出発まで (Oku no Hosomichi) | ||
石の巻
十二日、平和泉と心ざし、あねはの松緒だえの橋など聞傳て、人跡稀に雉兎蒭ぜ うの往かふ道、そこともわかず、終に路ふみたがえて石の巻といふ湊に出。こがね花 咲とよみて奉たる金花山海上に見わたし、数百の廻船入江につどひ、人家地をあらそ ひて、竃の煙立つゞけたり。思ひがけず斯る所にも来れる哉と、宿からんとすれど、 更に宿かす人なし。漸まどしき小家に一夜をあかして、明れば又しらぬ道まよひ行。 袖のわたり尾ぶちの牧まのゝ萱はらなどよそめにみて、遥なる堤を行。心細き長沼に そふて、戸伊摩と云所に一宿して、平泉に到る。其間廿余里ほどゝおぼゆ。
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