University of Virginia Library

由之に問ふ

白つゆはことにおかぬをいかなればうすく濃く染む山のもみぢば

渡部の月華亭にて

この宿のひと本すすきなつかしみ穗に出る秋はとめて我が來ん

その夜は法師と只二人して田づらに月を見侍りぬ「あ さ衣袂は露にひぢにけり賤が門田の月をながめて」(鵲齋の記)

思ふどち門田のくろに圓居して夜は明かしなん月の清きに

日に/\いづこへまかると人の問ひければ

あだなりと人はいふとも淺茅原あさわけゆかん思ふ方には

「あらしのまど」にやどりて

ひさがたの降り來る雨か谷のとか夜のあらしに散るもみぢばか

萩の花を折りてたまはりければ

露ながら手折りてぞ來し萩の花いつか忘れん君が心を

心地あしくて三輪氏のもとにふせりたりけり。ひるの 頃門に飯乞ふ音をききて

手を折りてうちかぞふれば此の秋もすでになかばをすぎにけらし も

窈冥居士都良が身まかりし頃、前栽に朝顏のいと清げ に咲けるを見て

かくばかりありけるものを世の中は何朝がほをもろしと思はん

かみな月の頃庵にて

山里の草のいほりに來て見れば垣根に殘るつはぶきの花

由之老

あしびきの山もみぢばはさすたけの君には見せつ散らばこそ散れ

鳴琴堂にてよめる

蟲は鳴く千草は咲きぬこの庵を今宵は借らん月出づるまで

晴るるかと思へばくもる秋の空うき世の人の心知れとや
たまぼこの道のひまごとしをりせんまた來ん秋はたづね來んため
花の野にしをりやせましひさがたのまた來ん秋はたづね來んため
行く秋のあはれを誰れに語らましあかざ籠にみて歸へる夕ぐれ
秋もやや衣手寒くなりにけり草の庵をいざとざしてん
秋の夜もややはだ寒くなりにけり一人や君があかしかぬらん
秋もやや衣手寒くなりにけりつづれさせてふ蟲の告ぐれば
秋もややうらさびしくぞなりにけりいざ歸りなん草の菴に
秋もやや夜寒になりぬ我が門につづれさせてふ蟲の聲する
里子らの吹く笛竹もあはれきくもとより秋のしらべなりせば
なほざりに日を暮しつつあらたまの今年の秋も暮しつるかも
蟲は鳴く千草は咲きぬぬばだまの秋の夕べのすぐころもをし
あしびきの山田のくろに鳴く鴨の聲聞く時ぞ秋は暮れける
淋しさに草のいほりを出でて見れば稻葉おしなみ秋風ぞ吹く
秋もややうらさびしくぞなりにけり小笹に雨のそそぐを聞けば
秋さめの日に/\降るにあしびきの山田の老翁は晩稻刈るらん
秋の雨の晴れ間に出でて子供らと山路たどれば裳のすそ濡れぬ
秋の雨のひそ/\ふればから衣ぬれこそまされひるとはなしに
秋の夜もやや肌寒くなりにけりひとりや淋しあかしかねつも
秋の夜は長しと言へどさす竹の君と語ればおもほえなくに
夏草の田ぶせのいほと秋の野のあさぢがやどはいづれすみよき
秋の夜の月の光のさやけさに辿りつつ來し君がとぼそに
降る雨に月の桂も染まるやと仰げば高し長月のそら
風は清し月はさやけしいざともに踊りあかさん老のなごりに

右のうた「ふみ月十五日の夜よみたまひしとぞ」 (蓮の露)

誰れしにも浮世の外と思ふらん隈なき月のかげを眺めて
名にしおふ今宵の月を我が庵に都の君のながむらんとは
いつまでも忘れまいぞや長月の菊のさかりにたづねあひしを
旅衣淋しさ深き山里に雲井同じき月を見るかな
越の空も同じ光の月影をあはれと見るや武藏野の原
ふる里をはる%\出でて武藏野の隈なき月をひとり見るかな
ふる里のこと思ひ出でてや君はしも有明の浦に月や見るらん
つれ%\に月をも知らで更科や姨捨山もよそにながめて
ひさがたの雲のあなたに住む人は常にさやけき月を見るらん
柴の庵をうち出で見ればみ林の梢もり來る月の清さよ
住めば又心おかれぬ宿もがな假の篠屋の秋の夜の月
ひさがたの月の光の清ければ照しぬきけり唐も大和も
しろたへの衣手寒し秋の夜の月なか空にすみ渡るかも
うば玉の夜の闇路に迷ひけりあかたの山に入る月を見て
秋の野の花の錦の露けしやうらやましくも宿る月影
あしびきの國上の山の松かげにあらはれ出づる月のさやけさ
もろともにおどり明かしぬ秋の夜を身にいたづきのゐるも知らず て
いざ歌へ我れ立ち舞はんぬばだまの今宵の月にいねらるべしや
小烏のねぐらにとまる聲ならで月見る友もあらぬ山住み
わたつみの青海原はひさがたの月のみ渡るところなりけり
にほの海照る月かげの隈なくば八つの名所一目にも見ん
こぞの秋あひ見しままにこの夕べ見ればめづらし月ひとをとこ
えにしあれば二歳つづきこの殿に名たゝる月を眺むらんとは
幾人かえも寢ざるらんあしびきの山の端出づる月を見んとて
秋の野の草ばの露を玉と見てとらんとすればかつ消えにけり
露と見しうき世を旅のままならば我が家も草の枕ならまし
ふる里をよろ/\ここに武藏野の草葉の露とけぬる君はも
萩がへにおく白露の玉ならば衣のうらにかけて行かまし
白露に咲きたる花を手折るとて秋の山路にこの日くらしつ
露はおきぬ山路は寒し立ち酒を食して歸らんけだしいかがあらん
月夜にはいもねざりけりおほとのの林のもとにゆきかへりつつ
秋の野の尾花における白つゆを玉かとのみぞあやまたれける
風になびく尾花が上におく露の玉と見しまにかつ消えにけり
秋の野の草むら毎におく露はよもすがらなく蟲の涙か
なほざりに我が來しものを秋の野の花に心をつくしつるかも
秋日和染むる花野にまとゐして蝶もとも寢の夢を結ばん
秋の野に咲きたる花を數へつつ君が家邊に來たりぬるかも
秋のぬの千草ながらに仇なるを心にそみてなぞ思ひける
百草の千草ながらにあだなれど心にしみてなぞ思ひける
秋のぬの千草ながらに手折りなん今日の一日は暮れば暮るとも
秋の野に草葉おしなみ來し我れを人なとがめそ香にはしむとも
秋の野を我がわけ來れば朝霧にぬれつつ立てりをみなへしの花
秋山を我れこえ來れば朝霧にぬれつつ立てりをみなへしの花
女郎花紫苑なでしこ咲きにけり今朝の朝けの露にきほひて
秋の野ににほひて咲ける藤袴折りておくらん其の人なしに
白つゆにみだれて咲ける女郎花つみておくらん其の人なしに
白つゆにきほうて咲ける藤袴つみておくらん其の人や誰れ
やさしくも來ませるものよなでしこの秋の山路をたどり/\て
秋の野の尾花にまじる女郎花月の光にうつしても見ん
女郎花多かる野べにしめやせんけだし秋風よぎて吹くかと
我が待ちし秋は來にけり月くさのやすの川原に咲きゆく見れば
あはれさはいつはあれども葛の葉のうら吹き返す秋の初風
秋山に咲きたる花をかぞへつつこれのとぼそに辿り來にけり
又も君柴の庵をいとはずばすすき尾花をわけて訪ひ來よ
この岡の秋萩すすき手折り來て我が衣手に露はしむとも
この岡の秋萩すすき手折りもてみ世の佛にたてまつらばや
秋風の尾花吹きしく夕暮は渚によする波かとぞ思ふ
秋風になびく山路のすすきの穗見つつ來にけり君が家べに
秋風に露はこぼれて花すすきみだるる方に月ぞいざよふ
秋の日に光りかがやく花薄ここのお庭にたたして見れば
秋の日に光りかがやく薄の穗これの高屋にのぼりて見れば
あしびきの山のたをりに打ちなびく尾花たをりて君が家べに
ゆきかへり見れどもあかず我が庵の薄が上における白露
ねもごろに我れを招くかはたすすき花のさかりにあふらく思へば
み山べの山のたをりにうちなびく尾花ながめてたどりつつ來し
秋の野の薄かるかや藤袴君には見せつ散らば散るとも
わが庵の垣根に植ゑし八千草の花もこの頃咲き初めにけり
我が宿のまがきがもとの菊の花この頃もはや咲きやしぬらん
わたつみの波がよすると見るまでに枝もたををに咲ける白菊
八重葎誰れかわけつる天の川とわたる船もわれ待たなくに
み草刈り庵結ばんひさがたの天の川原のはしの東に

與板といふところに行きて人のもとを訪ひまかりしか ば此の程はいづこにかおはすと云ひたりけるに(橘物語)

我が宿をいづくと問はば答ふべし天の川原のはしの東と
ねもごろに尋ねて見ませひさがたの天の川原はいづこなるかと
天の川川べのせきやきれぬらし今年の年は降りくらしつつ
をやみなく雨はふり來ぬひさがたの天の川原のせきやくゆらに
天の川やすのわたりは近けれど逢ふよしはなし秋にしあらねば
ひさがたのたなばたつめは今もかも天の川原に出でたたすらし
今もかもたなばたつめはひさがたの天の川原に出でて立つらし
戀ふる日はあまたありけり逢ふと言へばそこぞともなく明けにけ る かな
待つと言へばあやしきものぞ今日の日の千とせのごともおもほゆ るかな
いましばし川のむかひのみな岸へ妹出て待たん早く漕ぎ出な
ひさがたの天の川原の渡しもりはや船出せよ夜の更くるかに
ひさがたの天の川原のわたしもり川波高し心せよかし
わたし守はや船でせよぬばだまの夜ぎりはたちぬ川の瀬ごとに
秋風に赤裳の裾をひるがへし妹が待つらんやすのわたりに
白たへの袖ふりはへてたなばたの天の川原に今ぞ立つらし
秋風を待てば苦しも川の瀬にうちはし渡せその川の瀬に
臥して思ひ起きてながむるたなばたの如何なる事の契をかする
ひさがたの天の川原のたなばたも年に一度は逢ふてふものを
いかならんえにしなればか棚機の一夜限りて契りそめけん
人の世はうしと思へどたなばたのためにはいかに契りおきけん
この夕べをちこち蟲の音すなり秋は近くもなりにけらしも
今よりは千草は植ゑじきり%\すなが鳴く聲のいと物うきに
思ひつつ來てぞ聞きつる今宵しも聲をつくして鳴けきり%\す
秋風の日に日に寒くなるなべにともしくなりぬきり%\すの聲
我が園の垣根の小萩散りはてていとあはれさを鳴くきり%\す
しきたへの枕去らずてきり%\す夜もすがら鳴く枕さらずて
いざさらば涙くらべんきり%\すかごとをねには立てて鳴かねど
いとどしく鳴くものにかもきり%\ すひとりねる夜のいねられなくに
音にのみ鳴かぬ夜はなし鈴蟲のありし昔の秋を思ひて
秋の野に誰れ聞けとてかよもすがら聲振り立てて鈴蟲の鳴く
秋風の夜毎に寒くなるなべに枯野に殘る鈴蟲のこゑ
我が待ちし秋は來ぬらし今宵しもいとひき蟲の鳴き初めにけり
我が待ちし秋は來にけり高砂の尾の上にひびく日ぐらしの聲
わが待ちし秋は來ぬらしこの夕べ草むら毎に蟲の聲する
ともしびのきえていづこへ行くやらん草むらごとに蟲のこゑする
我が庵は君が裏畑夕さればまがきにすだく蟲のこゑ%\
この夕べ秋は來ぬらし我が宿の草のまがきに蟲の鳴くなる
ぬばだまの夜は更けぬらし蟲の音も我が衣手もうたて露けき
あはれさは何時はあれども秋の夜の蟲の鳴く音に八千草の花
いつはとは時はあれども淋しさは蟲の鳴く音に野べの草花
あまつたふ日は夕べなり蟲は鳴くいざ宿からん君が庵に
夕されば蟲の音ききに來ませ君秋野の野らと名のる我が宿
心あらば蟲のね聞きに來ませ君秋野のかどを名のる我が宿
肌寒み秋もくれぬと思ふかなこの頃たえて蟲の音もなし
今よりはつぎて夜寒になりぬらしつづれさせてふ蟲の聲する
肌寒み秋も暮れぬと思ふかな蟲の音もかる時雨する夜は
水やくまん薪やこらん菜やつまん朝の時雨の降らぬその間に
柴やこらん清水や汲まん菜やつまん時雨の雨の降らぬまぎれに
月よみの光を待ちてかへりませ山路は栗のいがの多きに
月よみの光をまちてかへりませ君が家路は遠からなくに
秋萩の枝もたををにおく露を消たずにあれや見ん人のため
秋の野の萩の初花咲きにけり尾の上の鹿の聲まちがてに
夕風になびくや園の萩が花なほも今宵の月にかざさん
萩が花今盛なりひさがたの雨は降るとも散らまくはゆめ
散りぬらば惜しくもあるか萩の花今宵の月にかざして行かん
秋風に散りみだれたる萩の花はらはば惜しきものにぞありける
たまぼこの道まどふまで秋萩は散りにけるかも行く人なしに
いその上ふる川のべの萩の花今宵の雨にうつろひぬべし
秋萩の花咲く頃は來て見ませ命またくば共にかざさん
秋萩の花のさかりも過ぎにけり契りしこともまだとけなくに
白露に咲きみだれたる萩が花錦を織れる心地こそすれ
萩の花咲くらん秋を遠みとて來ませる君が心うれしき
はぎかしは咲けば遠みとふる里の草のいほりを出で來し君か
飯こふと我れこの宿に過ぎしかば萩の盛りに逢ひにけらしも

與板といふ里にいたりて某のもと訪ひし日萩の花はさ かりなり(橘物語)

飯乞ふと我れ來にければこの宿の萩のさかりに逢ひにけるかも

九日の朝の御齋に參上仕度候(八月朔日定珍宛手紙)

飯乞ふと我が來て見れば萩の花みぎりしみみに咲きにけらしも

夢ならばさめても見まし萩の花今日の一日は散らずやあらなん
我が園に咲きみだれたる萩の花朝な夕なにうつろひにけり
我が宿の秋萩の花咲きにけり尾の上の鹿は今か鳴くらん
おく露に心はなきを紅葉ばのうすきも濃きもおのがまに/\
緑なる一つ若葉と春は見し秋はいろ/\にもみぢけるかも
紅葉ばは散りはするとも谷川に影だに殘せ秋のかたみに
あしびきの山のたをりの紅葉ばを手折りてぞこし雨の晴れ間に
あしびきの山のたをりの紅葉ばを手折らずに來て今はくやしき
秋山を我が越え來ればたまぼこの道も照るまで紅葉しにけり
おく山の紅葉ふみわけこと更に來ませる君をいかにとかせん
我が宿をたづねて來ませあしびきの山の紅葉を手折りがてらに
我が園のかたへの紅葉誰れ待つと色さへ染まず霜はおけども
露霜にやしほ染めたる紅葉ばを折りてけるかも君まちがてに
音にきく樋曾の山べの紅葉見に今年はゆかん老のなごりに
紅葉ばの降りに降りしく宿なれば訪ひ來ん人も道まどふらし
もみぢばのちらまくをしみあしびきの木の下ごとに立ちつつもと な
もみぢ葉のさきを爭ふ世の中に何をうしとて袖ぬらすらん
うちつけに散りなば惜しき紅葉ばを見つゝしのばん秋のかたみに
あしびきの山の紅葉をかざしつつ遊ぶ今宵は百夜つぎたせ
ひさがたの時雨の雨の間なく降れば峰の紅葉は散りすぎにけり
あしびきの山の紅葉ば散りすぎてうら淋しくもなりにけるかな
十日あまり早くありせばあしびきの山のもみぢを見せましものを
もみぢばの散りにし人のおもかげを忘れで君がとふぞうれしき
今よりはつぎて木々の葉色づかんたづさへて來よ一人二人を
秋山のもみぢ見がてら我が宿をとひにし人はおとづれもなし
もみぢ葉の散る山里はきゝわかぬ時雨する日もしぐれせぬ日も
木の葉散る森の下屋は聞きわかぬ時雨する日もしぐれせぬ日も
秋山の紅葉はすぎぬ今よりは何によそへて君をしのばん
秋山の紅葉は散りぬ家づとに子等がこひせばなにをしてまし
山奥に見捨ててかへるうす紅葉我れを思はんあさき心を
やり水のこの頃音の聲せぬは山の紅葉の散りつもるらし
我が宿のまがきに植ゑし蔦かづら今日この頃は紅葉しぬらし

おなじ夜そこなる寺にやどりて「夜あらしにふりくる ものは雨ならで軒ばにつもる落葉なりけり」かへらんとしけるに山の主のよみ出でけ るうた(正貞の記)

此山のもみぢも今日は限りかな君しかへらば色はあらまし

をちこちの山のもみぢ葉散りすぎて空さみしくぞなりにけらしも
たまぼこの道行きぶりの初もみぢ手折りかざして家づとにせん
山里はうらさびしくぞなりにける木々の梢の散り行く見れば

國上にてよめる。(ふるさと)

來て見れば我がふる里は荒れにけり庭もまがきも落葉のみして
夕暮に國上の山を越え來れば衣手寒し木の葉散りつつ
すみ染の衣手寒し秋風に木の葉散り來る夕暮の空
あしびきの國上の山の山畑にまきし大根をあさずをせ君
月よみに門田の田居に出て見れば遠山もとに霧たちのぼる
夕霧にをちの里べは埋れぬ杉たつやどに歸るさの道
この夕べねざめて聞けばさを鹿の聲の限をふりたてて鳴く
この頃のねざめに聞けばたかさごの尾の上にひびくさを鹿の聲
百草のみだれて咲ける秋のぬにしがらみふせてさを鹿の鳴く
さ夜ふけて高ねの鹿の聲きけば寢ざめさびしく物や思はる
うき我れをいかにせよとか若草の妻呼び立ててさを鹿鳴くも
秋もやや殘り少になりぬれば尾の上とよもすさを鹿のこゑ
秋もやや殘り少になりぬればよな/\こひしさを鹿の聲
さ夜更けて聞けば高根にさを鹿の聲の限をふりたてて鳴く
夕ぐれに國上の山をこえ來れば高根に鹿の聲を聞きけり
たそがれに國上の山を越えくれば高ねに鹿の聲ぞ聞ゆる
秋さらばたづねて來ませ我が庵を尾の上の鹿の聲ききがてに
秋萩のちりのまがひにさを鹿の聲の限りをふり立てて鳴く
秋萩の散りもすぎなばさを鹿の臥戸あれぬと思ふらんかも
草花の盛すぎなばさをしかはふしどあれぬと思ふらんかも
宵やみに道やまどへるさを鹿のこの岡をしも過ぎがてに鳴く
長き夜にねざめて聞けばひさがたの時雨にさそふさを鹿のこゑ
夕月夜ひとりとぼそに聞きぬれば時雨にさそふさを鹿の聲
よもすがら寢ざめて聞けば雁がねの天つ雲井を鳴きわたるかな
今宵しも寢ざめに聞けば天つかり雲居はるかにうちつれて行く