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後撰和歌集卷第十四 戀歌六
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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14. 後撰和歌集卷第十四
戀歌六

讀人志らず

人のもとにつかはしける

逢ふ事を淀にありてふみつの杜つらしと君をみつる頃哉

かへし

みつのもりもる此頃の眺めには恨みもあへず淀の川なみ

みづからまできて夜もすがら物いひ侍りけるに程なくあけ侍りにければまかりかへりて

憂世とは思ふ物から天のとの明るはつらき物にぞ有ける

女の許に遣はしける

恨むれどこふれど君がよと共に知らず顏にて強面かる覽

かへし

恨むともこふ共いかゞ雲居より遙けき人を空にしるべき

いひわづらひてやみにける人に久しう有りて又遣はしける

賤機にへつる程なり白糸のたえぬる身とは思はざらなむ

かへし

へつるより疎くなりにし賤機の糸は絶ずもかひや無か覽

男のまできてすき事をのみしければ人やいかゞ見るらむとて

くることは常ならずとも玉蔓頼みはたえじと思ほゆる哉

かへし

玉蔓頼めくる日の數はあれど絶々にてはかひなかりけり

男の久しう音づれざりければ

古への心はなくや成りにけむ頼めしことのたえて年ふる

かへし

古へも今も心のなければぞ憂きをも志らで年をのみふる

男のたゞなりける時は常にまうで來けるが物いひて後は門よりわたれどまでこざりければ

たえざりし昔だに見しうき橋を今は渡ると音にのみきく

いひわびて二年ばかり音もせずなりにける男の五月ばかりにまうできて年頃久しう有りつるなど云ひてまかりにけるに

わすられて年ふる里の時鳥なにゝひと聲なきてゆくらむ

題志らず

とふやとて杉なき宿にきにたれど戀しき事ぞ知べ也ける

物いひわびて女のもとにいひやりける

露の命いつともしらぬ世中になどかつらしと思置かるゝ

女のほかに侍りけるをそこにと教ふる人も侍らざりければ心づからとぶらひて侍りける返事に遣はしける

狩人の尋ぬる鹿はいなび野にあはでのみ社
[_]
[1]あらまほしれ

右大臣

忍びたる女の許よりなどか音もせぬと申したりければ

小山田の水ならなくに斯計り流れそめては絶えむ物かは

伊衡朝臣の女いまき

男のまでこであり/\て雨のふる夜おほがさをこひにつかはしたりければ

月にだに待つ程多く過ぬれば雨もよにこじと思ほゆる哉

讀人志らず

はじめて人に遣はしける

思ひつゝまだ云染めぬわが戀を同じ心に志らせてしがな

いひわづらひてやみにけるを又思ひ出でゝとぶらひ侍りければいと定めなき心かなといひて飛鳥川の心をいひつかはして侍りければ

あすか川心の内に流るれば底の志がらみいつかよどまむ

朝頼朝臣

思ひかけたる女の許に

富士のねをよそにぞ聞きし今は我が思にもゆる煙なり鳬

讀人しらず

かへし

驗なき思ひとぞ聞くふじのねもかごと計りの煙なるらむ

いひかはしける男の親いといたうせいすと聞きて女のいひつかはしける

いひさして止めらるなる池水の浪いづ方に思ひよるらむ

同じ所に侍りける人の思ふ心侍りけれどいはで忍びけるをいかなる折にか有りけむあたりにかきておとしける

志られじな我が人志れぬ心もて君を思ひの中にもゆとは

心ざしをばあはれと思へど人めになむつゝむといひて侍りければ

あふ計りなくてのみふる我戀を人めにかくる事の侘しさ

題志らず

夏衣身にはなるともわが爲に薄き心はかけずもあらなむ

いかにしてこと語らはむ郭公嘆きの下になけばかひなし

思ひつゝ經にける年を知邊にてなれぬる物は心なりけり

源整

文などつかはしける女のことをとこにつき侍りけるに遣しける

われならぬ人住の江の岸に出でゝ難波の方を恨みつる哉

讀人しらず

整、かれがたになり侍りにければとゞめ置きたる笛を遣はすとて

濁行く水には影の見えばこそ芦まよふえを留めてもみめ

菅原のおほいまうち君の家に侍りける女に通ひ侍りける男中たえて又とひて侍りければ

菅原や伏見の里の荒れしより通ひし人のあともたえにき

女の男を厭ひてさすがにいかゞおぼえけむいへりける

千早振る神にもあらぬわが中の雲井遙になりもゆくかな

かへし

千早ぶる神にも何かたとふ覽おのれ雲井に人をなしつゝ

敦慶親王

女三のみこに

浮き沈む淵瀬に騒ぐ鳰鳥は底ものどかにあらじとぞ思ふ

藤原守文

又わかうちかひに人の物いふときゝて

松山に浪高き音ぞ聞ゆなり我れよりこゆる人はあらじを

讀人志らず

男の許に雨ふる夜かさをやりて呼びけれどこざりければ

さしてこと思ひし物を三笠山かひなく雨のもりにける哉

かへし

もるめのみ數多みゆればみ笠山志る/\如何さして行べき

女の許よりいといたくな思ひわびそと頼めおこせて侍りければ

慰むることの葉にだにかゝらずば今もけぬべき露の命を

兵衛

元慶親王のみそかにすみ侍りける頃今こむとたのめてこずなりにければ

人志れずまつにねられぬ有明の月にさへこそ欺かれけれ

元方

忍びてすみ侍りける人の許よりかゝるけしき人にみすなといへりければ

立田川たちなば君が名を惜み磐瀬の森のいはじとぞ思ふ

讀人志らず

宇多院に侍りける人にせをそこつかはしける返事も侍らざりければ

うだの野は耳なし山か喚子鳥呼ぶ聲にさへ答へざるらむ

女五のみこ

かへし

耳無の山ならずとも呼子鳥なにかはきかむ時ならぬ音を

忠岑

つれなく侍りける人に

戀侘びて志ぬてふ事はまだなきを世の例にも成ぬべき哉

讀人志らず

立ちよりけるに女にげて入りければつかはしける

影みれば奧へ入りける君によりなどか涙のとへはいづ覽

逢ひにける女の又あはざりければ

志らざりし時だにこえし逢坂をなど今更に我が惑ふらむ

藤原蔭基

女の許にまかりそめてあしたに

あかずして枕の上に別れにし夢路をまたも尋ねてしがな

讀人志らず

男のとはずなりにければ

音もせず成も行く哉鈴鹿山こゆてふ名のみ高く立ちつゝ

かへし

越えぬてふ名をな恨そ鈴鹿山最どま近くならむと思ふを

女に物いはむとてきたりけれどもこと人に物云ひければ歸りて

我爲に且はつらしとみ山木のこりともこりぬ斯る戀せじ

かへし

逢期なき身とは志る戀すとて嘆樵積む人はよきかは

戒仙法師

人につかはしける

朝ごとに露はおけども人こふるわが言の葉は色も變らず

讀人志らず

きて物いひける人の大方はむつまじかりけれど近うはえあはずして

ま近くてつらきを見るはうけれ共憂は物かは戀しきよりは

藤原さねたゞ

女の許につかはしける

筑紫なる思ひそめ川渡りなば水やまさらむ淀むときなく

讀人志らず

かへし

渡りては仇になるてふそめ川の心盡しに成りもこそすれ

男のもとより花盛にこむといひてこざりければ

花盛すぐしゝ人はつらけれど言の葉をさへ隱しやはせむ

右近

をとこの久しうとはざりければ

とふことをまつに月日はこゆるぎの磯にや出て今は恨みむ

讀人志らず

あひ志りて侍りける人の許に久しうまからざりければ忘草何をか種と思ひしはといふことをいひ遣はしたりければ

忘草名をもゆゝしみ假にてもおふてふ宿は行てだに見じ

かへし

憂き事の志げき宿には忘草植ゑてだにみじあきぞ侘しき

女ともろともに侍りて

數志らぬ思は君にあるものをおき所なきこゝちこそすれ

かへし

置所なき思としきゝつれば我にいくらもあらじとぞ思ふ

南院式部郷のみこの女

元長親王に夏のさうぞくしておくるとてそへたりける

わがたちてきるこそうけれ夏衣大方とのみ見べき薄さを

讀人志らず

久しうとはざりける人の思ひ出でゝ今宵までこむ門さゝであひまてと申してまでこざりければ

八重葎さしても門を今更に何にくやしくあけて待ちけむ

源庶明朝臣

人をいひわづらひてこと人にあひ侍りて後いかがありけむ、はじめの人に思ひかへりて程へにければ文はやらずして扇に高砂のかたかきたるにつけて遣はしける

さを鹿の妻なきこひを高砂の尾上の小松きゝもいれなむ

讀人志らず

かへし

さを鹿の聲高砂に聞えしは妻なき時の音にこそありけれ

思ふ人にえあひ侍らで忘られにければ

せきもあへず涙の川の瀬を早みかゝらむ物と思やはせし

題志らず

瀬を早みたえず流るゝ水よりも絶せぬ物は戀にぞ有ける

こふれどもあふよなき身は忘草夢路にさへや生ひ茂る蘭

世中のうきはなべてもなかりけり頼む限ぞ恨みられける

頼めたりける人に

夕されば思ぞ繁き待つ人のこむやこじやの定めなければ

源よしの朝臣

女につかはしける

厭はれて歸り越路の白山はいらぬに惑ふ物にぞ有りける

讀人も

題志らず

人並にあらぬ我身は難波なる芦のねのみぞ下に泣るゝ

白雲のゆくべきやまも定まらず思ふ方にも風はよせなむ

世の中になほ有明の月なくて闇に惑ふをとはぬつらしな

贈太政大臣

さだまらぬ心ありと女のいひたりければつかはしける

飛鳥川せきて止むる物ならば淵瀬になると何かいはれむ

右近

久しうまかり通はずなりければ十月計りに雪の少し降りたるあしたにいひ侍りける

身をつめば哀とぞ思ふ初雪のふりぬることも誰にいはまし

讀人志らず

源正明朝臣十月ばかりに床夏を折りて送りて侍りければ

冬なれど君がかきほにさきぬればうべ床夏に戀しかり鳬

兼輔朝臣

女の恨むる事ありて親の許にまかり渡りて侍りけるに雪の深く降りて侍りければあしたに女の迎ひに車遣はしける消息にくはへて遣はしける

白雪のけさは積れる思ひ哉あはでふる夜の程もへなくに

讀人志らず

かへし

白雪の積る思もたのまれず春より後はあらじとおもへば

心ざし侍る女、宮仕へし侍りければあふ事難くて侍りけるに雪のふるにつかはしける

我戀ひし君があたりを離れねばふる白雪も空にきゆらむ

かへし

山隱れ消えせぬ雪の侘しきは君まつの葉に懸りてぞふる

藤原時雨

物いひ侍りける女に年のはての頃ほひ遣はしける

あら玉の年は今日あすこえぬべし逢坂山を我やおくれむ
[_]
[1] Shinpen Kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads あらまほしけれ.