑へにもなりぬべき哉

大輔

かへし

懸けていへばゆゝしき物を萬代と契し事や叶はざるべき

讀人志らず

霰のふるを袖にうけてきえけるを海のほとりにて

散るとみて袖に受くれど溜らぬは荒たる浪の花にぞ有ける

或所のわらは女、五節見に南殿にさぶらひて沓を失ひてけり。すけとみの朝臣くら人にてくつをかして侍りけるをかへすとて

立ち騒ぐ浪まを分けて潜きてし冲の藻屑をいつか忘れむ

輔臣朝臣

かへし

潜きてし沖の藻屑を忘れずは底のみるめを我にからせよ

讀人志らず

人の裳をぬはせ侍るにぬひて遣はすとて

限なく思ふ心は筑波ねのこのもやいかゞあらむとすらむ

男のやまひしけるをとぶらはであり/\てやみがたにとへりければ

思出でゝとふ言の葉を誰みまし身の白雲に成なましかば

みそか男したる女をあらくはいはでとへど物もいはざりければ

忘なむと思ふ心のつくからに言の葉さへやいへばゆゝしき

男のかくれて女を見たりければつかはしける

隱れゐてわがうき樣を水の上の沫とも早く思ひ消えなむ

世中をとかく思ひわづらひける程に女友だちなる人猶わがいはむことにつきねと語らひければ

人心いさや志らなみたかければよらむ渚ぞかねて悲しき

高津内親王

いたくこと好む由を時の人いふときゝて

直き木に曲れる枝も有る物をけをふき疵をいふがわりなさ

嵯峨の后

帝に奉り給ひける

移ろはぬ心の深くありければこゝら散る花春にあへるごと

讀人志らず

これかれ女の許にまかりて物いひなどしけるに女のあなさむの風やと申しければ

玉垂の編目のまより吹く風の寒くばそへていれむ思ひを

男の物いひけるを騒ぎければ歸りてあしたに遣はしける

白浪の打騒がれて立ちしかば身をう潮にぞ袖はぬれにし

かへし

とりもあへず立騒がれし仇浪にあやなく何に袖のぬれ劍

題志らず

直ちとも頼まざらなむ身に近き衣の關もありといふなり

友達の久しくあはざりけるにまかりあひて詠み侍りける

あはぬまに戀しき道も志りにしをなど嬉しきに惑ふ心ぞ

題志らず

いかなりし節にか糸の亂れ劍強てくれ共解けずみゆるは

賀朝法師

人のめに通ひける見附られ侍りて

身なぐ共人にしられじ世中に知られぬ山を知る由もがな

もとのをとこ

かへし

よの中に志られぬ山に身なぐとも谷の心やいはで思はむ

讀人志らず

山の井の君に遣はしける

音にのみ聞きてはやまじ淺く共いざ酌見てむ山の井の水

やまひしけるをからうじておこたれりと聞きて

志での山辿る/\もこえなゝむ憂き世の中に何歸りけむ

題志らず

數ならぬ身を重荷にて吉野山高き歎きを思ひこりぬる

かへし

吉野山こえむ事こそ難からめこらむ歎きの數は知りなむ

武藏

陽成院の帝時々とのゐにさぶらはせ賜ひけるを久しうめしなかりければ奉りける

數ならぬ身におく宵の白玉は光みえます物にぞありける

讀人志らず

まかり通ひける女の心とけずのみ見え侍りければ年月も經ぬるを今さらかゝる事といひつかはしたりければ

難波がた汀のあしの老がよに恨みてぞふる人のこゝろを

女の許より恨みおこせて侍りける返事に

忘るとは恨みざらなむ箸鷹のとかへる山の椎はもみぢず

昔同じ所に宮づかへし侍りける女の男につきて人の國におちゐたりけるを聞きつけて心ありける人なればいひ遣はしける

遠近の人めまれなる山里にいへゐせむとはおもひきや君

かへし

身をうしと人しれぬよを尋來し雲の八重立つ山にやは非ぬ

土左

をとこなど侍らずして年頃山里に籠り侍りける女を昔あひ志りて侍りける人道まかりけるついでに久しうきこえざりつるをこゝになりけりといひ入れて侍りければ

朝なげによの憂き事を忍びつゝ詠めせしまに年はへに鳬

閑院

山里に侍りけるに昔あひ志れる人のいつよりこゝにはすむぞと問ひければ

春やこし秋や行きけむ覺束な蔭の朽ち木と世を過す身は

貫之

題志らず

世の中はうき物なれや人事のとにもかくにも聞え苦しき

讀人志らず

武藏野は袖ひづばかり分けしかどわか紫は尋ねわびにき

壬生忠岑

暇にてこもりゐて侍りける頃人のとはず侍りければ

大荒木の森の草とや成りに劔假にだにきてとふ人のなき

讀人志らず

ある所に宮づかへし侍りける女のあだ名立ちけるが許よりおのれがうへはそこになむくちのはにかけていはるなど恨み侍りければ

哀れてふことこそ常の口のはにかゝるや人を思ふなるらむ

伊勢

題志らず

吹く風の下の塵にもあらなくにさも散易き我がなき名哉

閑院左大臣

春日に詣でける道にさほ川のほとりに初瀬より歸る女ぐるまのあひて侍りけるがすだれのあきたるよりはつかにみいれければあひ志りて侍りける女の心ざし深く思ひかはしながら憚る事侍りてあひ離れて六七年ばかりに成り侍りにける女に侍りければ彼の車にいひいれ侍りける

古里の佐保の川水けふも猶かくて逢ふ瀬は嬉しかりけり

俊子

枇杷左大臣よう侍りてならの葉をもとめ侍りければちかぬがあひ志りて侍りける家にとりにつかはしければ

我宿をいつ慣してか楢の葉をならし顏には折におこする

枇杷左大臣

かへし

楢の葉の葉守の神の坐けるを志らでぞ折りし崇なさるな

讀人志らず

友達の許にまかりてさかづきあまたゝびに成りにければ遁げてまかりけるをとゞめわづらひもて侍りける笛を取りとゞめて又の朝に遣はしける

歸りては聲やたがはむ笛竹のつらき一よの形見と思へば

かへし

一節に恨みなはてそ笛竹の聲のうちにも思ふこゝろあり

躬恒

もとより友達に侍りければ貫之にあひ語らひて兼輔朝臣の家に名つきを傳へさせ侍りけるに其名附きに加へて貫之におくりける

人につく便りだになし大荒木の森の下なる草の身なれば

兼忠朝臣の母のめのと

兼忠朝臣の母みまかりにければ兼忠をば故枇杷左大臣の家にむすめをばきさいの宮にさぶらはせむとあひ定めて二人ながらまづ枇杷の家に渡し送るとてくはへ侍りける

結び置し形見のこだになかりせば何に忍の草をつまゝし

讀人志らず

物思ひ侍りける頃やんごとなき高き所よりとはせ給へりければ

嬉しきもうきも心はひとつにて別れぬものは涙なりけり

貫之

世の中の心にかなはぬ事申しけるついでに

惜からで悲しき物は身なりけり憂き世背かむ方を志らねば

讀人志らず

思ふ事侍りける頃人に遣はしける

思出づることぞ悲しきよの中は空行く雲のはてを志らねば

題志らず

哀ともうしともいはじ陽炎のあるかなきかにけぬる世なれば

哀れてふことに慰さむ世の中をなどか悲しといひて過ぐ覽

播磨國にたか瀉といふ所に面白き家もちて侍りけるを京にて母がおもひにて久しうまからで彼高瀉に侍る人にいひつかはしける

物思ふと行きてもみねば高かたの蜑の苫屋は朽やしぬ覽

躬恒

延喜の御時ときの藏人のもとに奏しもせよとおぼしくてつかはしける

夢にだに嬉しともみば現にてわびしきよりは猶勝りなむ