○ (定珍におくりし歌)
わが宿のもみぢを見にと
ちぎりてし君もや來ると
この頃はたちて見居て見
わが待てど君は來ずけり
あさなさな霜はおくなり
よひ/\に雨はふるなり
時じくも風さへ吹けば
殘りなく散りもすぎなん
散りすぎばいかに我がせん
散りもせず色も變らぬ
もみぢばのありてふことは
ちはやふる神代もきかず
うつせみの人もかたらず
もろこしのふみにも見えず
そこおもへばかにもかくにも
すべをなみ折りてけるかも
宿のもみぢを
わが園のかたへの紅葉誰れまつと色さへそまず霜はおけども
露霜にやしほ染めたる紅葉ばを折りてけるかも君まちがてに