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後撰和歌集卷第十 戀歌二
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
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10. 後撰和歌集卷第十
戀歌二

藤原忠房朝臣

女の許にはじめて遣はしける

人をみて思ふ思もある物を空にこふるぞはかなかりける

壬生忠岑

獨のみ思ふはくるしいかにして同じ心にひとををしへむ

紀友則

我心いつならひてか見ぬ人を思ひやりつゝ戀しかるらむ

源中正

まだ年若かりける女につかはしける

葉をわかみほにこそいでね花薄したの心に結ばざらめや

兼覽王

人をいひはじむとて

足引の山下志げくはふ葛の尋ねてこふるわれと知らずや

忠房朝臣

隱れぬに忍び侘びぬる我身哉ゐでの蛙となりや志なまし

藤原輔文

女のざうしによる/\立ちよりつゝ物などいひてのち

阿武隈の霧とはなしに終夜立ち渡りつゝよをもふるかな

讀人志らず

文遣はせども返事もせざりける女のもとに遣はしける

怪しくも厭ふにはゆる心哉いかにしてかは思ひやむべき

本院右京

くにもちが音もせざりければ遣はしける

とも斯もいふ言の葉のみえぬ哉いづらは露のかゝり所は

橘敏仲

題志らず

侘人のそぼつてふなる涙川おりたちてこそぬれ渡りけれ

大輔

かへし

淵瀬とも心もしらず涙川おりやたつべきそでのぬるゝに

敏仲

心見に猶おりたゝむ涙川うれしきせにも流れあふやと

藤原敦忠朝臣

わざとにはあらで時々物いひふれ侍りける女の、心にもあらで人に誘はれてまかりにければとのゐ物にかきつけて遣はしける

かゝりける人の心を白露のおけるものとも頼みけるかな

藤原顯忠朝臣

あひしりて侍りける女を久しうとはず侍りければいといたうなむわび侍ると人のつげ侍りければ

鶯の雲居にわびて鳴く聲を春のさがとぞわれはきゝつる

平時望朝臣

文通はしける女のこと人にあひぬと聞きてつかはしける

かく許り常なき世とはしりながら人を遙に何頼みけむ

小町があね

男のこざりければ遣はしける

我門の一むら薄かりかはむ君が手なれのこまもこぬかな

枇杷左大臣

題志らず

よを海の沫と消ぬる身にしあれば恨むる事ぞ數なかりける

伊勢

かへし

綿つみと頼めしこともあせぬれば我ぞ我身のうらは恨むる

源等朝臣

人のもとに遣はしける

東路の佐野の船橋かけてのみ思ひ渡るをしる人のなき

紀長谷雄朝臣

人につかはしける

ふしてぬる夢路にだにもあはぬ身は猶淺ましき現とぞ思ふ

讀人志らず

女につかはしける

天の戸をあけぬ/\と云做して空鳴きしつる鳥の聲かな

よもすがらぬれてわびつる唐衣あふ坂山に道まどひして

男に遣はしける

思へども綾なしとのみいはるれば夜の錦の心地こそすれ

女の許に遣はしける

音にのみ聞來し三輪の山よりも杉の數をば我ぞ見えにし

兼輔朝臣

おのれを思ひ隔てたる心ありといへる女の返事に遣はしける

難波潟かりつむ葦のあしづゝのひとへも君を我や隔つる

讀人志らず

遠き所にまかりける道よりやむことなき事によりて京へ人つかはしけるついでに文のはしにかきつけて侍りける

我ごとや君もこふらむ白露のおきてもねても袖ぞ乾かぬ

あひしりて侍りける人の許より久しくとはずしていかにぞやまだいきたるやとたはぶれて侍りければ

つらく共有らむとぞ思ふよそにても人やけぬるときかまほしさに

在原業平朝臣

人のもとにしば/\まかりけれどあひ難く侍りければ物にかきつけ侍りける

暮れぬ迚ねて行くべくもあらなくに辿る%\も歸る勝れり

元良のみこ

をとこ侍る女をいとせちにいはせ侍りけるを女いとわりなしといはせければ

わりなしと云ふ社且は嬉しけれ愚ならずと見えぬと思へば

藤原興風

女の許より心ざしの程をなむえしらぬといへりければ

我戀をしらむと思はゞたごの浦に立つ覽浪の數を數へよ

貫之

いひかはしける女の許よりなほざりにいふにこそあめれといへりければ

色ならば移る計りもそめてまし思ふ心をえやはみせける

大江朝綱朝臣

物のたうびける女の許に文遣はしたりけるに心地あしとて返事もせざりければ又つかはしける

足引のやまひはすとも踏通ふ跡をもみぬは苦しき物を

元良親王

おほつぶねに物のたうびつかはしけるを更にきゝ入れざりければ遣はしける

大方はなぞやわが名の惜しからむ昔のつまと人に語らむ

おほつぶね在原棟梁女

かへし

人はいさ我は無名の惜ければ昔も今もしらずとをいはむ

讀人志らず

返事せざりける女の文をからうじてえて

跡見れば心なぐさの濱千鳥いまは聲こそきかまほしけれ

同じ所にて見かはしながら得あはざりける女に

かはとみて渡らぬ内に流るゝはいはで物思ふ涙なりけり

橘公頼朝臣

心ざしありける女に遣はしける

天雲に鳴き行く雁の音にのみきゝ渡りつゝ逢ふ由もがな

貫之

住の江の波にはあらねどよと共に君によせ渡るかな

讀人志らず

兵衞に遣はしける

見ぬ程に年の變れば逢ふことのいやはる%\と思ほゆる哉

中將更衣伊衡女

まかり出て御文遣したりければ

今日過ぎばしなまし物を夢にても何處をはかと君がとはまし

延喜御製

御かへし

現にぞとふべかりける夢とのみ惑ひし程や遙けかりけむ

藤原ちかぬ

題志らず

流れてはゆく方もなし涙川我身のうらやかぎりなるらむ

在原棟梁

我戀の數にしとらば白妙のはまの眞砂もつきぬべらなり

貫之

涙にも思ひのきゆる物ならばいとかく胸は焦さゞらまし

坂上是則

驗なき思やなぞと芦たづの音になくまでにあはず侘しき

貫之

年久しく通はし侍りける人に遣はしける

玉の緒のたえて短き命もてとし月ながきこひもするかな

平定文

題志らず

我のみや燃てきえなむ世と共に思もならぬ富士のねのごと

きのめのと

かへし

ふじのねの燃渡る共いかゞせむけち社志らね水ならぬ身は

貫之

心ざせる女の家のあたりにまかりていひいれ侍りける

侘び渡る我が身は露を同じくば君が垣根の草にきえなむ

在原元方

題志らず

みるめかる渚やいづこあふごなみ立寄る方もしらぬ我身は

藤原滋幹

東宮になるとゝいふ戸のもとに女と物いひけるに親の戸をさしてゐて入りにければ又のあしたに遣はしける

鳴門よりさし出されし舟よりも我ぞ寄邊もなき心地せし

讀人しらず

題志らず

高砂の峯の志ら雲かゝりける人のこゝろを頼みけるかな

延喜御製

長唄のみこの母の更衣さとに侍りけるにつかはしける

よそにのみ待つは儚き住江の行きてさへ社見まく欲けれ

等朝臣

題志らず

陽炎に見しばかりにや濱千鳥行くへも志らぬ戀に惑はむ

藤原兼茂朝臣

ある所は志りながらえあふまじかりける人につかはしける

綿津海のそこの在所は知り乍潜きていらむ浪のまぞなき

橘實利朝臣

女のもとに遣はしける

つらしとも思ひぞはてぬ涙川流れてひとをたのむ心は

讀人志らず

かへし

流れてと何頼むらむ涙川かげ見ゆべくもおもほえなくに

平定文

人をいひわづらひて遣はしける

何事を今はたのまむ千早ぶる神もたすけぬ我身なりけり

おほつぶね

かへし

千早ぶる神も耳こそなれぬらし樣々祷るとしもへぬれば

貫之

女の許にまかりたりけるをたゞにてかへし侍りければいひいれ侍りける

うらみても身こそつらけれ唐衣きて徒らに返すと思へば

壬生忠峯

あひ志りて侍りける人を久しうとはずしてまかりたりければ門より返し遣しけるに

住の江のまつに立寄る白浪の返る折にやねはなかるらむ

讀人志らず

をとこの許より今はこと人あんなればといへりければ女にかはりて

思はむと頼めし事もある物をなき名をたてゞ唯に忘れね

かへし

春日野の飛火の野守みし物をなきなといはゞ罪も社うれ

題志らず

忘られて思ふ歎きの茂るをや身を耻かしの森といふらむ

右近

人の心かはりにければ

思はむと頼めし人はありときくいひし言の葉何地いに劔

源清蔭朝臣

定國の朝臣の御やす所清蔭の朝臣とみちの國にある所々をつくして歌によみかはして今はよむべき所なしといひければ

さても猶籬の嶋のありければ立寄りぬべく思ほゆるかな

讀人志らず

こと女の文をめの見むといひけるに見せざりければ恨みけるに其文の裏にかきつけて遣はしける

これはかく恨み所もなき物を後ろめたくは思はざるらむ

源さねあきら

久しうあはざりける女に遣しける

思ひきや逢ひ見ぬ事をいつよりと數ふ計になさむ物とは

藤原治方

題志らず

世の常の音をしなかねば逢ふ事の涙の色も殊にぞ有ける

大伴黒主

白浪のよする磯まをこぐ舟の舵とりあへぬ戀もするかな

源うかぶ

戀しさはねぬに慰むともなきに怪しく逢はぬめをもみる哉

源すぐる

年經ていひわたり侍りける女に

久しくもこひ渡るかな住の江の岸に年經る松ならなくに

藤原清正

題志らず

逢ふ事のよゝを隔つる呉竹のふしの數なき戀もするかな

讀人志らず

かれがたになりける人に末もみぢたる枝につけてつかはしける

今はてふ心つくばの山みれば梢よりこそ色かはりけれ

源重光朝臣

女の許より歸りてあしたに遣はしける

歸りけむ空も志られず姨捨の山より出でし月を見しまに

清正母

兼輔朝臣にあひはじめて常にしもあはざりける程に

ふり解けぬ君がゆきげの雫ゆゑ袂にとけぬこほりしに鳬

藤原有文朝臣

方ふたがりける頃たがへにまかるとて

片時もみねば戀しき君をおきて怪しや幾夜外にねぬらむ

大江千古

題志らず

思遣る心にたぐふ身なりせば一日に千度きみはみてまし

元良のみこ

忍びて通ひ侍りける女の許より狩さうぞく送りて侍りけるにすれる狩衣侍りけるに

逢ふことは遠山鳥の狩衣きてはかひなきねをのみぞなく

あつよしのみこ

題志らず

深くのみ思ふ心は葦の根の分けても人にあはむとぞ思ふ

藤原忠國

忍びてあひわたりける人に

漁火の夜は仄かに隱しつゝありへば戀のしたにけぬべし

小八條御息所

寛平の帝御ぐしおろさせたまうての頃御帳のめぐりにのみ人はさぶらはせ給ひて近うもめしよせられざりければかきて御帳に結びつけゝる

立寄らば影踏む計り近けれど誰かなこその關をすゑけむ

土左

男のもとに遣はしける

我袖はなにたつ末の松山か空よりなみのこえぬ日はなし

讀人志らず

月をあはれといふはいむなりといふ人の有りければ

獨寐の侘しき儘に起居つゝ月をあはれといみぞかねつる

男のもとに遣はしける

唐錦惜しき我名は立ち果てゝいかにせよとか今は強面き

はじめて人にのたまひつかはしける

人傳にいふ言の葉の中よりぞ思ひ筑波のやまは見えける

貫之

はつかに人を見て遣はしける

便りにもあらぬ思ひの怪しきは心を人につくるなりけり

讀人志らず

人の家より物見に出づる車を見て心づきにおぼえ侍りければたぞと尋ねとひければいでける家のあるじと聞きてつかはしける

人妻に心あやなくかけはしの危きものは戀にぞありける

人を思ひかけて心地もあらずやありけむい物もいはずして日くるればおきもあがらずと聞きて此思ひかけたる女の許よりなどかくすき%\しくはといひて侍りければ

いはで思ふ心ありその濱風に立つ白浪のよるぞわびしき

心かけて侍りけれどいひつかむ方もなくつれなきさまに見えければつかはしける

獨のみこふれば苦し呼子鳥聲になき出でゝ君にきかせむ

をとこの女に文つかはしけるを返事もせで絶えにければ又つかはしける

節なくて君がたえにし白糸はより付き難き物にぞ有ける

をとこの旅よりまできて今なむまできつきたるといひて侍りける返事に

草枕このたびへつる年月のうきはかへりて嬉しからなむ

をとこの程久しうありてまできてみ心のいとつらさに十二年のやまごもりしてなむ久しうきこえざりつるといひ入れたりければ呼び入れてものなどいひてかへしつかはしけるがまたおともせざりければ

出でしより見えずなりにし月影は又山のはに入やしに劍

かへし

足引の山におふてふもろ蔓もろ共にこそいらまほしけれ

平定文

人を思ひかけて遣はしける

濱千鳥頼むを志れとふみそむる跡うち消つな我をこす波

おほつぶね

かへし

行く水の瀬毎にふまむ跡故に頼む志るしを孰れとかみむ

源もろあきらの朝臣

人の許に始めて文遣はしたりけるに返事はなくてたゞ紙をひき結びて返したりければ

つまにおふることなし草をみるからに頼む心ぞ數増りける

かくておこせて侍りけれど宮づかへする人なりければいとまなくて又の朝に床夏の花につけておこせて侍りける

置く露のかゝる物とは思へどもかれせぬものは撫子の花

かへし

かれず共いかゞ頼まむ撫子の花は常磐の色にしあらねば