群書類従卷弟三百八下
検校保己一集
物語部二
大和物語 下
群書類従卷第三百八 (Yamato monogatari) | ||
【百五十五】
むかし大納言のむすめいとうつくしうてもち給たりけるを御門に奉らんとてかしつき給けるを殿にちかうつかうまつりけるうとねりにて有ける人いかてか見けむこのむすめを見てけりかほかたちのいとうつくしけなるをみてよろつのことおほえす心にかゝりてよるひるいとわひしくやまひになりておほえけれはせちにきこえさすへき事なむあるといひわたりけれはあやしなにことそといひて出たりけるをさる心まうけしてゆくりもなくかきいたきて馬にのせてみちのくにへよるともいはすひるともいはすにけていにけりあさかのこほりあさかの山といふ所にいほりをつくりてこの女をすへて里に出つゝ物なともとめてきつゝくはせて年月をへて有へけり此男いぬれはたゝひとりものもくはて山中にゐたれはかきりなくわひしかりけりかゝるほとにはらみにけりこの男ものもとめに出にけるまゝに三四日こさりけれは待わひて立出て山の井にいきてかけをみれはわか有しかたちにもあらすあやしきやうになりにけりかゝみもなけれはかほのなりたらんやうもしらて有けるににはかにみれはいとおそろしけなりけるをいとはつかしとおもひけりさてよみたりける
あさか山かけさへみゆる山のゐの浅くは人を思ふものかは
とよみて木にかきつけていほにきてしにけりおとこ物なともとめてもてきてしにてふせりけれはいとあさましと思ひけり山の井なりける歌をみてかへりきてこれをおもひしにゝかたはらにふせりてしにけり世のふることになむ有ける
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大和物語 下
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