University of Virginia Library

【百七十一】

いまの左のおとゝ少将にものし給ふける時故式部卿宮につねにまいり給けりかの宮にやまとゝいふ人さふらひけるをものなとのたまひけれはいとわりなくいろこのむ人にて女いとおかしうめてたしと思ひけりされとつねにあふ事かたかりけりやまと

人しれぬ心のうちにもゆる火は煙もたゝてくゆりこそすれ

といひやりけれはかへし

ふしのねの絶ぬおもひも有ものをくゆるはつらき心成けり

とありけりかくて久しう参り給はさりけるころ女いといたうまちわひにけりいかなる心ちしけれはかさるわさはしけむ人にもしらせてくるまにのりて内に参りにけり左衛門のちんにくるまをたててわたる人をよひよせていかて少将の君にものきこえんといひけれはあやしきことかなたれと聞ゆる人のかゝる事はし給ふそなといひすさひていりぬ又わたれはおなしこといへはいさ殿上なとにやおはしますらむいかてかきこえんなといひていりぬる人もありうへのきぬきたるものゝいりけるをしゐてよひけれはあやしとおもひてきたりける少将のきみやおはしますとゝひけりおはしますといひけれはいとせちにきこえさすへきこと有て殿より人なんまいりたるときこえ給へと有けれはいとやすきことなりそも/\かくきこえつきたらん人をは忘れ給ふましやいとあはれに夜ふけて人すくなにてものし給かなといひて入ていと久しかりけれはむこに待たてりけるからうしてこれもいひつかてやいてぬらんいかさまにせんとおもふほとになんいてきたりけるさていふやう御まへに御あそひなとしたまへるをからうしてなんきこえつれはたかものしたまふならんいとあやしきことたしかにとひ奉りてことなむの給ひつるといへはしんしちにはしもつかたよりなりみつから聞えんとをきこえたまへといひけれはさなん申すときこえけれはさにやあらんとおもふにいとあやしうもおかしうもおほえ給けりしはしといはせてたち出てひろはたの中納言の侍従にものし給ひける時かゝる事なんあるをいかゝすへきとたはかり給けりさてさゑもんのちんにとのゐ所なりけるひやうふたゝみなともていきてそこになんおろいたまひけるいかてかくはのたまひけれはなにかはいとあさましうものゝおほゆれは