University of Virginia Library

おなじうた

いそのかみふりにし御代に
ありといふ猿と兎と
狐とが友を結びて
あしたには野山にあそび
ゆふべには林にかへり
かくしつつ年のへぬれば
ひさがたの天の帝の
ききましてそれがまことを
しらんとて翁となりて
そがもとによろぼひ行きて
申すらくいましたぐひを
ことにして同じ心に
遊ぶてふまこと聞きしが
ごとならば翁が飢を
救へと杖を投げて
いこひしにやすきこととて
ややありて猿はうしろの
林より木の實ひろひて
來りたり狐は前の
川原より魚をくわへて
あたへたり兎はあたりに
飛びとべど何もものせで
ありければ兎は心
異なりとののしりければ
はかなしや兎はかりて
申すらく猿は柴を
刈りて來よ狐はこれを
焚きてたべいふが如くに
なしければ烟の中に
身を投げて知らぬ翁に
あたへけり翁はこれを
見るよりも心もしぬに
久がたの天をあふぎて
うち泣きて土にたふりて
ややありて胸うちたたき
申すらくいまし三人の
友だちはいづれ劣ると
なけれども兎はことに
やさしとてからを抱へて
ひさがたの月の宮にぞ
はふりける今の世までも
語りつぎ月の兎と
いふことはこれがもとにて
ありけりと聞くわれさへも
白たへの衣の袖は
とほりて濡れぬ