University of Virginia Library

晴るるかと思へばくもる秋の空うき世の人の心知れとや
たまぼこの道のひまごとしをりせんまた來ん秋はたづね來んため
花の野にしをりやせましひさがたのまた來ん秋はたづね來んため
行く秋のあはれを誰れに語らましあかざ籠にみて歸へる夕ぐれ
秋もやや衣手寒くなりにけり草の庵をいざとざしてん
秋の夜もややはだ寒くなりにけり一人や君があかしかぬらん
秋もやや衣手寒くなりにけりつづれさせてふ蟲の告ぐれば
秋もややうらさびしくぞなりにけりいざ歸りなん草の菴に
秋もやや夜寒になりぬ我が門につづれさせてふ蟲の聲する
里子らの吹く笛竹もあはれきくもとより秋のしらべなりせば
なほざりに日を暮しつつあらたまの今年の秋も暮しつるかも
蟲は鳴く千草は咲きぬぬばだまの秋の夕べのすぐころもをし
あしびきの山田のくろに鳴く鴨の聲聞く時ぞ秋は暮れける
淋しさに草のいほりを出でて見れば稻葉おしなみ秋風ぞ吹く
秋もややうらさびしくぞなりにけり小笹に雨のそそぐを聞けば
秋さめの日に/\降るにあしびきの山田の老翁は晩稻刈るらん
秋の雨の晴れ間に出でて子供らと山路たどれば裳のすそ濡れぬ
秋の雨のひそ/\ふればから衣ぬれこそまされひるとはなしに
秋の夜もやや肌寒くなりにけりひとりや淋しあかしかねつも
秋の夜は長しと言へどさす竹の君と語ればおもほえなくに
夏草の田ぶせのいほと秋の野のあさぢがやどはいづれすみよき
秋の夜の月の光のさやけさに辿りつつ來し君がとぼそに
降る雨に月の桂も染まるやと仰げば高し長月のそら
風は清し月はさやけしいざともに踊りあかさん老のなごりに

右のうた「ふみ月十五日の夜よみたまひしとぞ」 (蓮の露)

誰れしにも浮世の外と思ふらん隈なき月のかげを眺めて
名にしおふ今宵の月を我が庵に都の君のながむらんとは
いつまでも忘れまいぞや長月の菊のさかりにたづねあひしを
旅衣淋しさ深き山里に雲井同じき月を見るかな
越の空も同じ光の月影をあはれと見るや武藏野の原
ふる里をはる%\出でて武藏野の隈なき月をひとり見るかな
ふる里のこと思ひ出でてや君はしも有明の浦に月や見るらん
つれ%\に月をも知らで更科や姨捨山もよそにながめて
ひさがたの雲のあなたに住む人は常にさやけき月を見るらん
柴の庵をうち出で見ればみ林の梢もり來る月の清さよ
住めば又心おかれぬ宿もがな假の篠屋の秋の夜の月
ひさがたの月の光の清ければ照しぬきけり唐も大和も
しろたへの衣手寒し秋の夜の月なか空にすみ渡るかも
うば玉の夜の闇路に迷ひけりあかたの山に入る月を見て
秋の野の花の錦の露けしやうらやましくも宿る月影
あしびきの國上の山の松かげにあらはれ出づる月のさやけさ
もろともにおどり明かしぬ秋の夜を身にいたづきのゐるも知らず て
いざ歌へ我れ立ち舞はんぬばだまの今宵の月にいねらるべしや
小烏のねぐらにとまる聲ならで月見る友もあらぬ山住み
わたつみの青海原はひさがたの月のみ渡るところなりけり
にほの海照る月かげの隈なくば八つの名所一目にも見ん
こぞの秋あひ見しままにこの夕べ見ればめづらし月ひとをとこ
えにしあれば二歳つづきこの殿に名たゝる月を眺むらんとは
幾人かえも寢ざるらんあしびきの山の端出づる月を見んとて
秋の野の草ばの露を玉と見てとらんとすればかつ消えにけり
露と見しうき世を旅のままならば我が家も草の枕ならまし
ふる里をよろ/\ここに武藏野の草葉の露とけぬる君はも
萩がへにおく白露の玉ならば衣のうらにかけて行かまし
白露に咲きたる花を手折るとて秋の山路にこの日くらしつ
露はおきぬ山路は寒し立ち酒を食して歸らんけだしいかがあらん
月夜にはいもねざりけりおほとのの林のもとにゆきかへりつつ
秋の野の尾花における白つゆを玉かとのみぞあやまたれける
風になびく尾花が上におく露の玉と見しまにかつ消えにけり
秋の野の草むら毎におく露はよもすがらなく蟲の涙か
なほざりに我が來しものを秋の野の花に心をつくしつるかも
秋日和染むる花野にまとゐして蝶もとも寢の夢を結ばん
秋の野に咲きたる花を數へつつ君が家邊に來たりぬるかも
秋のぬの千草ながらに仇なるを心にそみてなぞ思ひける
百草の千草ながらにあだなれど心にしみてなぞ思ひける
秋のぬの千草ながらに手折りなん今日の一日は暮れば暮るとも
秋の野に草葉おしなみ來し我れを人なとがめそ香にはしむとも
秋の野を我がわけ來れば朝霧にぬれつつ立てりをみなへしの花
秋山を我れこえ來れば朝霧にぬれつつ立てりをみなへしの花
女郎花紫苑なでしこ咲きにけり今朝の朝けの露にきほひて
秋の野ににほひて咲ける藤袴折りておくらん其の人なしに
白つゆにみだれて咲ける女郎花つみておくらん其の人なしに
白つゆにきほうて咲ける藤袴つみておくらん其の人や誰れ
やさしくも來ませるものよなでしこの秋の山路をたどり/\て
秋の野の尾花にまじる女郎花月の光にうつしても見ん
女郎花多かる野べにしめやせんけだし秋風よぎて吹くかと
我が待ちし秋は來にけり月くさのやすの川原に咲きゆく見れば
あはれさはいつはあれども葛の葉のうら吹き返す秋の初風
秋山に咲きたる花をかぞへつつこれのとぼそに辿り來にけり
又も君柴の庵をいとはずばすすき尾花をわけて訪ひ來よ
この岡の秋萩すすき手折り來て我が衣手に露はしむとも
この岡の秋萩すすき手折りもてみ世の佛にたてまつらばや
秋風の尾花吹きしく夕暮は渚によする波かとぞ思ふ
秋風になびく山路のすすきの穗見つつ來にけり君が家べに
秋風に露はこぼれて花すすきみだるる方に月ぞいざよふ
秋の日に光りかがやく花薄ここのお庭にたたして見れば
秋の日に光りかがやく薄の穗これの高屋にのぼりて見れば
あしびきの山のたをりに打ちなびく尾花たをりて君が家べに
ゆきかへり見れどもあかず我が庵の薄が上における白露
ねもごろに我れを招くかはたすすき花のさかりにあふらく思へば
み山べの山のたをりにうちなびく尾花ながめてたどりつつ來し
秋の野の薄かるかや藤袴君には見せつ散らば散るとも
わが庵の垣根に植ゑし八千草の花もこの頃咲き初めにけり
我が宿のまがきがもとの菊の花この頃もはや咲きやしぬらん
わたつみの波がよすると見るまでに枝もたををに咲ける白菊
八重葎誰れかわけつる天の川とわたる船もわれ待たなくに
み草刈り庵結ばんひさがたの天の川原のはしの東に