University of Virginia Library

【百四十九】

昔やまとのくにかつらきのこほりにすむ男女有けりこの女かほかたちいときよらなりとし比おもひかはしてすむにこの女いとわろくなりにけれはおもひわつらひてかきりなく思ひなからめをまうけてけり此今のめはとみたる女になむありけることには思はねといけはいみしういたはり身のさうそくもいときよらにせさせけりかくにきはゝしきところにならひてきたれはこの女いとわろけにてゐてかくほかにありけとさらにねたけにも見えすなとあれはいとあはれと思けり心ちにもかきりなくねたく心うくおもふを忍ふるになん有けるとゝまりなんとおもふよもなをいねといひけれはわかかくありきするをねたまてことわさするにやあらんさるわさせすはうらむる事も有なんなと心のうちにおもひけりさていてゝいくとみえてせんさいの中にかくれて男やくると見れははしにいてゐて月のいといみしうおもしろきにかしらかいけつりなとしてをり夜ふくるまてねすいといたううちなけきてなかめけれは人まつなめりと見るにつかふ人のまへなりけるにいひける

風ふけは沖つしら浪たつた山よはにや君かひとりこゆらん

とよみけれはわかうへを思ふなりけりとおもふにいとかなしう成ぬこのいまのめの家はたつた山こえていく道になんありけるかくてなをみをりけれはこの女うちなきてふしてかなまりに水をいれてむねになんすへたりけるあやしいかにするにかあらんとてなをみるされはこの水あつゆになりてたきりぬれはゆふてつ又みつをいるみるにいとかなしくてはしりいてゝいかなる心ちしたまへはかくはし給ふそといひてかきいたきてなんねにけるかくてほかへもさらにいかてつとゐにけりかくて月日おほくへて思ひやるやうつれなきかほなれと女のおもふこといといみしきことなりけるをかくいかぬをいかに思ふらむとおもひいてゝありし女のかりいきたりけり久しくいかさりけれはつゝましくてたてりけりさてかひまめはわれにはよくてみえしかといとあやしきさまなるきぬをきておほくしをつらくしにさしかけてをり手つからいひもりをりけりいといみしと思ひてきにけるまゝにいかす成にけり此男はおほきみなりけり