群書類従卷弟三百八下
検校保己一集
物語部二
大和物語 下
群書類従卷第三百八 (Yamato monogatari) | ||
【百四十九】
昔やまとのくにかつらきのこほりにすむ男女有けりこの女かほかたちいときよらなりとし比おもひかはしてすむにこの女いとわろくなりにけれはおもひわつらひてかきりなく思ひなからめをまうけてけり此今のめはとみたる女になむありけることには思はねといけはいみしういたはり身のさうそくもいときよらにせさせけりかくにきはゝしきところにならひてきたれはこの女いとわろけにてゐてかくほかにありけとさらにねたけにも見えすなとあれはいとあはれと思けり心ちにもかきりなくねたく心うくおもふを忍ふるになん有けるとゝまりなんとおもふよもなをいねといひけれはわかかくありきするをねたまてことわさするにやあらんさるわさせすはうらむる事も有なんなと心のうちにおもひけりさていてゝいくとみえてせんさいの中にかくれて男やくると見れははしにいてゐて月のいといみしうおもしろきにかしらかいけつりなとしてをり夜ふくるまてねすいといたううちなけきてなかめけれは人まつなめりと見るにつかふ人のまへなりけるにいひける
とよみけれはわかうへを思ふなりけりとおもふにいとかなしう成ぬこのいまのめの家はたつた山こえていく道になんありけるかくてなをみをりけれはこの女うちなきてふしてかなまりに水をいれてむねになんすへたりけるあやしいかにするにかあらんとてなをみるされはこの水あつゆになりてたきりぬれはゆふてつ又みつをいるみるにいとかなしくてはしりいてゝいかなる心ちしたまへはかくはし給ふそといひてかきいたきてなんねにけるかくてほかへもさらにいかてつとゐにけりかくて月日おほくへて思ひやるやうつれなきかほなれと女のおもふこといといみしきことなりけるをかくいかぬをいかに思ふらむとおもひいてゝありし女のかりいきたりけり久しくいかさりけれはつゝましくてたてりけりさてかひまめはわれにはよくてみえしかといとあやしきさまなるきぬをきておほくしをつらくしにさしかけてをり手つからいひもりをりけりいといみしと思ひてきにけるまゝにいかす成にけり此男はおほきみなりけり
群書類従卷弟三百八下
検校保己一集
物語部二
大和物語 下
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