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後撰和歌集卷第七 秋歌下
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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7. 後撰和歌集卷第七
秋歌下

讀人志らず

題しらず

藤袴きる人なみやたちながら時雨のあめに濡しそめつる

秋風にあひとしあへば花薄孰れともなく穗にぞいでける

在原棟梁

寛平の御時きさいの宮の歌合に

花薄そよともすればあき風のふくかとぞきく獨ぬる夜は

讀人志らず

題志らず

花薄ほに出で易き草なればみにならむとは頼まれなくに

あき風にさそはれわたる雁がねは雲居遙に今日ぞ聞ゆる

貫之

越の方に思ふ人侍りける時に

秋の夜にかりかもなきて渡るなり我思ふ人の言づてやせし

題志らず

あき風に霧とびわけてくる雁の千世に變らぬ聲聞ゆなり

讀人しらず

物思ふと月日のゆくも知ざりつ雁こそ鳴て秋を告げゝれ

大和にまかりけるついでに

かりがねの鳴きつるなべに唐衣立田の山は紅葉しにけり

題志らず

あき風に誘はれわたる雁がねは物思ふ人の宿をよかなむ

誰聞けとなく雁がねぞ我宿の尾花が末を過ぎがてにして

行歸りこゝも彼所も旅なれやくる秋毎にかり/\となく

秋毎にくれど歸れば頼まぬを聲にたてつゝ雁とのみなく

只管に我が思はなくに己れさへかり/\とのみ鳴渡る覽

躬恒

人の雁はきにけると申すを聞きて

年毎に雲路まどはぬかりがねは心づからや秋を志るらむ

讀人志らず

大和にまかりける時これかれともにて

天の川かりぞと渡るさほ山の梢はむべも色づきにけり

藤原忠房朝臣

兼輔の朝臣左近少將に侍りける時武藏の御馬むかへにまかりたつ日俄にさはる事ありてかはりに同じつかさの少將にてむかへにまかりて逢坂より隨身を返して言ひ送り侍りける

あき霧の立つ野の駒をひく時は心にのりて君ぞこひしき

在原元方

題志らず

いその神ふる野の草もあきは猶色ことにこそ改まりけれ

讀人志らず

秋の野の錦のごとも見ゆる哉色なき露はそめじと思ふに

秋の野にいかなる露の置きつめばちゞの草葉の色變る覽

孰れをかわきて忍ばむ秋の野に移ろはむとて色變るくさ

紀友則

聲たてゝ鳴ぞしぬべき秋霧に友惑はせる鹿にはあらねど

讀人志らず

誰きけと聲高砂にさを鹿のなが/\し夜を獨り鳴くらむ

うちはへて影とぞ頼む峯の松色どるあきの風にうつるな

初時雨ふれば山べぞ思ほゆる何れの方か先づもみづらむ

妹が紐とくと結ぶと立田山いまぞもみぢの錦おりける

かり鳴きて寒き朝の露ならし立田の山をもみだすものは

見る毎に秋にもなる哉立田姫紅葉そむとや山もきるらむ

源宗于朝臣

梓弓いるさの山はあき霧のあたるごとにや色まさるらむ

讀人志らず

はらからどちいかなる事か侍りけむ

君とわれ妹せの山も秋くれば色變りぬる物にぞありける

元方

題志らず

遲くとく色づく山の紅葉は後れさき
[_]
[1]たづ
露や置くらむ

友則

立田山をこゆとて

かく計りもみづる色のこければや錦立田の山といふらむ

讀人志らず

題志らず

からごろも立田の山のもみぢ葉は物思ふ人の袂なりけり

貫之

もる山をこゆとて

足びきの山の山守もる山のもみぢせさする秋はきにけり

題志らず

唐錦たつ田の山も今よりは紅葉ながらにときはならなむ

唐衣たつたの山のもみじ葉ははたものもなき錦なりけり

忠岑

人々もろ共に濱づらをまかる道に山の紅葉をこれかれよみ侍りけるに

幾きともえこそ見わかね秋山の紅葉の錦よそにたてれば

讀人志らず

題志らず

秋風の打吹くからに山も野もなべて錦におりかへすかな

など更に秋かととはむ唐錦たつ田の山のもみぢするよを

あだなりと我は見なくに紅葉を色の變れる秋しなければ

貫之

玉蔓かつらぎ山のもみじ葉は面影にのみ見えわたるかな

秋霧の立ちしかくせば紅葉は覺束なくてちりぬべらなり

素性法師

鏡山をこゆとて

鏡山やま掻曇り志ぐるれど紅葉あかくぞ秋は見えける

伊勢

隣に住み侍りける時九月八日伊勢が家の菊に綿をきせに

[_]
遣しけたりれば
又のあした折てかへすとて

數志らず君が齡をのばへつゝなだゝる宿の露とならなむ

藤原雅正

かへし

露だにもなだゝる宿の菊ならば花の主やいくよなるらむ

伊勢

なが月の九日鶴のなくなりにければ

菊の上に置居るべくは有なくに千年の身をも露になす哉

讀人志らず

題志らず

菊の花なが月ごとにさきくれば久しき心あきや知るらむ

名にしおへば長月ごとに君が爲垣根の菊は匂へとぞ思ふ

ほかの菊を移しうゑて

故里を別れてさける菊の花旅ながらこそにほふべらなれ

男の久しうまでこざりければ

何にきく色そめ返し匂ふらむ花もてはやす君もこなくに

月夜に紅葉のちるを見て

紅葉の散りくる見れば長月の有明の月のかつらなるらし

題志らず

いくちはたおればか秋の山毎に風に亂るゝ錦なるらむ

等閑に秋の山べをこえくればおらぬ錦をきぬひとぞなき

紅葉ばを分けつゝゆけば錦着て家に歸ると人や見るらむ

貫之

打群れていざわぎもこが鏡山越えて紅葉のちらむ影見む

讀人志らず

山風の吹きの隨に紅葉はこのもかのもに散りぬべらなり

秋の夜に雨と聞えて降りつるは風に亂るゝ紅葉なりけり

立ち寄りて見るべき人のあればこそ秋の林に錦志くらめ

木の本におらぬ錦のつもれるは雲の林の紅葉なりけり

秋風にちるもみぢ葉は女郎花やどにおりしく錦なりけり

足引の山の紅葉ば散りにけり嵐のさきに見てましものを

紅葉ばの降りしく秋の山べこそたちて悔しき錦なりけれ

立田がはいろ紅になりにけり山のもみぢぞ今はちるらし

貫之

立田川秋にしなれば山ちかみ流るゝ水ももみぢしにけり

讀人志らず

もみぢ葉のながるゝ秋は川ごとに錦洗ふと人や見るらむ

立田川秋は水なくあせなゝむあかぬ紅葉の流るればをし

文屋朝康

浪分けてみる由もがな渡つみの底のみるめも紅葉散るやと

藤原興風

木の葉ちる浦に浪立つ秋なれば紅葉に花も咲き紛ひけり

讀人志らず

わたつみの神に手向る山姫の幣をぞ人は紅葉といひける

貫之

蜩の聲もいとなくきこゆるはあき夕暮になればなりけり

讀人志らず

風の音の限と秋やせめつらむ吹きくるごとに聲の侘しき

紅葉ばにたまれるかりの涙には月の影こそ映るべらなれ

右近

あひ知りて侍りける男の久しうとはず侍りければ長月ばかりにつかはしける

大方の秋の空だに侘しきに物思ひそふる君にもあるかな

讀人志らず

題志らず

我が如く物思ひけらし白露のよを徒らにおきあかしつゝ

平伊望朝臣女

あひ志りて侍りける人、のち/\までこずなりにければ男の親聞きてなほまかりとへと申しをしふときゝて後にまできたりければ

秋深みよそにのみきく白露のたが言の葉にかゝるなる覽

昔の承香殿のあこぎ

かれにける男の秋とへりけるに

とふことのあきしも稀に聞ゆるはかりにや我を人の頼めし

源とゝのふ

紅葉と色こきさいでとを女のもとに遣はして

君こふる涙にぬるゝわが袖と秋の紅葉といづれまされり

讀人志らず

題志らず

照る月の秋しも殊にさやけきは散る紅葉を夜も見よとか

故宮の内侍に兼輔朝臣志のびてかよはし侍りける文をとりてかきつけて内侍に遣はしける

など我身下は紅葉となりにけむ同じ歎きの枝にこそあれ

源わたす

秋やみなる夜かれこれ物語し侍るあひだ雁のなき渡り侍りければ

あかゝらば見るべき物を雁金の何所ばかりに鳴きて行く覽

讀人志らず

菊の花折れるとて人のいひ侍りければ

徒らに露におかるゝ花かとて心も志らぬひとやをりけむ

藤原忠行

身のなり出でぬ事など歎き侍りける頃紀友則がもとよりいかにぞといひおこせて侍りければ返事に菊のはなを折りてつかはしける

枝も葉も移ろふ秋の花みればはては影なく成りぬべらなり

友則

かへし

雫もて齡のぶてふ花なれば千代の秋にぞかげは志げらむ

貫之

延喜の御時秋の歌めしありければ奉りける

秋の月光さやけみ紅葉ばのおつる影さへ見えわたるかな

讀人志らず

題志らず

秋毎につらを離れぬ雁がねは春歸るとも變らざらなむ

をとこの花かづらゆはむとて菊のありときく所にこひに遣はしたりければ花にくはへて遣しける

皆人に折られにけりと菊の花君が爲にぞ露はおきける

題志らず

吹く風に任する舟や秋の夜の月の上よりけふはこぐらむ

紅葉のちりつもれる木のもとにて

紅葉はちる木の本にとまりけり過行く秋や何地なるらむ

忘れにける男の紅葉を折りておくりて侍りければ

思出でゝとふにはあらじ秋はつる色の限を見するなる覽

ちかぬがむすめ

なが月のつごもりの日もみぢに氷魚をつけておこせて侍りければ

宇治山の紅葉をみずば長月の過行く日をも知ずぞ有まし

貫之

九月のつごもりに

長月の有明の月はありながら儚なく秋は過ぎぬべらなり

躬恒

同じつごもりに

何方によはなりぬらむ覺束なあけぬ限りは秋ぞと思はむ
[_]
[1] Shinpen Kokka Taikan (Tokyo: Kadokawa Shoten, 1983, vol. 1) reads だつ.