University of Virginia Library

5.4. 情はあちらこちらの違ひ

我そも/\出家せし時女色の道はふつとおもひ切し仏願也され共心中に美道前髪 の事はやめがたし是ばかりはゆるし給へと其時より諸仏に御斷申せしなれば今又とが めける人をももたずふびんと是迄御尋有し御情からはすゑ%\見捨給ふななどたはふ れけるにおまんこそぐるほどをかしく自ふともゝひねりて胸をさすり我いふ事も聞し めしわけられよ御かたさまの昔を忍び今此法師姿をなほいとしくてかく迄心をなやみ 戀に身を捨ければ是よりして後脇に若衆のちなみは思ひもよらず我いふ事は御心にそ まずとも背給ふまじとの御誓文のうへにてとてもの事に二世迄の契といへば源五兵衞 入道おろかなる誓紙をかためて此うへはげんぞくしても此君の事ならばといへる言葉 の下より

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息づかいあらく成て、袖口より手をさし込、肌にさはり、 下帯のあらざらん事を
不思義なる皃つき又をかし其後鼻紙入より何か取出して 口に入てかみしたし給ふ程に、何し給ふといへば此入道赤面して其まゝかくしける
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是なん衆道にねり木といふ物なるべし。おまんなをおかしくて、 袖ふりきりてふしければ、入道衣ぬぎ捨、足にて片隅へかいやりてぬれかけしは、我 も人も餘念なき事ぞかし。中幅のうしろ帯ときかけて、
此所は里にかはりて嵐 はげしきにともめんの大袖をうち掛
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是をと手枕の夢法師、寐もせ ぬうちにしやうねはなかりき。おづ/\手を背にまはして、「いまだ灸もあそばさぬ やら、更に御身にさはりなき」と、腰よりそこ/\に手をやる時、おまんもきみあし かりき。折ふしを見合せ、空ねいりすれば、入道せき心になつて耳をいらふ。おまん かたあしもたせば、ひぢりめんのふたの物に肝をつぶして
氣を付て見る程皃ば せやはらかにして女めきしに入道あきれはてゝしばしは詞もなく起出るを引とゞめさ い前申かはせしは自がいふ事ならば何にてもそむき給ふまじとの御事をはやくもわす れさせ給ふか我事琉球屋のおまんといへる女なり過し年數/\のかよはせ文つれなく も御返事さへましまさずうらみある身にもいとしさやるかたもなくかやうに身をやつ して爰にたづねしはそもやにくかるべき御事かと戀の只中もつてまゐれば入道俄にわ けもなうなつて男色女色のへだてはなき物とあさましく取みだして移氣の世や心の外 なる道心源五兵衞にかきらず皆是なるべしおもへばいやのならぬおとしあな釋迦も片 あし踏込たまふべし

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This part was circles in the Saikaku Zenshu published from Hakubunkan. It has been added to the etext from the Nihon Koten Bungaku Taikei.
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This part was circles in the Saikaku Zenshu published from Hakubunkan. It has been added to the etext from the Nihon Koten Bungaku Taikei.
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