University of Virginia Library

長歌

五陰皆空と照見して一切の苦厄を度すといふ心をよめ る

世の中ははかなきものぞ
あしびきの山鳥の尾の
しだり尾のなが/\し世を
百よつぎ五百代をかけて
よろづ代にきはめて見れば
枝にえだちまたに巷
わかろへてたどるみちなみ
立つらくのたづきも知らず
をるらくのすべをも知らず
解き衣の思ひみだれて
浮き雲の行くへも知らず
言はんすべ爲んすべ知らず
沖にすむ鴨のはいろの
水鳥のやさかの息を
つきゐつつ誰れに向ひて
うたへまし大津のへに居る
大船のへづな解き放ち
とも綱とき放ち大海原のへに
おし放つことの如くをち方や
繁木がもとをやい鎌のとがまもて
うち拂ふことの如く五つのかげを
さながらに五つのかげと
知るときは心もいれず
こともなくわたし盡しぬ
世のこと%\も
うつし身のうつし心のやまぬかもうまれぬ先にわたしにし身を
つの國のなにはのことはよしゑやし唯一と足 をすすめもろ人

わくらば

わくらばに人となれるを
打ちなびきやまふのとこに
ふしこやし癒ゆとはなしに
いたづきの日にけにませば
そこ思ひみをおもそふに
思ふそら安からなくに
なげく空苦しきものを
あからひく晝はしみらに
水鳥の息つき暮し
ぬばだまの夜はすがらに
人のぬる安いもいねず
たらちねの母がましなば
かい撫でてたらはさましを
わかくさの妻がありなば
とりもちてはぐくまましを
家とへば家もはふりぬ
はらからもいづちいぬらん
うからやもひとりも見えず
つれもなく荒れたる宿を
うつせみのよすがとなせば
うづら鳴くふる里すらを
くさ枕旅ねとなせば
一日こそ堪へもしつらめ
二日こそ忍びもすらめ
あらたまの長き月日を
いかにして明かし暮さん
うちつけに死なめともへど
たまきはるさすが命の
をしければかにもかくにも
すべをなみ音をのみぞ泣く
ますらをにして
あらたまの長き月日をいかにしてあかしくらさんあさで小ぶすま

同じ

わくらばに人となれるを
なにすとかあしきやまふに
ほださへてひるはしみらに
水鳥の息つきくらし
ぬばだまの夜はすがらに
人のぬる安いもいねず
たらちねの母がましなば
かいなでてたらはさましを
若草の妻がありせば
かい持ちてはぐくまましを
家とへば家もはふりぬ
はらからもいづちいぬらん
つれもなく荒れたる宿を
うつせみのよすがとなせば
一日こそたへもしつらめ
二日こそ忍びもすらめ
あらたまのこの長き日を
いかにくらさんあさで小ぶすま
ももつたふいかにしてまし草枕旅の菴にあひし子等はも

爲求古述懷

わくらばに人となれるを
何すとかこのあしきけに
さやらえて晝はしみらに
門さして夜はすがらに
人のぬるうまいもいねず
たらちねの母がましなば
かいなでてたらはさましを
わかくさの妻がありせば
かいもちてはぐくまましを
家とへば家もはふりぬ
はらからもいづちいぬらん
鶉鳴くふるさとすらを
くさ枕旅ねとなせば
ひと日こそ人もみつがめ
ふた日こそ人もみつがめ
ひさがたの長き月日を
いかにして世をやわたらん
日にちたび死なば死なめと
思へども心にそはぬ
たまきはる命なりせば
かにかくにすべのなければ
こもりゐてねのみしなかゆ
朝夕ごとに
ひさがたの長き月日をいかにして我が世わたらん麻手小衾

悲求古歌

草枕旅のいほりに
うちこやし年の經ぬれば
うづら鳴く古りにし里に
からころも立ちかへり來て
あからひく晝はしみらに
水鳥の息つきくらし
ぬば玉の夜はすがらに
人のぬるうまいもいねず
たらちねの母がましなば
かひなでてたらはさましを
若草の妻がありせば
かいもちてはぐくまましを
家とへば家もはふりぬ
はらからもいづちいぬらん
つれもなくよしもなきやに
うつせみをよせてしあれば
ひと日こそたへもしつらめ
ふた日こそ忍びもすらめ
長き日をいかにわたらん
かくすれば人にいとはれ
かくすればおさにさやらえ
かにかくにせんすべをなみ
こもり居て音のみし泣かゆ
朝夕ごとに
あらたまの長き月日をいかにしてわが世わらん麻で小ぶすま

求古に代りてよめる

わくらばに人となれるを
なにすとかこのあしきけに
ほだされてひるはしみらに
水鳥の息つきくらし
ぬばだまのよるはすがらに
人のぬるやすいもいねず
たらちねの母がましなば
かいなでてたらはさましを
わかぐさのつまがありせば
かいもちてはぐくまましを
家といへば家もはふりぬ
うからやもいづちいぬらん
よしもなくあれたる宿を
うつせみのよすがとなせば
ひと日こそたえもしつらめ
ふた日こそしぬびもすらめ
あらたまの長き月日を
いかにして暮しやすらん
うちつけに死なば死なめと
思へどもさすが命の
をしければかにもかくにも
すべをなみ朝な夕なに
こもりゐてねのみしなかゆ
ますらをにして

老をいたむ歌

行く水はせけばとまるを
高山はこぼてば岡と
なるものを過ぎし月日の
かへるとは文にも見えず
うつせみの人も語らず
古もかくしあるらし
今の世もかくぞありける
後の世もかくこそあらめ
かにかくにすべなきものは
老にぞありける
ねもごろのものにも有るか年月は賤が宿までとめて來にけり

(玉ぼこの一首橘物がたりよりとる)

玉ぼこの道のくま%\しめゆはば行きし月日のけだしかへらむか も

おなじ

行く水もせけばとまるを
おいらくの又かへるとは
うつそみの人も語らず
とつ國の書にも見えず
古もかくやありけん
今の世もかくぞ有りぬる
後の世もかくこそあらめ
かに斯くにすべなきものは
老にぞありける
おつつにも夢にも人のまたなくにとひ來るものは老にぞありける
しげ山にわれ杣たてん老いらくの來んてふ道に關すゑんため
おいもせず死にせぬ國はありときけどたづねていなん道の知らな く
老の來る道のくま%\しめゆへばいきうしと言ひてけだしかへら ん
老いらくを誰がはじめけん教へてよいざなひ行きてうらみましも のを

白髮

かけまくもあやにたふとく
言はまくもかしこきかもな
ひさがたのあまのみことの
みかしらに白かみ生ふる
あしたには臣を召さしめ
白がねの毛ぬきを持ちて
その髮を拔かし給ひて
白銀のはこに秘めおき
あまつたふ日嗣のみこに
傳ふれば日つぎの皇子も
つがの木のいやつぎ/\に
斯くしつつい傳へますと
聞くがともしも
白髮はおほやけものぞかしこしや人の頭もよくといはなくに
白かみはよみの尊の使かもおほになもひそ其の白かみを
おほに思ふ心を今ゆうちすててをろがみませす月に日にけに
世にみつる寶といへど白かみにあに及ばめや千々のひとつも

おなじ

宵々に霜はおけども
よしゑやし明くればとけぬ
年のはに雪は降れども
よしゑやし春日に消えぬ
しかすがに人の頭に
ふり積めばつみこそまされ
あらたまの年はふれども
消えずぞありける
白雪はふればかつ消ぬしかはあれど頭にふれば消えずぞありける

おなじ

朝な/\霜はおけども
よしゑやし年のはに
雪はふれどもよしゑやし
積れば消えぬうつしみの
頭にふれる白雪は
つみこそまされあづさ弓
春は來れども消ゆとはなしに

人にかはりて

手を折りてうち數ふれば
我がせこに別れにしより
今日までに八としの年を
つれもなく荒れたる宿に
たをや女が一人し住めば
慰むることとはなしに
嘆のみ積り/\て
かげのごとわが身はなりぬ
今更に世にはありとも
有りのみの有りがひなしと
思ひこそ一日に千度
死なめとは思ひはすれど
二人の子見るに心の
ほださへてかにもかくにも
言はんすべせんすべ知らず
こもり居てねのみし泣かゆ
朝な夕なに
ますかゞみ手にとり持ちて今日の日もながめくらしつかげと姿と
我がごとやはかなきものは又もあらじと思へばいとどはかなかり けり
何事も皆昔とぞなりにける花に涙をそそぐ今日かも

おなじ歌

わが背子がみまかりしより
あらたまの年の八とせを
つれもなく荒れたる宿に
たをや女が獨し住めば
慰むる心はなしに
なげきのみ積りつもれば
かげのごと我が身はなりぬ
今更に世にはあれども
ありのみのありがひなしと
思ひとて一日に千度
死なめとは思ひはすれど
我が背子がかたみに殘す
二人の子見るに心も
しのびずてかにもかくにも
言はんすべせんすべ知らに
こもりゐてねのみし泣かゆ
朝な夕なに

貧しきをのぶる

あしびきの山田の田居に
いほりして晝はしみらに
飯乞ふと里に出でたち
かぎろひの夕さり來れば
山越しの風を時じみ
門さしてあし火たきつつ
古を思へば夢の
世にこそありけれ

秋のねざめ

この秋はかへり來なんと
朝鳥の音づれぬれば
さ小鹿の朝ふすを野の
秋萩のはぎの初花
咲きしより今か/\と
たち待てば雲居に見ゆる
かりがねもいや遠さかり
行くなべに山のもみぢは
散りすぎぬ紅葉はすぎぬ
今更に君歸らめや
ふる里の荒れたる宿に
ひとり我が有りがてぬれば
玉だすきかけてしぬびて
夕づつのかゆきかく行き
さす竹の君もや逢ふと
わけ行きてかへり見すれば
五百重山千重に雪ふり
たなくもり袖さへひぢて
慰むる心はなしに
からにしきたちかへり來て
草の庵にわびつつぞゐる
逢ふよしをなみ
秋山の紅葉はすぎぬ今よりは何によそへて君をしのばん

○(この歌の後半次の如きもあり)

‥‥‥‥‥山の紅葉は
ちりすぎぬふるさとの
あれたる宿にひとりわが
ありがてぬれば玉だすき
かけてしぬびてさす竹の
君も逢ふやと夕づつの
かゆきかくゆきうち見れば
いほへ山み雪ふりしき
とのぐもり袖さへさえて
我が思ふ千重の一重も
なぐさむる心はなしに
からにしきたちかへり來て
草のいほにわびつつぞをる
逢ふよしをなみ
秋山の紅葉はすぎぬ今よりは何によそへてこの日くらさん
今更に死なば死なめと思へども心にそはぬいのちなりけり

初時雨

神無月しぐれの雨の
をとつ日もきのふも今日も
降るなべに山の紅葉は
玉ぼこの道もなきまで
散りしきぬ夕さり來れば
さすかけてつま木たきつつ
山たつの向ひの丘に
さを鹿の妻よび立てて
鳴く聲を聞けば昔の
思ひ出てうき世は夢と
知りながらうきにたへねば
さむしろにころもかたしき
うちぬれば板じきの間より
あしびきの山下風の
いと寒く吹き來るなべに
あり衣を有りのこと%\
引きかづきこひまろびつつ
ぬば玉の長きこの夜を
いもねかねつも

雪の雁

風まじり雪はふり來ぬ
雪まじり風は吹き來ぬ
この夕べおき居て聞けば
かりがねも天つみ空を
なづみつつ行く
ひさがたの雲井をわたるかりがねも羽しろたへに雪やふるらん

風雪雨、春の徒然

風まぜに雪はふり來ぬ
雪まじり雨はふり來ぬ
あづさ弓春にはあれど
鶯もいまだ來鳴かず
野に出でて若菜もつまず
たれこめて草のいほりに
こもりつつうち數ふれば
む月もやすでに半ばに
なりにけるかな

きさらぎの末つ方雪のふりければ

風まぜに雪は降り來ぬ
雪まぜに風は吹き來ぬ
埋み火に足さしのべて
つれ%\と草のいほりに
とぢこもりうち數ふれば
きさらぎも夢の如くに
盡きにけらしも
月よめばすでにやよひになりにけり野べの若菜もつまずありしに

きさらぎ

冬ごもり春にはあれど
埋み火に足さしのべて
つれ%\と草の庵に
とぢこもりうち數ふれば
きさらぎも夢の如くに
すぎにけらしも

秋のあはれ

夕ぐれに國上の山を
越え來れば高根には
紅葉ちりつつ麓には
鹿ぞ鳴くなる紅葉さへ
時は知るといふを鹿すらも
友をしをしむむべらへや
ましてわれはうつせみの世の
人にしあれば
わが宿を尋ねて來ませあしびきの山のもみぢを手折りがてらに
露霜の秋の紅葉と時鳥いつの世にかはわれ忘れめや
おと宮の森の木下にわれをれば鐸ゆらぐもよ人來るらし

おなじ

たそがれに國上の山を
越え來れば高ねには
鹿ぞ鳴くなる麓には
紅葉ちりしく鹿のごと
音にこそ鳴かね紅葉ばの
いやしく/\にものぞ悲しき

おなじ

あしびきの國上の山を
たそがれに我が越え來れば
高根には鹿ぞ鳴くなる
麓には紅葉散りしく
さを鹿の音には鳴かねど
もみぢばのいやしく/\に
ものぞ戀しき
夕くれに國上の山を越え來れば衣手寒し木の葉ちりつゝ

あしびきの國上の山の
山もとに庵をしつつ
朝にけにいゆきかへらひ
まそかがみ仰ぎて見れば
み林は幾代へぬらん
ちはやふる神さびたてり
落ち瀧津水音さやけし
五月には山時鳥
うち羽ふりしぐるる折は
もみぢばをひきて手折りて
うちかざしあまた月日を
すぐしつるかも
こひしくば尋ねて來ませあしびきの國上の山の森の下庵

國上山のうた

あしびきの國上の山の
山かげの乙子の宮の
神杉の杉の下道
ふみわけてい往きもとほり
山見れば高く貴し
谷見れば深さは深し
その山のいや高々に
其の谷の心深めて
有り通ひいつきまつらん
萬代までに
乙宮の宮の神杉しめゆひていつきまつらんおぢなけれども

あしびきの國上の山の
山もとにいほをしめつつ
朝夕に岩のかげ道
ふみわけていゆきかへらひ
山見れば山もみがほし
里みれば里も賑はし
春されば椿花さき
秋べには野べに妻こふ
さを鹿の聲をともしみ
あらたまの年の十とせは
過ぎにけるかも

あしびきの國上山もと
神無月紅葉は庭に
散りしきぬしぐれの雨は
ひめもすに降りみ降らずみ
ふるなべに向ひの丘に
さを鹿の妻こふ聲の
うたてはるけき
飯乞ふと里にも出でず此の頃は時雨の雨の間なくし降れば

國上

あしびきの國上の山の
山もとにいほりをしつつ
をちこちの里にい往きて
飯を乞ひひと日ふた日と
すごせしにあまたの年の
積り來て身にいたづきの
おきぬれば立ち居もよ
心にそはずうつせみの
知りにし人ももみぢばの
すぎてゆければ今更に
世にはありともありぎぬの
有るかひなしともひしより
飯もこはずてとぢこもり
國上の山の山もとに
みまかりにけり朝露のごとや
夕露のごとや

冬ごもり

あしびきの國上の山の
冬ごもり日に/\雪の
降るなべに往き來の道の
跡も絶えふる里人の
音もなしうき世をここに
門さして飛騨のたくみが
打つ繩の只一筋の
岩清水そを命にて
あらたまの今年の今日も
暮しつるかも
わが宿は國上山もと冬ごもり往き來の人のあと方もなし
今よりはふる里人の音もなし峰にも尾にも雪の積れば
山かげのまきの板屋に音はせねど雪の降る日は空にしるけり
柴の戸の冬の夕べの淋しさはうき世の人のいかで知るべき
小夜ふけて岩間の瀧津音せぬは高ねのみ雪降り積るらし
み山べの雪ふりつもる夕ぐれは我が心さへけぬべくおもほゆ

國上

あしびきの國上の山に
庵していゆきかへらひ
山見れば山も見がほし
里見れば里もゆたけし
春べには花咲きををり
秋されば紅葉を手折り
ひさがたの月にかざして
あらたまの年の十とせは
すぎにけらしも

一つ松(五鈷掛松)

國上のおほとのの前の
一つ松幾世へぬらん
ちはやふる神さびたてり
あしたにはいゆきもとほり
夕べには其處に出で立ち
たちて居て見れどもあかず
一つ松はや
山かげのありその波の立ち返り見れどもあかぬ一つ松かも

國上の大殿の前の
一つ松上つ枝は
照る日をかくし中つ枝は
鳥を住ましめしづ枝は
いらかにかかり時じくぞ
霜は降れども時じくぞ
風はふけどもちはやふる
神のみよよりありけらし
あやしき松ぞ國上の松は

み林

大殿のとのゝみ山の
み林は幾世へぬらん
ちはやふる神さび立てり
そのもとに庵をしつつ
朝にはいゆきもとほり
夕べにはそこに出で立ち
立ちて居て見れどもあかぬ
これのみ林
えにしあらば又も住みなん大殿の森の下庵いたくあらすな
山かげのありその波の立ちかへり見れどもあかぬこれのみ林
おほとのの林のもとに庵しめぬ何かこの世に思ひ殘さん
大殿の林のもとを清めつつ昨日も今日も暮しつるかも
月夜にはいもねざりけり大殿の林のもとに往きかへりつつ

國上

あしびきの國上の山の
山かげの乙子の宮に
宮づかひ朝な夕なに
岩とこの苔むす道を
ふみならしい行きかへらひ
ます鏡仰ぎて見れば
み林は神さび立てり
落ち瀧津水音さやけし
そこをしもあやにともしみ
五月には山ほととぎす
をちかへり來鳴きとよもし
長月の時雨の時は
もみぢばをひきて手折りて
あらたまのあまた月日を
ここにすごしつ
露霜の秋の紅葉と時鳥いつの世にかはわれ忘れめや

國上

あしびきの國上の山の
山かげに庵をしめつつ
朝にけに岩の角道
ふみならしい行きかへらひ
ますかがみ仰ぎて見れば
み林は神さびませり
落ち瀧つ水音さやけし
そこをしもあやにともしみ
春べには花咲きたてり
五月には山時鳥
うち羽ふり來鳴きとよもし
長月の時雨の雨に
もみぢばを折りてかざして
あらたまの年の十とせを
すごしつるかも

おなじ

國上の山のふもとの
乙宮の森の木下に
庵して朝な夕なに
岩が根のこごしき道に
妻木こり谷に下りて
水を汲み一日/\と
日を送り送り/\て
いたつきは身につもれども
うつせみの人し知らねば
はひ/\て朽ちやしなまし
岩木のもとに

山かげの森の木下の
冬ごもり日毎/\に
雪ふれば往き來の人の
跡もなし岩根もり來る
苔清水そを命にて
あらたまの今年の今日も
暮れにけるかも
卯月の二十日ばかり國上より山越えに野積へ行くとて
あしびきの野積の山を
ゆくりなく我が越え來れば
をとめ等が布さらすかと
見るまでに世を卯の花の
咲くなべに山時鳥
をちかへりおのが時とや
來鳴きとよもす
時鳥鳴く聲きけばなつかしみ此の日くらしつ其の山のべに

國上の山を出づるとて

あしびきの國上の山の
山かげの森の下やに
幾年か我が住みにしを
からころもたちてし來れば
夏草の思ひしなへて
夕づつのか行きかく行き
其の庵のいかくるまでに
其の森の見えずなるまで
たまぼこの道の隅ごと
隅もおちずかへり見ぞする
其の山のべを

伊夜日子

ももつたふいやひこ山を
いや登りのぼりて見れば
高嶺にはや雲たな引き
麓には木立神さび
落ち瀧津水音さやけし
越路には山はあれども
此の山のいやますたかに
この水のたゆることなく
有りかよひいつきまつらん
伊夜日子の神

伊夜日子の森のかげ道ふみ分けて我れ來にけらしそのかげ道を

おなじ

伊夜日子の麓の木立
神さびて幾世經ぬらん
ちはやふる神さび立てり
山見れば山もたふとし
里見れば里もゆたけし
朝日のまぐはしも夕日のうらぐはしも
そこをしもあやにともしみ
宮柱ふとしく立てし
いやひこの神

伊夜日子に詣でて

ももつたふ伊夜日子山を
いや登り登りて見れば
高根にはや雲たなびき
麓には木立神さび
落ち瀧津水音さやけし
越路には山はあれども
越路には水はあれども
ここをしもうべし宮居と
定めけらしも

彌彦の椎の木

いやひこの神のみ前の
椎の木は幾代經ぬらん
神代より斯くし有るらし
ほづえには照る日を隱し
中の枝は雲をさへぎり
しづえはもいらかにかかり
ひさがたの霜はおけども
しなとべゆ風は吹けども
とこしへに神のみ代より
かくてこそ有りにけらしも
伊夜日子の神のみ前に
立てる椎の木

寺泊に飯乞ひて

こき走る鱈にも我れは
似たるかも朝には
かみに上りかげろふの
夕さり來れば下るなり

こき走る鮎にも我れは
似たるかも朝には
かみにのぼりて夕には
しもへ下りて又其のしもへ

岩室の松

岩むろの田中に立てる
ひとつ松あはれ一つ松
濡れてを立てり笠かさましを
一つ松あはれ
岩室の田中の松を今日見れば時雨の雨にぬれつつ立てり

岩室の田中に立てる
一つ松あはれ時雨の雨に
ぬれつつ立てり人にありせば
蓑きせましを笠かさましを
一つ松あはれ
行くさ來さ見れどもあかぬ岩室の田中に立てる一つ松あはれ

鹽入峠の道こしらへたるをよろこびて

越の浦角田の濱の
朝凪にいざなひて汲み
夕なぎにつれてやくてふ
鹽いりの坂はかしこし
上見れば目にも及ばず
下見れば魂もけぬべし
千里行く駒も進まず
み空行く雲もはばかる
其の坂を善けく安けく
平けくなしけん人は
如何なるや人にませかも
ちはやふる神ののりかも
み佛のつかはせるかも
ぬば玉の夜の夢かも
うつつかもかにもかくにも
言はんすべせんすべ知らに
しほいりの坂にむかひて
三たびをろがむ
しほのりの坂は名のみになりにけり行く人しぬべ萬代までに

蒼溟

わたつみは常世にあれや
天つ日を天にめぐらし
露霜を國にへだてて
香ぐはしき花は咲けども
足らはしき月はみつれど
うな潮の色はかはらず
朝はふる風のまに/\
夕はふる波を廻らし
沖の浪八重に折りしき
立つ波を沖にめぐらし
よする波ゆたにたたへて
天地と愈遠長に
神ろぎのいまししものか
うまこりのあやにあるかも
わたつみの神

天保元年五月大風の吹きし時のうた

我が宿の垣根に植ゑし
秋萩や一と本すすき
をみなへし紫苑撫子
ふぢばかま鬼の醜草
拔き捨てて水を注ぎて
日覆して育てしぬれば
たまぼこの道もなきまで
はびこりぬ朝な夕なに
行きもどりそこに出で立ち
立ちて居て秋待ち遠に
思ひしに時こそあれ
さ月の月の二十日まり
四日の夕べに大風の
きほひて吹けばあらがねの
土にのべふしひさがたの
あめにみだりて百千々に
なりにしぬれば門さして
足ずりしつついねぞしにける
いともすべなみ
てもすまに植ゑて育てし八千草は風の心に任せ たりけり

おなじうた

みそのふに植ゑし秋萩
旗すすきすみれ・たんぽぽ
合歡の花芭蕉・あさがほ
藤袴しをに・露草
わすれ草朝な夕なに
心して水を注ぎて
日おひして育てしぬれば
常よりもことにはあれと
人もいひ我れももひしを
時こそあれさ月の月の
二十日まり五日の暮の
大風の狂ひて吹けば
あらがねの土にのべふし
ひさがたの雨にみだりて
百千々にもまれにければ
あたらしと思ふものから
風のなすわざにしあれば
爲んすべもなし
我が宿に植ゑて育てし百くさは風の心に任す なりけり

月の兎

天雲のむか伏すきはみ
たにぐくのさ渡る限り
國はしもさはに有れども
里はしも數多あれども
御佛の生れます國の
あきかたの其の古の
事なりき猿と兎と
狐とが言をかはして
朝には野山にかけり
夕には林に歸り
かくしつつ年のへぬれば
ひさがたの天のみことの
きこしめし僞誠
しらさんと旅人となりて
あしびきの山行き野行き
なづみ行きをし物あらば
給へとて尾花折り伏せ
憩ひしに猿は林の
ほづえより木の實をつみて
まゐらせり狐はやなの
あたりより魚をくはへて
來りたり兎は野べを
走れども何もえせずて
有りしかばいましは心
もとなしと戒めければ
はかなしや兎うからを
たまくらく猿は柴を
折て來よ狐はそれを
焚きてたべまけのまに/\
なしつれば炎に投げて
あたら身を旅人のにへと
なしにけり旅人はこれを
見るからにしなひうらぶれ
こひまろび天を仰ぎて
よよと泣き土にたふれて
ややありて土うちたゝき
申すらくいまし三人の
友だちに勝り劣りを
いはねども我れは兎を
愛ぐしとて元の姿に
身をなしてからを抱へて
ひさがたの天つみ空を
かき分けて月の宮にぞ
葬りけるしかしよりして
つがの木のいやつぎ/\に
語りつぎ言ひつぎ來り
ひさがたの月の兎と
言ふことはそれが由にて
ありけりと聞く我れさへに
白たへの衣の袖は
とほりて濡れぬ

おなじうた

いそのかみふりにし御代に
ありといふ猿と兎と
狐とが友を結びて
あしたには野山にあそび
ゆふべには林にかへり
かくしつつ年のへぬれば
ひさがたの天の帝の
ききましてそれがまことを
しらんとて翁となりて
そがもとによろぼひ行きて
申すらくいましたぐひを
ことにして同じ心に
遊ぶてふまこと聞きしが
ごとならば翁が飢を
救へと杖を投げて
いこひしにやすきこととて
ややありて猿はうしろの
林より木の實ひろひて
來りたり狐は前の
川原より魚をくわへて
あたへたり兎はあたりに
飛びとべど何もものせで
ありければ兎は心
異なりとののしりければ
はかなしや兎はかりて
申すらく猿は柴を
刈りて來よ狐はこれを
焚きてたべいふが如くに
なしければ烟の中に
身を投げて知らぬ翁に
あたへけり翁はこれを
見るよりも心もしぬに
久がたの天をあふぎて
うち泣きて土にたふりて
ややありて胸うちたたき
申すらくいまし三人の
友だちはいづれ劣ると
なけれども兎はことに
やさしとてからを抱へて
ひさがたの月の宮にぞ
はふりける今の世までも
語りつぎ月の兎と
いふことはこれがもとにて
ありけりと聞くわれさへも
白たへの衣の袖は
とほりて濡れぬ

鉢の子

鉢の子ははしきものかも
幾年かわが持てりしを
今日道に置きてし來れば
たつらくのたづきも知らず
居るらくのすべをも知らに
刈菰の思ひみだれて
夕づつのか行きかく行き
とめ行けばここにありとて
我がもとに人はもて來ぬ
嬉しくも持て來るものか
その鉢の子を
春の野に菫つみつつ鉢の子を忘れてぞ來しあはれ鉢の子

おなじうた

鉢の子ははしきものかも
朝夕にわが身を去らず
あさなけにもたりしものを
今日よそにわすれて來れば
たつらくのたつきもしらに
居るらくのすべをも知らに
かりごもの思ひみだれて
夕づつのかゆきかくゆき
玉ぼこの道のくま%\
くまもおちずとめて行かんと
おもふ時ここにありとて
鉢の子を人はもて來ぬ
うれしくももて來しものか
よろしなべもち來しものか
その鉢の子を

おなじうた

鉢の子は愛しきものかも
今日よそに置きてし來れば
立つらくのたづきも知らず
居るらくのすべをも知らず
夏草の思ひしなえて
夕づつのか行きかく行き
ひさがたの雪はふるとも
よしゑやしあしびきの
山をも越えて尾もこえて
我がとめ行かんと思ひし折に
たまぼこの道にありとて
我がもとに人は持て來ぬ
うれしくも持ち來るものか
我れこそは主にはあらめ
その鉢の子の

おなじうた(定稿なるが如し)

鉢の子は愛しきものかも
しきたへの家出せしより
あしたにはかひなにかけて
夕べにはたなへにのせて
あらたまの年のを長く
持たりしを今日よそに
忘れて來ればたつらくの
たづきも知らず居るらくの
すべをも知らずかりこもの
思ひみだれて夕づつの
か行きかく行き谷ぐくの
さわたる底ひ天ぐもの
むかふすきはみ天地の
よりあひの限り杖つきも
つかずも行きてとめなんと
思ひし時に鉢の子は
ここにありとて我がもとに
人は持て來ぬいかなるや
人にませかもちはやふる
神ののりかもぬばたまの
夜の夢かも嬉しくも
持て來るものかよろしなべ
持ち來るものかその鉢の子を
道のべの菫つみつつ鉢の子を忘れてぞ來し其の鉢の子を
鉢の子をわれ忘るれど取る人はなし取る人はなし鉢の子あはれ

手毬をよめる(定稿なるが如し)

冬ごもり春さり來れば
飯乞ふと草の庵を
立ち出でて里にい行けば
たまぼこの道の巷に
子供らが今を春べと
手まりつくひふみよいむな
汝がつけば吾はうたひ
あがつけばなは歌ひ
つきて歌ひて霞立つ
長き春日を暮しつるかも
霞立つ長き春日を子供らと手まりつきつつ今日もくらしつ

おなじうた

あづさ弓春さり來れば
飯乞ふと里にい行けば
里子ども道の巷に
手まりつく我れも交じりぬ
そが中にひふみよいむな
汝がつけば吾はうたひ
あが歌へばなはつきて
つきて歌ひて霞たつ
長き春日をくらしつるかも
霞立つ長き春日を子供らと手まりつきつつ此の日暮しつ

由之老

しきしまの大和の國は
いにしへゆ言あげせぬ國
しかれども我れはことあげす
すぎし夏弟のたまひし
つくり皮いや遠白く
栲のほにありにし皮や
我が家の寶とおもひ
行くときは負ひてもたらし
寝る時は衾となして
つかの間も我が身を去らず
持たりせど奇しきしるしも
いちじろく有らざりければ
此の度は深くかうがへ
こと更に夜の衣の
上にして床にひきはへ
其の上に我が肌つけて
臥しぬれば夜はすがらに
うまいしてほのり/\と
ま冬月春日にむかふ
心地こそすれ
何をもてこたへてよけむたまきはる命にむかふこれのたまもの
しかりとももだにたえねば言あげす勝ちさびをすな我が弟の君

おなじ

この夜らのいつかあけなむ
この夜らの明けはなれなば
をみな來てはりを洗はん
こひまろびあかしかねけり
長きこの夜を

年のはてによみて有則におくる

野積のやみ寺の園の
梅の木を根こじにせんと
かぎろひの夕さり來れば
岩が根のこごしき道を
ふみ分けて辿り/\に
しぬびつつ垣根に立てば
人の見て盗人なりと
呼ばはればおのも/\に
しもととり鐘打ちならし
あしびきの山とよもして
集ひ來ぬしかしよりして
みな人に花盗人と
よばれたる君にはあれど
いつしかも年のへぬれば
篠原のしげきがを屋に
夜もすがら八つかの髯を
かい撫でておはすらんかも
此の月ごろは

おなじ

つぬさ生ふ岩坂山の
山かげのみ寺の梅を
三日月のほの見てしより
さねこじの根こじにせんと
霞立つ長き春日を
しぬびかね夕さり來れば
あぢむらの村里出でて
はたすすき大野をこえて
千鳥なく磯べをすぎて
ま木たてる荒山さして
岩が根のこごしき道を
ふみさくみ辿り/\に
しぬびつつみ垣に立てば
人の見てそよやといへば
下部らはおのがまに/\
手をあかち鐘うちならし
あしびきのみ山もさやに
笹の葉の露をおしなみ
呼び立てて道もなきまで
圍みけりしかしよりして
世の中に花盗人と
名のらへし君にはませど
いつしかも年のへぬれば
小山田の山田守るやの
葦の屋の伏せやがもとに
夜もすがらやつかのひげを
かいなでておはすらんかも
この月ごろは
あらたまの年は消えゆき年はへぬ花ぬす人は昔となりぬ

おなじ 題又山寺梅

つぬさはふ岩坂山の
山越えにみ寺の梅を
垣越しにほの見てしより
さねこじの根こじにせんと
むらぎもの心にかけて
霞立つ長き春日を
忍びかね夕さり來れば
からにしき里たち出でて
はたすすき大野をすぎて
千鳥なく濱べをとほり
ま木立てる荒山こえて
岩が根のこごしき道を
ふみさくみ辿り/\に
忍びつつうら門まはり
大寺の垣根に立てば
寺守のこや盗人と
呼ばはれば里に聞えて
里人はおのも/\に
手をあかちしもとをとりて
あしびきのみ山もさやに
笹の葉の露をおしなみ
たまぼこの道もなきまで
かくみつつ然しよりして
天が下に花盗人と
名のらへし君にはませど
うつせみの世のことなれば
いつしかも年のへぬれば
葦の屋のふせ屋がもとに
夜もすがら八つかのひげを
かいなでておはすらんかも
この月ごろは
まらたまの年はきえ行き年はへぬ花ぬす人はむかしとなりぬ

○ (定珍におくりし歌)

わが宿のもみぢを見にと
ちぎりてし君もや來ると
この頃はたちて見居て見
わが待てど君は來ずけり
あさなさな霜はおくなり
よひ/\に雨はふるなり
時じくも風さへ吹けば
殘りなく散りもすぎなん
散りすぎばいかに我がせん
散りもせず色も變らぬ
もみぢばのありてふことは
ちはやふる神代もきかず
うつせみの人もかたらず
もろこしのふみにも見えず
そこおもへばかにもかくにも
すべをなみ折りてけるかも
宿のもみぢを
わが園のかたへの紅葉誰れまつと色さへそまず霜はおけども
露霜にやしほ染めたる紅葉ばを折りてけるかも君まちがてに

橘左門老

こよろぎの磯の便に
我がひさにほりしたまだれの
をすの子がめをあひえてしかも

定珍がもとにて

彼方には紅葉を瓶にさし
此方にはもみぢを紙にすり
もみぢの歌を讀みあうて
秋のなごりはこの宿にせん

おなじ

あしびきの山のたをりの
紅葉ばを我がぬれつゝも
君がみためとたをり來し我が
あしびきの山のたをりのもみぢばをたをりてぞ來し雨のはれまに

鉢坊主

鉢たがき鉢たがき
昔も今も鉢たがき
鉢たがき鉢たがき
鉢たがき鉢をたがいて
日を暮らせ

たがやのこつを見て讀める

たがやさんたがやさん
色もたへなりたがやさん
あやにたへなりたがやさん
肌もいとうるはしたがやさん
たがやさんたがやさん
たがやさんにはなほしかずけり

人にかはりて

二十日講のこむなさか
塗物ただはくるるとも
おらいやよ漆地ほしぬらひくは
投げはけのたつたひとはけ

大雅堂畫贊

けさよりは一つ谷より
出て來たが牝獅子を
霧にかくされて一とむら薄
わけて尋ねん

題妓女初君圖畫

越のうらのあまをとめ等が
やく鹽のしほなれ衣
なれにける君がみこと
大君のみことかしこみ
うつ木綿の佐渡にい行くと
はしきやし妹をわかれて
朝びらきま梶しじぬき
大海にみふねをうけて
はる%\とへつべをさかり
いや遠に沖べにさかり
かくばかりい別れ行けば
こしの浦の波にひづちて
こひまろびまねくとすれど
歸るべき由しなければ
すべをなみ妹がふり袖
君に見えきや

うつせみのかりのうき世は
ありてなきものともへこそ
白たへの衣にかふる
ぬばだまの髮をもおろす
しかしより天つみ空に
ゐる雲のあとも定めず
行く水のそことも言はず
うち日さす宮も藁屋も
はてぞなきよけくもあれ
あしけくもあらばありなん
思ひしみのなぞもかく
思ひしやまぬ我が思
人知るらめや此の心
誰れにかたらん語るとも
言ふともつきぬありそみは
深しといへど高山は
高くしあれど時しあれば
つくることしありといふものを
かにもかくにもつきせぬものは
我が思はも
世の中に門さしたりと見ゆれどもなどか思のたゆることなき

はふつたの別れてしより
ぬばたまの夢にも見えず
たまづさの使も來ねば
立ちて見て居て見て見れど
すべをなみ庵を出でて
見渡せば五百重山
千重に雪ふり雲かくり
袖さへひぢて慰むる
心はなくにかへり來て
ねやにこもりて

こしなるや松の山べの
をとめごが母に別れて
忍びずて逢ひ見んことを
むらぎもの心にもちて
あらたまの年の三とせを
すぐせしがしはすの暮に
市に出でもの買ふ時に
ます鏡手にとり見れば
汝が面の母に似たれば
母とじは母にますかと
よろこびています日のごと
こととひて有りの限りの
價もて買うて返りて
あさなけに見つつしぬぶと
きくがともしさ

ひさがたの雪かきわけて
さすたけの君がほりけん
さ百合根のさゆりねの
其のさゆりねのあやにうまさよ

ときは木のときはかきはに
ましませと君がほぎつる
とよ御酒に我れ醉ひにけり
そのとよみきに

夜や寒き衣やうすき
墨の音閨の文
一筆染めて顏あげて
昨日は恨み今日は又
戀し床しきとり%\の
何からさきへあゝ辛氣

今も昔もうそもまことも
晴れやらぬ峰のうす雲
立ち去りて後の光と
思はずや君