University of Virginia Library

【百四十二】

故御息所の御あねおほいこにあたり給けるなんいとらう/\しくうたよみ給こともをとうとたち御やす所よりもまさりてなむいますかりけるわかきときにめをやはうせ給にけりまゝはゝの手にいますかりけれは心にものゝかなはぬときもありけりさてよみ給ひける

有はてぬ命まつまのほとはかりうきことしけくおもはすもかな

となんよみ給けるさくらの花を折てまた

かゝるかの秋もかはらすにほひせは春恋してふなかめせましや

とよみ給へりけるいとよしつきておかしくいますかりけれはよはふ人もいとおほかりけれと返事もせさりけり女といふものつゐにかくてはて給ふへきにもあらすとき/\はかへりことしたまへとおやもまゝ母もいひけれはせめられてかくなんいひやりける

思へともかひなかるへみ忍ふれはつれなきともや人の見るらむ

とはかりいひやりて物もいはさりけりかくいひける心はへはおやなと男あはせんといひけれと一生におとこせてやみなんといふことをよとゝもにいひけるさいひけるもしるくおとこもせて廿九にてなむうせ給ひにける