University of Virginia Library

【六十五】

南院の五郎みかはのかみにて有ける承香殿にありけるいよのこをけさうしけりこんといひけれは御息所の御もとに内へなんまいるといひをこせたりけれは

玉簾うちとかくるはいとゝしくかけをみせしとおもふ也けり

といへりけり又

なけきのみしけきみ山の時鳥木かくれゐてもねをのみそなく

なといひけりかくてきたりけるをいまはかへりねとやらひけれは

しねとてやとりもあへすはやらはるゝいといきかたき心ちこそすれ

返しおかしかりけれとえきかす又雪のふる夜きたりけるをものはいひてよふけぬかへり給ねといひけれはかへりけるほとに戸をさしてあけさりけれは

我はさは雪降空に消ねとや立かへれともあけぬ板戸は

となんいひてゐたりけるかく歌もよみあはれにいひゐたれはいかにせましと思ひてのそきて見れはかほこそなをいとにくけなりしかとなんかたりしとか