University of Virginia Library

【百六】

故兵部卿宮この女のかゝることまたしかりける時よはひ給ひけりみこ

荻のはのそよくことにそ恨つる風にうつりてつらき心を

これもおなし宮

浅くこそ人はみるらめせき川の絶る心はあらしとそおもふ

かへし

せき川の岩まをくゝる水浅み絶ぬへくのみみゆる心を

かくてこの女いてゝもの聞えなとすれとあはてのみありけれはみこおはしましたりけるに月のいとあかゝりけれはよみ給ひける

よな/\にいつとみしかとはかなくて入にし月といひてやみなん

とのたまひけりかくてあふきをおとし給へりけるをとりて見れはしらぬ女の手にてかくかけり

忘らるゝ身は我からのあやまちになしてたにこそ君をうらみめ

とかけりけるをみてそのかたはらにかきつけて奉ける

ゆゝしくもおもほゆる哉人ことにうとまれにけるよにこそ有けれ

となん又この女

忘らるゝときはの山のねをそなく秋のゝ虫の声に亂て

返し

なくなれとおほつかなくそおもほゆる声きくことの今はなけれは

又おなし宮

雲ゐにてよをふる比はさみたれのあめの下にそいけるかひなき

かへし

ふれはこそ声も雲ゐに聞えけめいとゝはるけき心ちのみして