University of Virginia Library

おなじうた(定稿なるが如し)

鉢の子は愛しきものかも
しきたへの家出せしより
あしたにはかひなにかけて
夕べにはたなへにのせて
あらたまの年のを長く
持たりしを今日よそに
忘れて來ればたつらくの
たづきも知らず居るらくの
すべをも知らずかりこもの
思ひみだれて夕づつの
か行きかく行き谷ぐくの
さわたる底ひ天ぐもの
むかふすきはみ天地の
よりあひの限り杖つきも
つかずも行きてとめなんと
思ひし時に鉢の子は
ここにありとて我がもとに
人は持て來ぬいかなるや
人にませかもちはやふる
神ののりかもぬばたまの
夜の夢かも嬉しくも
持て來るものかよろしなべ
持ち來るものかその鉢の子を
道のべの菫つみつつ鉢の子を忘れてぞ來し其の鉢の子を
鉢の子をわれ忘るれど取る人はなし取る人はなし鉢の子あはれ