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二十五
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二十五

 光照院の墓地の東南隅に、殆ど正方形を成した 扁石 ひらいし の墓があつて、それに十四人の戒名が一列に り付けてある。其中三人だけは後に追加したものである。追加三人の最も右に居るのが眞志屋十一代の壽阿彌、次が十二代の「戒譽西村清常居士、文政十三年 庚寅 かういん 十二月十二日」、次が「證譽西村清郷居士、天保九年 戊戌 ぼじゆつ 七月五日」である。壽阿彌は西村氏の菩提所昌林院に葬られたが、親戚が其名を生家の江間氏の菩提所に とゞ めむがために、此墓に り添へさせたものであらう。清常、清郷は過去帳原本の載せざる所で、 ひとり 別本にのみ見えてゐる。殘餘十一人の古い戒名は皆別本にのみ出てゐる名である。清郷の何人たるかは考へられぬが、清常の近親らしく推せられる。

 古い戒名の江間氏親戚十一人の關係は、過去帳別本に徴するに頗る複雜で、容易には あきら め難い。 たゞ 二三の注意に値する件々を左に記して遺忘に備へて置く。

 十一人中に「法譽

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[33]
知性大※ ちしやうだいし 、寛政十年 戊午 ぼご 八月二日」と云ふ人がある。十代の實祖母としてあるから、了蓮の祖母であらう。此知性の父は「玄譽幽本居士、寶暦九年 己卯 きばう 三月十六日」、母は「
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[33]
深譽幽妙大※ めうさんだいし 、寶暦五年 乙亥 おつがい 十一月五日」としてある。更にこれより さかのぼ つて、「月窓
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[33]
妙珊大※、寛保元年|辛酉 しんいう 十月二十四日」がある。これは知性の祖としてあるから、祖母ではなからうか。以上を知性系の人物とする。然るに幽本、幽妙の子、了蓮の父母は考へることが出來ない。

 十一人中に又「貞譽誠範居士、文政五年 壬午 じんご 五月二十日」と云ふ人がある。即ち過去帳別本に讀むべからざる記註を見る戒名である。わたくしは其「何代五郎兵衞實父」を「九代」と讀まむと欲した。殘餘の 闕文 けつぶん は月字の上の三字で、わたくしは今これを讀んで「同年五月」となさむと欲する。何故と云ふに、別本には誠範の右に「蓮譽定生大

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※ [33]
、文政五年 壬午 じんご 八月」があつたから、 かく の如くに讀むときは、此彫文と するからである。果して誠範を九代一鐵の父長島五郎兵衞だとすると、此名の左隣にある別本の所謂九代の祖父「覺譽泰了居士、明和六年 己丑 きちう 七月四日」は、誠範の父であらう。又此列の最右翼に居る「 範叟道規庵主 はんそうだうきあんしゆ 、元文三年 戊午 ぼご 八月八日」は、別本に泰了縁家の祖と註してあるから、此系の最も古い人に當り、又此列の最左翼に居る壽阿彌の父「 頓譽 とんよ 淨岸居士、寛政四年 壬子 じんし 八月九日」は、泰了と利右衞門の稱を同じうしてゐるから、泰了の子かと推せられる。以上を誠範系の人物とする。江間氏と長島氏との連繋は、此誠範系の上に存するのである。

 此大墓石と共に南面して、其西隣に小墓石がある。臺石に長島氏と り、上に四人の 法諡 ほふし が並記してある。二人は女子、二人は小兒である。「

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[33]
馨譽慧光大※ けいよゑくわうだいし 、文政六年 癸未 きび 十月二十七日」は別本に十二代五郎兵衞
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※[33]
、實は 叔母 しゆくぼ と註してある。「誠月妙貞大
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※[33]
、安政三年 丙辰 へいしん 七月十二日」は別本に五郎作母、六十四歳と註してある。小兒は勇雪、了智の二童子で、了智は別本に十二代五郎兵衞實弟と註してある。要するに此四人は皆十二代清常の近親らしいから、所謂五郎作母も清常の初稱五郎作の母と解すべきであるかも知れない。別本には なほ 、次に記すべき墓に彫つてある蓮譽定生大
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※[33]
もと に、十二代五郎兵衞養母と註してある。清常には母かと覺しき妙貞があり、叔母慧光があつて、それが西村氏に養はれてから定生を養母とし、叔母慧光を姉とするに至つた。以上を清常系の人物として、これに別本に見えてゐる慧光の實母を加へなくてはならない。即ち深川靈岸寺開山堂に葬られたと云ふ「 華開生悟信女 けかいしやうごしんによ 、享和二年 壬戌 じんじゆつ 十二月六日」が其人である。しかし清常の父の誰なるかは遂に考へることが出來ない。