1.3. 太鞁による獅子舞
尾上の櫻咲て人の妻のやうす自慢色ある娘は母の親ひけらかして花は見ずに見ら
れに行は今の世の人心なり菟角女は化物姫路の於佐賀部狐もかへつて眉毛よまるべし
但島屋の一家春の野あそびとて女中駕籠つらせて跡より清十郎萬の見集に遣しける高
砂會禰の松も若緑立て砂濱の氣色又有まじき詠ぞかし里の童子さらへ手毎に落葉かき
のけ松露の春子を取などすみれつばなをぬきしやそれめつらしく我もとり%\の若草
すこしうすかりき所に花筵毛氈しかせて海原静に夕日紅人/\の袖をあらそひ外の花
見衆も藤山吹はなんともおもはず是なる小袖幕の内ゆかしく覗おくれて歸らん事を忘
れ樽の口を明て醉は人間のたのしみ萬事なげやりて此女中をけふの肴とてたんとうれ
しがりぬこなたには女酒盛男とては清十郎ばかり下/\天目呑に思ひ出申て夢を胡蝶
にまけず廣野を我物にして息杖ながくたのしみ前後もしらず有ける其折から人むら立
て曲太鞁大神樂のきたりおの/\のあそび所を見掛獅子がしらの身ぶり扨も/\仕く
みて皆/\立こぞりて女は物見だけくて只何事をもわすれひたもの所望/\とやむ事
ををしみけり此獅子舞もひとつ所をさらず美曲の有程はつくしけるおなつは見ずして
独幕に殘て虫齒のいたむなどすこしなやむ風情に袖枕取乱して帯はしやらほどけを其
まゝにあまたのぬぎ替小袖をつみかさねたる物陰にうつゝなき空鼾心にくしかゝる時
はや業の首尾もがなと氣のつく事町女房はまたあるまじき帥さま也清十郎おなつばか
り殘りおはしけるにこゝろを付松むら/\としげき後道よりまはりければおなつまね
きて結髪の
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ほどくるもかまはず、物もいはず、兩人鼻息せはしく、
胸ばかりおどらして、
幕の人見より目をはなさず兄娵こはく跡のかたへは心も
つかず起さまにみれば柴人壹荷をおろして鎌を握しめふんどしうごかしあれはといふ
やうなる皃つきしてこゝちよげに見て居ともしらず誠にかしらかくしてや尻とかや此
の此獅子舞清十郎幕の中より出しをみてかんじんのおもしろい半にてやめけるを見物
興覺て殘り多き事山/\に霞ふかく夕日かたふけば萬を仕舞て姫路にかへるおもひな
しかはやおなつ
清十郎跡にさかり
て獅子舞の役人にけふはお影/\といへるを聞ば此大神樂は作り物にして手くだの爲
に出しけるとはかしこき神もしらせ給ふまじましてやはしり智惠なる兄娵なんどが何
としてしるべし
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In the Hakubunkan copy-text this phrase was replaced by circles. The phrase has been added to this etext from the standard text in the
Nihon Koten Bungaku Taikei. (Tokyo: Iwanami Shoten, 1957), vol. 47
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Nihon Koten Bungaku Taikei. (Tokyo: Iwanami Shoten, 1957), vol. 47.