其夜飯塚にとまる。温泉あれば湯に入て宿をかるに、土坐に筵を敷てあやしき貧 家也。灯もなければゐろりの火かげに寝所をまうけて臥す。夜に入て雷鳴、雨しきり に降て、臥る上よりもり、蚤蚊にせゝられて眠らず。持病さへおこりて消入計になん。 短夜の空もやう/\明れば、又旅立ぬ。猶夜の余波心すゝまず、馬かりて桑折の駅に 出る。遥なる行末をかゝえて、斯る病覚束なしといへど、羈旅辺土の行脚、捨身無常 の観念、道路にしなん、是天の命なりと気力聊とり直し路縦横に踏で伊達の大木戸を こす。