霜月十日の頃牧が花より歸る道にて、俄に砂土塊吹き
上げ、森の方より雨、霰、小石うつやうになん降りける。國上の山を仰ぎ見れば、い
と恐しげなる雲出で雷さへ鳴りにけり。をち方の里見えずなりにければ、其の日辛う
じて中島てふ村に至り、大蓮寺にもと知れる僧のありければ宿りを乞ふ。さて今日の
あれにて何もかも濕れたりけるをそれなるをみなどもの見て、いたはしとて著かへの
ものとり出し吾が著たるをば持ち去りて手毎にほしてかはかしけり。(臘月二十八日
阿部定珍宛手紙)
雨霰ちり%\ぬるる旅衣人毎にとりてほしあへるかも